作品タイトル不明
【別視点】文化祭への招待
【ヴァーテッド王国】
「ようやく来たぞ。フィディック学院の文化祭の知らせだ」
ミドルトンが書状を片手に広間を見回しながら告げる。すると、窓際で軽装のドレスを着用したレアが顔を上げた。周りには四人の女性がそれぞれドレスを着て紅茶を楽しんでいる。
「文化祭のお知らせですか?」
「まぁ、素敵ですね」
「毎年楽しみにしていますの」
三十歳前後に見える女性達がミドルトンの言葉にレアより先に反応を示した。
「おお、これは失礼。まさかこれほど美しい花々が優雅なひと時を過ごしていたとは……文化祭を楽しみにしていた妃に出来るだけ早く知らせを届けようと焦ってしまったようだ」
「まぁ! 陛下はなんて御優しいのでしょう!」
「レア様はこんなに愛されて……本当に幸せでいらっしゃいますね」
ミドルトンが礼儀を失してしまったと反省の弁を述べると、女性陣はレアを見て騒ぎ立てる。それに苦笑をして、レアはミドルトンから書状を受け取った。
「本当に私は幸せ者ですね。それで、文化祭の日程は……一ヶ月後? あら? 普段ならもう半月後には開催されていたように思いますが……」
レアがそう呟くと、周りの淑女たちがすぐに同意を示す。
「本当ですわね」
「なぜ日時が遅れたのでしょう?」
疑問を口にする女性達に、一人の女性が笑みを浮かべた。
「皆様、今のフィディック学院には凄い教員の方がいらっしゃるのをご存じ?」
情報通ぶる女性に、周りの女性は目を細める。
「もちろんですわ。アオイ・コーノミナト先生でしょう?」
「全ての属性で上級以上の魔術を使えるという方ですわよね?」
「グレン学長の再来と呼ばれていると聞きました」
その反応に、最初に話を振った女性は面白くなさそうに口を尖らせる。
「皆様、お耳が早いこと……噂によると、そのアオイ先生という方は不可能とされた魔術を幾つも使えるようですわ。もしかしたら、今回の文化祭はそのアオイ先生の手によって例年以上の規模で開催されるのかもしれませんわ!」
「まぁ!」
「それは凄いですわね!」
女性達はそんな推測をして騒ぎ、ミドルトンとレアを見た。二人は苦笑しつつ、揃って頷く。
「アオイ殿には我々も会ったが、確かに凄い魔術師であったな」
「ええ。多分、グレン学長と同等の魔術師でしょうね。我々もアオイ先生がどんな魔術を披露してくれるのか、楽しみにしているのですよ」
ミドルトンとレアが肯定すると、四人は興奮した面持ちで歓声を上げた。それぞれ、公爵や侯爵の第一、第二夫人ばかりということもあり、この噂は瞬く間に王国内の貴族たちの耳に入ることとなるのだった。
【コート・ハイランド連邦国】
文化祭の書状が届いたと報告が入り、毎週行われている定例会には全員が出席していた。円卓を囲むようにして十人の男女が顔を向かい合わせる。
最も奥にいる髭を生やした朱色の髪の男が皆を見回し、口を開いた。
「さて、次の議題だ。いつもより少々遅くなったが、フィディック学院より文化祭開催の知らせを受けた。日程は約一カ月後となる。例年通りならば連邦より参加するのは代表五名とその家族だが、希望者は?」
男がそう告げると、全員が挙手をする。それには皆が顔を見合わせた。
「……貴殿はいつもなら参加しないではないか」
「いや、そちらも同様だろう」
「ご子息が学院に通っているバトラー殿はともかく、何故今回に限ってこんなに希望者がいるのだ」
皆が牽制し合うように言い合いを始める。それに溜め息を吐き、朱色の髪の男が口を開いた。
「……埒が明かない為、正直に話そうではないか。学院に現れたという天才魔術師の噂を聞いたのだろう?」
誰にともなく朱色の髪の男がそう尋ねると、皆が押し黙って男の方を見た。それに溜め息を吐き、男は首を左右に振る。
「その噂は私の耳にも既に入っている。しかし、言っておくがその教員を自分の部下に、などと考えても無駄だろう。なにせ、その教員の目標は全ての国の魔術の水準を強制的に引き上げることらしいからな。各国を順番に回るつもりらしい故、いずれはこの国にも来るだろう。文化祭に行くなら行くでも構わんが、下手な勧誘はしないように頼む」
男がそう言うと、何人かが反応を示す。
「バトラー殿は良いだろうな。ご子息がその教員の生徒になって講義を受けていると聞くぞ」
「我が子がその講義を受けることが出来るまで待てというのか?」
「その教員を連邦国に引き入れることは出来ないのか?」
各々が意見を口にしだすと、バトラーと呼ばれた朱色の髪の男は深く溜め息を吐く。
「……それほど行きたいのであれば、今回は出来るだけ多くの者が行けるように調整を行うとしよう。実際に行って確認をしてみれば良い。だが、最低で二人は残ってもらわねばならんからな」
バトラーがそう告げると、途端に円卓を囲む男女が言い合いを始めた。
まとまりなど一切感じないその光景に、バトラーは一人深く溜め息を吐いたのだった。