軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第116話 並び立つ覚悟

夜の王城は静かだった。

昼間の喧騒が嘘のように消え、

長い廊下には足音だけが響く。

私は呼び出されていた。

差出人は明確。

皇子。

扉の前で一度立ち止まる。

理由は分かっている。

これはただの呼び出しではない。

「……決着ね」

小さく呟き、扉を叩く。

「入れ」

短い声。

中に入る。

執務室。

広く、整然としている。

そしてその中央に――

皇子が立っていた。

窓際。

月明かりを背に。

「来たか」

振り返る。

その目は、いつもと変わらない。

だが。

どこか決定的に違う。

「用件は分かっています」

私は先に言う。

無駄な前置きは不要。

皇子は一瞬だけ沈黙する。

そして。

「なら話は早い」

一歩、こちらへ歩み寄る。

「レスティーナ」

名を呼ばれる。

それだけで、空気が変わる。

「お前を、皇妃に迎えたい」

――直球だった。

予想通り。

だが。

それでも。

重い。

沈黙が落ちる。

私はすぐには答えない。

「理由は三つある」

皇子が続ける。

「一つ」

「能力」

「お前はこの国を安定させた」

「統治において、これ以上の人材はいない」

「二つ」

「立場」

「グランテ公爵家」

「王家に並ぶに足る家格」

「そして三つ」

一瞬、言葉が止まる。

「……個人的な感情だ」

私は目を細める。

皇子は真っ直ぐこちらを見る。

逃げない。

逸らさない。

「お前を、隣に置きたい」

静寂。

それは政治でも、義務でもない。

純粋な意思。

私はゆっくりと息を吐く。

「……断る理由も、あります」

皇子の眉がわずかに動く。

「聞こう」

「皇妃は“支える者”です」

私は言う。

「ですが私は、支えるだけでは終わりません」

視線を合わせる。

「統治に関与します」

「決定にも関わります」

「必要なら、あなたと対立します」

それは。

従順な妃ではない。

「それでも?」

問い。

皇子は一瞬も迷わない。

「望むところだ」

即答。

「むしろその方がいい」

口元がわずかに緩む。

「一人で背負うつもりはない」

「並べるなら、並びたい」

その言葉。

私は目を閉じる。

考える。

ほんの数秒。

だが。

それで十分。

目を開ける。

答えは決まっている。

「条件があります」

皇子が頷く。

「言え」

「私は、私のやり方を貫きます」

「商会も、領地も、手放しません」

「国家に必要なら、容赦なく動きます」

そして。

「“飾り”にはなりません」

完全な宣言。

皇子はしばらく沈黙する。

そして。

「それでいい」

「いや」

一歩近づく。

「それがいい」

その瞬間。

すべてが決まる。

私は軽く息を吐く。

そして。

「……分かりました」

静かに頭を下げる。

「その申し出、受けます」

沈黙。

次の瞬間。

空気が変わる。

これは求婚ではない。

契約でもない。

「決定」

皇子が手を差し出す。

私はそれを見る。

一瞬だけ。

そして。

その手を取る。

「これで」

皇子が言う。

「俺たちは同じ側だ」

私は小さく頷く。

「最初からです」

その言葉に、皇子は笑った。

数日後。

帝都に発表がなされる。

皇太子と、グランテ公爵令嬢レスティーナの婚約。

衝撃は一瞬で広がる。

だが。

否定はない。

誰もが理解しているから。

この国を支える二人だと。

王城。

バルコニー。

人々が集まる。

歓声。

期待。

私は隣に立つ。

皇子と並んで。

下を見下ろす。

広がる帝都。

人。

生活。

未来。

「……重いですね」

小さく呟く。

皇子が答える。

「当然だ」

そして。

「だが、一人じゃない」

私はわずかに笑う。

「ええ」

その通りだ。

もう、一人ではない。

私は前を向く。

グランテ公爵令嬢として。

そして。

未来の皇妃として。

この国を。

支え、動かし、守る。

それが。

私の選んだ道。

歓声が響く。

空に広がる。

物語は終わる。

だが。

未来は続く。

並び立つ二人と共に。