軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第115話 母が戴く冠、娘が背負う未来

帝都は、ようやく静けさを取り戻していた。

あの一連の粛清から数日。

人々の表情には安堵が戻り、

貴族社会もまた、表面上は落ち着きを見せている。

だが――

「……届いたわね」

静かな声が、執務室に落ちた。

私は顔を上げる。

そこにいるのは、グランテ家当主。

セレスティア・フォン・グランテ。

私の母であり――

この家の、絶対の中心。

母の手には、王城からの正式書状。

すでに封は切られている。

つまり。

「内容は確認済み、ということですね」

「ええ」

母は短く頷く。

その表情は、いつもと変わらない。

穏やかで、静かで。

だが。

ほんの僅かにだけ。

“重さ”があった。

「読みなさい」

差し出される書状。

私はそれを受け取り、目を通す。

――グランテ伯爵家を、公爵家へと陞爵する。

文字は簡潔。

だが。

その意味は、あまりにも重い。

「……公爵」

思わず、声が漏れる。

伯爵ですら高位。

だが公爵は別格。

王家に最も近く、

国家の中枢に座す者。

それは。

「権力」ではなく。

「責任」の象徴。

「断る余地はないわ」

母が静かに言う。

「ええ」

これは選択ではない。

国家の意思。

そして。

義務。

母は椅子に腰掛ける。

指先を軽く組み、私を見る。

「理由は分かる?」

試すような問い。

「国家安定への貢献」

「それだけ?」

「……統治能力の評価」

母はわずかに微笑む。

「半分正解ね」

「残りは?」

問い返す。

母は一瞬だけ視線を窓の外へ向ける。

そして。

「“任せるしかない”からよ」

沈黙。

その言葉の意味は重い。

信頼ではない。

依存でもない。

「必要性」

「この国は、あの混乱を経て弱っている」

母は続ける。

「だからこそ、確実に支えられる柱が必要」

その柱の一つとして。

グランテ家が選ばれた。

「……重いですね」

正直な感想。

母は静かに頷く。

「ええ。とても」

だが。

そこで終わらない。

「だからこそ、価値があるの」

その一言。

数日後。

帝都に発表がなされる。

グランテ伯爵家、公爵へ陞爵。

反応は瞬時に広がった。

「当然だ」

「いや、急すぎる」

「だが他に誰がいる?」

評価は分かれる。

だが共通しているのは。

「無視できない」

それだけ。

叙爵式。

王城・大広間。

再びこの場に立つ。

だが今回は。

裁きではない。

授与。

「グランテ伯爵家当主、セレスティア・フォン・グランテ」

名が呼ばれる。

母が前へ進む。

背筋は伸び、歩みは揺るがない。

その姿を見て、私は理解する。

この人は。

最初から“公爵に相応しい”のだと。

皇子が前に立つ。

視線が交わる。

一瞬。

だが確かな意志の交換。

「国家への多大なる貢献を認め」

声が広間に響く。

「ここに、公爵位を授ける」

証。

象徴。

それが母の手に渡る。

その瞬間。

グランテ家は変わる。

完全に。

拍手が広がる。

だがそれは祝福だけではない。

測定。

警戒。

牽制。

すべてが混ざった音。

式が終わる。

人の流れが動き出す。

だが。

その中で。

明確に“中心”ができていた。

グランテ公爵家。

母が戻ってくる。

「……終わったわね」

その声は変わらない。

だが。

背負うものは、確実に増えている。

「おめでとうございます」

私は頭を下げる。

母は小さく首を振る。

「まだよ」

「これは始まり」

静かな断言。

「公爵は“完成”じゃない」

「“責務の入口”よ」

私は頷く。

同意しかない。

そのとき。

皇子が近づく。

周囲が自然と距離を取る。

「グランテ公爵」

母に向けての呼びかけ。

すでに“伯爵”ではない。

「今後とも、国家を支えてもらう」

母は一歩前に出る。

優雅に、だが一切の隙なく。

「当然の務めにございます」

完璧な返答。

皇子の視線が、次に私へ向く。

ほんの一瞬。

だが。

意味は十分。

私は軽く頭を下げる。

言葉は不要。

広間を出る。

空気が変わる。

もう戻れない。

「……どう感じた?」

母が問う。

私は少し考える。

そして。

「重いです」

正直に答える。

母は静かに笑う。

「ええ」

「だからこそ、支えなさい」

その言葉。

命令ではない。

信頼。

私は頷く。

「はい」

空を見上げる。

変わらない空。

だが。

自分の立場は変わった。

グランテ公爵家。

その娘として。

そして――

未来を担う者として。

私は歩き出す。