作品タイトル不明
第117話 二つの玉座、ひとつの意思
即位の日。
帝都は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
王城の鐘が鳴り響き、
広場には人が溢れ、
そのすべてが一つの瞬間を見届けようとしている。
◇
玉座の間。
重厚な扉が開かれる。
視線が一斉に向けられる中、私は歩みを進める。
隣には――
皇帝。
かつて“皇子”と呼ばれていた存在。
そして今。
この国の頂点に立つ者。
◇
私はその一歩後ろではなく。
「隣」に立つ。
それが、私の立場。
皇妃。
だがそれは飾りではない。
◇
「……始まるな」
小さく呟く声。
皇帝のものだ。
私はわずかに頷く。
「ええ」
◇
儀式は厳かに進む。
宣誓。
戴冠。
そして。
国の未来を背負う者としての覚悟が、形式として刻まれていく。
◇
だが。
本当の意味での“即位”は。
この後だ。
◇
数日後。
最初の政務会議。
皇帝即位後の初会合。
◇
円卓に並ぶのは、帝国の中枢。
宰相。
将軍。
財務官。
そして有力貴族。
◇
その中心。
皇帝と――
私。
◇
「では始める」
皇帝の一言で、会議が動き出す。
◇
最初の議題。
「戦後処理」
◇
スー公爵家の粛清により空白となった権力層。
それをどう再編するか。
◇
「新たな公爵家の選定を」
宰相が言う。
だが。
私は即座に否定する。
「不要です」
◇
視線が集まる。
◇
「権力の集中は、再び歪みを生みます」
「分散と監視体制の構築を優先すべきです」
◇
「しかし前例が――」
◇
「前例が国を救いましたか?」
遮る。
◇
沈黙。
◇
皇帝が口を開く。
「皇妃の案を採用する」
即断。
◇
異論は出ない。
出せない。
なぜなら。
それが“正しい”と理解しているから。
◇
次の議題。
「経済再編」
◇
私は資料を広げる。
「北方領・南方都市・帝都」
「三拠点連携による流通の最適化を提案します」
◇
商会。
領地。
すべてが繋がる。
◇
「既存の商人たちの反発が予想されます」
◇
「ならば利益を提示します」
即答。
◇
「独占ではなく拡大」
「全体の利益を増やせば、抵抗は減ります」
◇
皇帝が頷く。
「進めろ」
◇
会議は続く。
軍備。
教育。
法整備。
すべてにおいて。
私は発言する。
そして。
皇帝は判断する。
◇
それは上下ではない。
役割分担。
◇
会議終了後。
人が去り、静寂が戻る。
◇
「……容赦ないな」
皇帝が言う。
◇
私は肩をすくめる。
「必要なだけです」
◇
皇帝は小さく笑う。
「助かる」
◇
短い言葉。
だが。
信頼がある。
◇
数ヶ月後。
帝国は変わり始めていた。
◇
貴族の権力は再編され、
経済は安定し、
地方と中央の連携も強化される。
◇
「……順調ですね」
私は報告書を閉じる。
◇
皇帝は頷く。
「お前のおかげだ」
◇
私は首を振る。
「違います」
◇
「“二人”だからです」
◇
沈黙。
そして。
皇帝は静かに笑った。
◇
夜。
王城のバルコニー。
◇
帝都の灯りが広がる。
無数の命。
無数の生活。
◇
「……守れているな」
皇帝の声。
◇
私は頷く。
「ええ」
◇
そして。
少しだけ、視線を横に向ける。
◇
隣にいる。
同じ高さで。
同じ景色を見ている。
◇
それがすべて。
◇
「これからも忙しくなるぞ」
皇帝が言う。
◇
「望むところです」
即答。
◇
短い沈黙。
◇
「……後悔はないか?」
ふとした問い。
◇
私は少しだけ考える。
そして。
◇
「ありません」
◇
選んだ道。
選んだ立場。
そして。
選んだ相手。
◇
すべて、自分の意思。
◇
だから。
迷いはない。
◇
風が吹く。
帝都の灯りが揺れる。
◇
物語は終わっていない。
むしろ。
ここからが本番。
◇
だが。
それでいい。
◇
私は前を向く。
皇妃として。
統治者として。
◇
そして。
隣に立つ者と共に。
◇
この国を、未来へ導くために。