軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対シロ戦 後編

シロが神格化した事を証明するように、元々白い部分が大半を占めていた髪の色が真っ黒へと変わり、浮かべる笑みも、まるで人格が壊れたかのような笑みに見えた。

瞬間、俺は頬を殴られる衝撃と共に壁へと吹っ飛んだ。

壁に打ちつけた背中に痛みは感じないが、殴られた頬からは痛みが走り、少し口の中を切ってしまう。

口の中に溜まった血をもごもごと集めて、ぺっと吐き出す。

久し振りに感じる痛みに少々驚いてしまった。

デタラメなステータスになってからは、痛みなんて感じた事は無かった……でも、そう言えば痛いってこうだったなぁ……と思っている内に、再びシロが俺の目の前へと現れる。

「呆けてる暇あるのかな?」

ギリギリ見えたシロのアッパーで俺は天井へと飛ばされ、そのまま真下から追撃の拳が俺の腹へとめり込み、天井に大きなヒビを作る。

そしてシロは俺の服を掴み、地面へと叩きつけた。

「ぐぅっ……」

「ほらほら、どうしたの?もう終わり?このままじゃ死んじゃうよ?」

「言われなくても……」

体に走る痛みを無理矢理抑え込み、俺も神格化を発動させる。

「やってやるよ!!」

神格化した俺は即座に起き上り、シロへと殴りかかる。

シロは相変わらずの笑みを浮かべたまま、俺を拳を受け止め、カウンターのように拳を放つが、俺がその拳を受け止めると、拮抗状態になった。

「ぐぎぎぎ……」

「あははは……」

いい加減……その笑みがムカツクんだよ!!

俺はシロをぐいっと引き寄せると、頭突きを喰らわし、よろけた隙に蹴り飛ばす。

シロは飛ばされながらも、空中で態勢を立て直すと、見事に着地した。

「あははは!!さすがワズ君!!強い強い!!でも……どうやら神格化した時のステータスの上昇幅は僕の方が高いみたいだね?」

シロのその言葉に俺も心の中で同感した。

お互いに神格化した状態で相対したのは僅かの間だけだが、それでも分かる事がある。

シロの言う通り、俺の方がほんの少しではあるが弱い……神格が低いとでも言えばいいのか、シロの方が格上に感じるのが事実だ。

「……ちっ」

「なんでだろうねぇ?」

「知るかよっ!!」

瞬時にシロの傍へと移動するが、俺の動きが見えているのか、俺の拳が届く前にシロの拳が俺を殴り飛ばした。

そのまま先程と同じように壁へと背中を打ちつける。

「あれ?本当に分からないの?じゃあ、教えてあげるよ。僕とワズ君の違いは完全に神格化してるか、してないかの違いでしかないんだよ!!覚悟が足りないんじゃない?そんなに人という殻に未練があるの?何をそんなにこだわってるの?もっと誇っていいんじゃないかな?僕達は神に選ばれたんだからさぁ!!」

……あぁ、なるほど……そういう事ね……

なら、きちんと神格化してやろうじゃないか!!確かに人じゃなくなるっていうのを怖いと感じてはいたさ……神格なんてまるっきり分からない事だしな……だけど、それを躊躇ってここで死ぬ訳にはいかない……俺には帰りを待ってる人達が居るんだからなっ!!

俺が体に力を込めたその瞬間―――

体の造りが人では無いモノへと変わるのを感じた。

本当の意味での神格を得たのだろうという事が分かった。

「1つ聞いてもいいか?」

「なんだい?」

俺はシロをまっすぐに見つめて問う。

「わざわざ俺が勝てるように教えて……シロ、お前そんなに死にたいのか?」

「……」

俺の問いにシロは沈黙で返した。

そこにいつもの笑みは表れておらず、能面のような顔になっていた。

「……そうだね……そんなに知りたいのなら……僕が死ぬ瞬間に教えてあげるよ?」

「教える気無いだろ、それ」

不思議と軽口で答えてしまった事に、少し心の中で笑ってしまった。

俺はシロに対して不敵な笑みを向ける。

「じゃあ、いくぞ!!」

「いつでもどうぞぉ~!!」

その後は、互いに殴り、蹴り、掴み、投げ等、およそ素手で出来る事を全て駆使して俺達は戦った。

体感時間はもの凄く長く濃密なモノだったのだが、実際の時間に置き換えると、一瞬だったのか、1分だったのか、1時間だったのかは分からない。

だが、そう長い時間でなかったのは間違いないと思う。

俺の前には息も大きく乱れ、体の至る所に殴られた跡が残り、口からは大量の血を吐き出しているシロが寝そべって、こちらの方へと視線を向けていた。

「……あ、あはは……やっぱ、強いね……僕の負け…………もう死んじゃうね……これは、もう助からないよ……」

そんな事は無い。完全神格状態の俺なら、ここからでもシロを癒す事は出来るだろう。

だが、それはしない。

シロには色々と迷惑を掛けられているし、俺の嫁さん達にその迷惑は掛けられていた。許そうとも思わない。

「……そうだな……俺がお前の死ぬ所を看取ってやるよ」

「……や、やっぱり……ワズ君は優しいねぇ……こんな僕の命が消えるまで……傍に居てくれるなんて……」

「まだ理由を聞いてないからな」

「……そういえば……そうだったね……」

その言葉と同時にシロは自分の過去を思い出そうとしているのか、ゆっくりと目を閉じた。

「……そう難しい話じゃないよ……こんな世界じゃ……ありふれた、よくある事……

……普通の家庭に生まれ……

……普通に過ごし……

……普通に襲われ……

……普通に生き残り……

……普通に世界を恨み……

……普通にやり返し……

……普通に生きた……

……たった、それだけ……

……ただ、手段が……他の……同じような出来事が、身に、起こった人達とは……違うだけさ……ワズ君なら……どうする?…………自分の近しい人達が……理不尽に晒されたら……誰を恨む……直接やった人……それとも…………こんな世界かい?」

俺はシロの問い掛けに答えない。

もし、サローナ達に何かあったら……間違いなく……世界を壊すだろう……

持てる全ての力を使って……

シロが言った“似て非なる者”……

俺にはサローナ達が居る。

だが、シロには誰も居ない。

それだけの違い……だけど、それは大きな違いでもある。

もし、サローナ達の気持ちが俺へと向かず、そのままアリアと再会していれば、俺は間違いなくシロと同じ道を辿っていただろう。

理不尽を恨み、世界に鉄鎚を落としていたかもしれない……

だからと言って、シロに同情はしない。

俺とシロは違うのだから……既に違う道を歩んでいるのだから……

「……」

「……あ、あはは、は……何も言わないんだね……けど、それでいいんだよ…………だって、僕達は“似て非なる者”……同じじゃない……違くて……お互いが敵なんだからさ……」

シロが力無く笑う。

「…………だから、これは……僕からの最後の置き土産…………せいぜい、この世の理不尽の権化のような者に……抗ってみてよ……」

シロがゆっくりと腕を振り上げた。

「……こんな理不尽な世界……無くなっちゃえ……」

振り上げた手を何かを決意したかのように強く握り、シロはその拳を自分の胸へと叩きつけた。

その瞬間、叩きつけた箇所から何かが「パリンッ」と割れる音がして、それと同時に

ゴゴゴゴゴゴ……

と、大地が揺れ動き、洞窟の奥から嫌悪感を感じだした。

その間、俺はシロから目を離さず死を確認すると、洞窟の奥へと視線を向ける。

シロに対して掛ける言葉は無い。

例え似ていようが、コイツはどうしようもなく俺の敵なのだから……

俺は洞窟の奥へと向かって駆け出した。