作品タイトル不明
何が彼を「憤怒」としたのか
どうやら、俺が気を失っている間に戦局は大きく変わっていたようだ。戦場を駆ける内にそれがよく分かった。穏健派の人達も猫耳の獣人さんが加わり果敢に挑み続け、サローナさんやユユナ、ルルナも見事な連携で次々と強硬派の面々を吹っ飛ばし続けているし、ナミニッサ、ナレリナ姉妹も優雅と豪快に戦っていた。その誰もが相手の命を奪う事はしていない。その様子にほっとしながら、俺も行く手を遮る獣人達を次々と殴り、蹴り飛ばして進んで行く。俺が目指す場所では現在、この戦場で最も激しい攻防を繰り広げていた。ハオスイとグレイブさんがタッグを組み、デイズと攻防を繰り広げていた。いくら少し弱くなったハオスイとはいえ、グレイブさんと共に攻め込んでいるのに決めきれていない。どれだけ、殴ろうが、蹴ろうが、斬ろうが、デイズの体には一切傷が付いていない。相当高い防御力を保持しているようだ。しかし、デイズもまた決めきれてはいない。どれだけ攻撃を繰り出そうが、2人の出す速度についていけていない、ようは当てられないのだ。その攻防はまさに早さ対力の様相を表していた。
その戦いの場に辿り着いた俺はハオスイとグレイブさんの2人に向け声を掛ける。
「2人は周りの獣人達の方を頼む!!コイツは俺に任せてくれ!!」
そう言葉を発すると戦いは一時中断し、2人は俺の方へ顔を向ける。
「……わかった」
「やっと起きたのか。なら、この場は任せた」
2人は俺の言葉に頷くと即座に周りに駆けていき、獣人達を蹴散らしながら他の人達のフォローにもまわっていた。戦場の中にぽっかりと空間が出来、俺とデイズだけがそこに居た。俺は駆けていく2人の姿を確認すると視線をデイズへと向ける。デイズは相変わらず怒りに満ちた目を俺に向けていた。
「ドウヤラ、ヒトゾクニモ、バケモノガイルヨウダナ」
「失礼な」
誰が化物だ。れっきとした普通の人族だよ……いや、もう普通ってのはキツイか……
「ダガ、ヒトゾクハ、ダレモ、イカシテオカナイ!!」
デイズの声量が一気に増していく。
「ジュウジンガ、ヘイワニクラシテイクタメニハ、ヒトゾクハ……イラナイノダァ!!」
デイズは咆哮のような声と共に俺へと一気に攻め込んできた。丸太のような太い腕の先には何者をも引き裂きそうな長い爪が生えており、その爪が俺へと頭上から迫ってくる。それじゃ俺を殺せないよ。俺は特に何もせずにその爪を受ける。爪は俺の体を引き裂く事も出来ず、触れた瞬間粉々に砕けた。まぁ、そうなるだろうなぁとは思っていたので、俺は特に何とも思ってなかったのだが、デイズにとっては違っていた。驚愕の表情を浮かべ、自分の爪を凝視すると、怒りと共に憎しみも混じり合ったような目を俺へと向けてきた。
「……ナニヲシタ?」
「別に何も。普通に立ってただけだけど?」
「ソンナコトアルワケナイ。ヒトゾクガ、ジュウジンヨリモ、スグレタ、タイクヲシテイルハズガナイ!!」
そう言って、もう片方の爪を俺へと向けてきたが結果は同じだった。
「無駄だって」
「バカナ!!アリエン!!ソンナコト、アリエン!!」
事実を受け入れられないのか、デイズの表情は狼狽し激しく頭を掻き乱す。「ガアアァァ」と叫びながら俺へと更に強い目を向けてきた。その瞬間、再び俺の目がデイズの魔力を映し出した。
「マケラレヌ!!マケラレヌノダ!!キタナイヒトゾクニナド、マケテハナラナイノダ!!カタナケレバナラナイ!!カッテトリモドサナケレバ、ナラナイノダァ!!」
取り戻す?何を?と思ったのだが、目に映るデイズの魔力が変色していく事に気を取られた。赤黒かった色が、何ものにも染まらないような真っ黒な色へと変わっていく。それと同時にデイズの体の方にも変化があった。体中にあったひび割れの線がそのままどんどんと太くなっていくと、デイズの体は魔力と同じ真っ黒になっていった。爪も新たに生え、その色は赤黒くなっている。金色だった髪も真っ黒になり、後ろにばさっと大きく伸びた。目も赤い部分が消え、ただただ真っ黒へと変わっていた。
「……コロス……コロス……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……スベテミナゴロシダァ~~~~~!!!!!」
地面すら揺り動かしているような錯覚を与える程のデイズの咆哮が辺り一面に轟き響いた。デイズが力を込め、爪を構えるように態勢を低くすると真っ黒な魔力が爪へと流れ込んでいった。魔力を吸い込むように爪が吸収すると、赤黒かった爪も真っ黒へと変化していく。全ての爪が真っ黒に変わると、デイズが俺を引き裂こうと一気に迫り、その腕を大きく振りかぶる。その速度は先程よりも速く、力強く感じた。
俺は腕でその爪を受け止めたのだが、そこで初めての事が起こった。
今まで苦楽を共にしてきた俺製作の服の受け止めた部分が切れたのである。もちろん俺の腕には傷1つ付いていないのだが、ちょっぴり悲しい気分になった。なるほど、これは俺も少し本気を出さないといけないかな。