作品タイトル不明
第96話 ほら、やっぱり出たわ
〈注意報〉が、人間の軍がこのフェリオネアへと進軍してきていることを教えてくれた。
「人族の軍だって!?」
「……はい。このフェリオネアから近い北方の一帯を治めている、シュネイル伯爵の軍のようです」
僕の元実家、エグゼール伯爵領も属する、セルテア王国。
その貴族の一つがシュネイル伯爵家で、王国北方に位置するその領地は、ここフェリオネアから最も近い。
「軍の規模は三千超のようです」
「さ、三千超だと!? おいおい、かなり人が戻ってきたとはいえ、フェリオネアの全住民がせいぜい三千人程度なんだぞ!? もちろん老人や子供も含めての人数だ!」
そういえばシュネイル伯爵家は、自身の領地拡大に余念がない好戦的な貴族だと聞いたことがある。
これまでに何度も周辺貴族が治める領地に喧嘩を吹っ掛けては、自らの支配下に置くということを繰り返しているのだとか。
一領主がそんなふうに好き勝手しているなんて王家が黙ってなさそうだけれど、近年その王家の力そのものが弱体化しているせいで、なかなか手出しができない状態らしい。
フェリオネアが復興したと知って、自らの掌中に収めようという魂胆かもしれない。
だとしてもいきなり軍で攻め込んでくるなんて、乱暴にもほどがある。
「そんなやつに狙われるなんて……くそっ、せっかくこの都市の復興が進んできたってのによっ!」
ゼファルさんが苛立つ中、シルアが冷静に言う。
「でも、ライルのお陰で事前に敵の動きを察知することができたのは大きいわ。当然、大人しく従属するつもりなんてないでしょ? こっちも迎え撃つ準備を進めましょ」
「そ、そうだな! シルア様の言う通りだぜ!」
その後、暫定政府もこちらへ迫る人間の軍を確認。
すぐに軍を編成することになった。
ただ、暫定政府の持つ権限はあくまで暫定的なもので、住民たちを強制的に徴兵することはできず、志願兵を募る形に。
集まった兵士は、五百人ほどだった。
「一方、敵軍は三千超か……かなりの兵力差だな……。せっかく戻ってきたというのに、また都市を離れちまった者も少なくないしよ……」
ゼファルさんが嘆くように言う。
「いえ、むしろ五百人は集まった方だと思います」
これが普通の都市だったら、たぶんもっと少なかったと思う。
ここフェリオネアは、獣人が多数派の数少ない都市で、やはり郷土愛が強いためだ。
もっとも、その五百人の中には、更生した元犯罪グループの青年たち、およそ百五十人が含まれているのだけれど。
「「「もちろんオレたちも戦うぜ、親分!」」」
「う、うん」
武闘派の連中が多く、なかなか頼もしい。
親分呼びだけはどうにかしてほしいけど……。
「どうか頼む!」
そのとき唐突にゼファルさんが頭を下げてきた。
「ぜひお前さんの力を貸してくれ……っ! 毎度毎度、頼んでばかりで本当に申し訳ないがっ……この通りだ!」
「あ、頭を上げてください。当然そのつもりですよ」
「ありがてぇ! お前さんがいてくれたら百人力だぜ!」
「はは、あくまでサポート役ですって」
ゼファルさんに懇願されるまでもなく、僕も協力するつもりだった。
このまま放置なんてできないしね。
……またローザさんたちに連絡しておかないと。
「それで、どこで迎え撃つつもりかしら?」
「一応、暫定政府としてはこの都市に立てこもって籠城戦をする腹積もりだ。正直、敵軍との戦力差を埋めるにはそれしかねぇ。幸い食糧は十分にあるしよ」
「確かに、攻撃側が防御側に勝つには、三倍の戦力が必要って言われるもんね」
都市が戦場になると、建物などが大きな被害を受けることになるけれど、それは僕の〈修繕〉を使えばあっさり元に戻せるからね。
「でも、単純な兵力の差は六倍以上あるわ? それに当然、向こうもそれを想定して向かってきているはずよ」
「そこなんだよなぁ」
シルアの指摘に、ゼファルさんが頭を掻き毟る。
「ちょっとこの辺りの地図を見せてくれませんか?」
「おおっ、もしかして都市を丸ごと水攻めしちまったときのような、起死回生のアイデアでもあるのか!?」
「……残念ながらまだ何も。そもそもあれはたまたま上手くいっただけですし」
「そうかしら? ライルってこういうとき、大抵とんでもアイデアで何とかしちゃってる気がするけど?」
ゼファルさんが持ってきてくれたフェリオネア周辺の地図を確認してみる。
「ええと、この辺りは?」
「そこは峡谷だ。かつては川が流れていたようだが、今は枯れて断崖絶壁に挟まれた谷地が続いている」
「なるほど」
敵軍がこの都市を目指すなら、恐らくこの峡谷を通ってくるだろう。
迂回しようと思うと、倍以上の時間がかかってしまうためだ。
「じゃあ、この峡谷で迎え撃ちましょう」
「た、確かに、狭い谷底だと敵軍もあまり横に広がることは難しいが……それでも、さすがに籠城戦より勝算が高くなるとは思えねぇんだが……」
ゼファルさんの懸念はもっともだろう。
一度に敵軍と対峙する面積を狭くしただけでは、六倍の戦力差を覆すことはできない。
「もちろん、ただ普通に迎え撃つだけじゃないです」
「というと?」
首を傾げるゼファルさんに、僕は言う。
「ここに今から砦を作っちゃいましょう」
「……は?」
「ほら、やっぱり出たわ。ライルのとんでもアイデア」