作品タイトル不明
第97話 材料は無限にありますから
フェリオネアから南西に進むこと、数十キロ。
これから敵軍を迎え撃つ場所、ハイゼル峡谷はあった。
そのフェリオネア側の入り口から、しばし進んだところで、僕は言う。
「この辺りがよさそうですね。他よりも幅が狭いですし、砦を建てるにはちょうどいい感じです」
「な、なぁ、お前さん。マジでこれから砦を築くつもりなのか? 敵軍はもうすぐそこまで来てるんだぜ……?」
「はい。心配は要りません。幸い材料は無限にありますから」
「……材料?」
「はい。この辺の岩です」
ゼファルさんが周囲を見回す。
左右の断崖絶壁も含め、一帯には岩場が広がっていた。
時間がないこともあり、すでに志願兵からなるフェリオネア軍はこの峡谷を目指して都市を出発している。
今さら後戻りはできないけれど、僕には妙案があった。
「ではやってみますね。〈日曜大工〉!」
僕が使った生活魔法は〈日曜大工〉。
本来なら休日に趣味で行うような木工作業をサポートする程度の魔法なのだけれど、魔力を全力で込めてやれば――
「な、なななななななっ!? 何だ、これはあああああああああああっ!?」
――あっという間に、峡谷を塞ぐ規模の立派な砦が完成していた。
「はい、砦のできあがりです。中を確認してみましょう」
ゼファルさん、そしてシルアと一緒に即席の砦の内部へ。
「おいおい、中身もちゃんとしてるぜ……?」
「とてもたった数分で作られたとは思えないわね」
敵の進軍を止めるための城壁は断崖絶壁と連結し、兵士が行き来するための歩哨路が設けられている。
要所には防衛塔が築かれ、見張りや狙撃に利用できそうだ。
城壁の内側には兵が集合するための中庭。
そこには兵舎や倉庫があって、籠城にも適した造りになっている。
本丸である主塔は、ひたすら分厚い石壁で構成されていて、出入口は一つしかない。
司令室であると同時に、最終的な籠城地点としても機能できるだろう。
「でも、岩で作れるのは箱だけだからね。机やベッド、それに食糧なんかはこれから準備しなくちゃ」
「準備って、どうするのよ?」
「机とかベッドは材料さえあれば、これも〈日曜大工〉でいけるよ。亜空間内に魔物の素材なんかが入ってるし、今すぐ作れると思う。食糧はフェリオネアから〈小物収納〉で運んでくるか、もしくは〈庭いじり〉で中庭の一画に畑を作っちゃってもいいと思う」
「要するにあなた一人で何でもできちゃうってことね」
「はは、さすがに何でもは無理だよ」
まぁ机もベッドも食糧も、急いで用意する必要はないだろう。
目標は短期決戦だからね。
そうこうしているうちに、フェリオネア軍が砦までやってきた。
峡谷に突如として出現した砦に騒然としている。
「こんなところに砦が!?」
「峡谷に砦なんて聞いたことあるか?」
「ないない。しかも見た感じ、真新しいぞ……?」
驚く彼らを案内し、砦の中をしっかり見てもらった。
戦いの前に内部構造を理解しておくのは必須だからね。
◇ ◇ ◇
シュネイル軍三千強は、峡谷を進んでいた。
ここを抜ければ獣人都市フェリオネアはすぐそこだ。
戦いが近づき、兵たちの士気も高い。
「相手はちっぽけな都市だろ? しかも復興中って話じゃねぇか。こりゃ一瞬で攻め落とせそうだな」
「いや、獣人を侮るなよ。やつらは身体能力が異様に高い」
「ほう、だとしたら、そこそこ楽しめるかもしれねぇなァ」
好戦的なシュネイル伯爵家だけあって、それが有する軍にもまた、血の気が多い連中が集まっていた。
周辺諸侯との争いも絶えず、戦闘経験も豊富だ。
そんな彼らを率いるのは、背中に巨大な斧を担いだ禿頭の大男。
「ククク、これほど大規模な獣狩りはオレも初めてだぜ」
名はドレアル。
シュネイル軍でも一、二を争う戦功を挙げている武将であるが、見た目は野盗の頭目そのものだ。
なにせ元々は野盗団を率いた男である。
幾度となく討伐隊を退けていたことから、その実力を見込まれて武将として迎えられたという異色の経歴を持っていた。
「ドレアル様……っ! た、大変です!」
「あ? どうした?」
軍に先行していた斥候部隊が慌てた様子で引き返してきて、ドレアルは眉根を寄せる。
そして斥候からもたらされた報告は、幾多の修羅場を潜り抜けてきた彼ですら、にわかには理解しがたいものだった。
「この先にっ……謎の砦が出現していました……っ!」
「は?」
もちろんあらかじめフェリオネアまでの進軍ルートは調査してある。
この峡谷を通る道は最短ルートで、調査の際に砦の存在など確認されていないはずだ。
当然その後に砦を築くなど、時間的に不可能である。
だが何かの間違いだろうと思いつつ進軍を進めていくと、
「……馬鹿な」
確かにそれはあった。
しかも決して簡易な砦ではなく、峡谷を完全に塞ぐほど重厚で立派な砦だ。
「幻覚でも見せられているのか? 獣人は魔法が苦手のはずだが……」
自らの目で見てもまだ信じ切れないドレアルだが、この状況に口端を吊り上げた。
「はっ、逆に面白くなってきたじゃねぇか。進軍ばかりでそろそろ飽きてきたところだったしよ。あの規模からして、せいぜい五百人程度か……ククク、準備運動には持ってこいだな」