作品タイトル不明
第94話 絵に描いたような子悪党ね
「ジン、どうしちまったんだよ!?」
「お前らしくねぇぞ!? もしかして、さっきの変な魔法の仕業か!?」
狼狽えている仲間二人に、ジンと呼ばれた青年が応じる。
「ああ、そうかもしれねぇ。……だが、なかなか悪くねぇ感覚だ。オレはこの人のためなら、たぶん命だって投げ出せる……それくらい尊敬できる相手がいるっていうのはいいもんだ」
「ジン!? ジジババから金を奪うことすら躊躇しねぇお前から、そんな台詞は聞きたくなかったぜ……っ!?」
「喧嘩相手を半殺しにして爆笑してたお前はどこに行っちまったんだ!?」
シルアが苦笑しながら、
「絵に描いたような子悪党ね。でもそれを一瞬で屈服させちゃうなんて、正直、怖いくらいの効力だわ」
「……まぁでも、これで更生させることができそうだね。この二人にも使っちゃおう」
「や、やめろ!?」
「俺が俺じゃなくなっちまう!」
「〈ペット飼育〉」
残る二人にも使うと、あっさり大人しくなった。
「えーと、君たちの名前は?」
「おれはレイです」
「俺はリクスと言います」
ジン、レイ、リクスの三人に、僕は言い聞かせた。
「これからはちゃんと仕事をして、真っ当に生きていくように」
「「「分かりました!」」」
そろって敬礼してくれる。
「でもこいつら、ライル以外の命令も聞くのかしら?」
「あ? 何で親分以外の命令に従わなきゃなんねぇんだよ?」
「女、テメェは黙ってやがれ」
「そもそもお前は親分の何なんだ?」
……どうやら僕にしか従うつもりはないらしい。
そういえばあの巨大カエルもそうだったっけ。
って、今、僕のこと親分って言わなかった!?
「あら? そんなこと言っていいのかしら? 私はライルの女よ?」
「「「失礼しやした、姉御!」」」
「ちょっとシルア!?」
困惑していると、シルアが耳打ちしてくる。
「(話を合わせなさいよ? あなたがいなくてもこいつらを従えることができた方がいいでしょ?)」
「(方便ってこと? だとしても、もっと他の関係性でいいような……)」
腑に落ちない気持ちになりつつも、三人組に言い聞かせた。
「ええと、そういうわけだから、シルアのことは僕だと思って接してね?」
「「「分かりました、親分!」」」
やっぱり親分って呼んでる……。
その後、僕はゼファルさんと会った。
彼は復興隊のリーダーをしていた人だけれど、現在はフェリオネアに暫定政府を作り、正式な政府の発足に向けて尽力しているところだという。
「え? お前さんの生活魔法なら、都市の治安を回復させられるかもしれねぇって?」
「はい。実はシルアから、犯罪グループが増えて困ってるって聞きまして」
「そいつは今、俺たち暫定政府がもっとも頭を悩ませてる問題だぜ!? ほ、本当にそんなことができるのか!? ……って、愚問だったな。ここまで数々の奇跡を見せてくれたお前さんを疑う方がおかしいぜ」
というわけで協力することになった。
……少し滞在が長くなりそうなので、ローザさんたちに事情を伝えておいた方がよさそうだね。
「〈即帰宅〉を……いや、もしかしたら習得したばかりのこの魔法が使えるかも? 〈お便り〉」
つい先日、新しく習得した生活魔法、〈お便り〉。
これはその名の通り、遠く離れた人のところへメッセージを送れるという魔法だ。
「って、あれ? なんか空間が歪んでく……」
目の前の空間が四角く切り取られたかと思うと、都市アーゼルにある僕の家の中が映し出される。
そこにはローザさんたちの姿もあって、驚いたような顔でこっちを見ていた。
「ライルくん!? これはどういうことですの!?」
「わっ、すごい。会話までできるんだ」
どうやら遠く離れた場所にいる相手と、メッセージのやり取りができるどころか、顔を見ながらリアルタイムで話ができるらしい。
「新しく覚えた生活魔法の〈お便り〉を使ってみたんです」
「またとんでもない魔法を覚えましたわね……」
「すごいのだ! もしかして、これで少年のところに行けるのだ!? えいっ!」
「ちょっ!?」
いきなりアルテアさんがこっちに飛び込んで来ようとして、ちょっとびっくりしてしまったけれど、こちら側には来ることなく、フェードアウトしていった。
触ってみると手がすり抜けたので、さすがに通り抜けることはできないようだ。
「ライルが冒険している人たち? ……女ばかりね?」
「た、たまたまだよ、たまたま」
なぜかシルアに睨まれつつも、僕はローザさんたちに事情を話した。
「ということなんです。なので、少し待っていてもらえませんか?」
「分かりましたわ。そもそもこんなに早くドワーフの国に行けるのは、すべてライルくんのお陰ですの。いくらでも待ちますわ。久しぶりに妹と会いましたし、積もる話でもしながらのんびりしていますの」
「ありがとうございます」
そうしてここフェリオネアでは、臨時の治安回復部隊が結成されることになった。
犯罪グループをこの都市から完全に一掃することを目的とし、戦闘力に自信を持つ獣人たちで構成された部隊だけれど、そこに僕が加わる。
「もちろん私も参加するわ」
「俺も同行するぜ」
ゼファルさんが他の獣人たちに言い聞かせる。
「いいか? お前さんたちの最大の役目は、この少年を守ることだ。彼の力を知らねぇやつもいると思うが……まぁ、すぐに分かるはずだ」
そうして犯罪グループの一掃作戦がスタートしたのだった。