軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第93話 完全に名前詐欺になってるもの

「……と、いうわけですの」

ローザさんが、リーゼさんたちに魔境探索の顛末を簡潔にまとめて話した。

アーゼルの一等区にある豪邸。

その広々とした応接室である。

「あっさり魔境の深部に進出したばかりか、穴底にまで辿り着いて、そこに棲息していた凶悪な魔物も討伐して、アダマンタイトも大量に手に入れて……。ええと、ライル君が魔境に行ってから、まだ一か月ほどしか経ってないですけど……?」

「ええ、ライルくんの能力は、あたくしの想定を遥かに超えていましたの。あなたたちのパーティが、荷が重いからとあたくしたちに託してくるわけですわ」

「いえ、さすがに私もそこまでとは……。ライル君、どうやらさらに別世界の住人になってしまったみたいですね」

べ、別世界の住人……?

「はは、さすがにちょっと盛り過ぎですよ。僕なんて右も左も分からず、ただ必死にサポートしていただけですから」

「……少年のその自己認識が絶対におかしいことは、頭の悪い吾輩にも理解できるのだ」

「……拙者もそう思うでござる」

アルテアさんとユズリハさんのお騒がせコンビが何か言ってるけど、彼女たちの言うことはあまり真に受けるべきじゃないからねぇ。

と、そのときだった。

ウーウーウーウー。

「っ……この音は、〈防犯〉の……? でも、この家じゃない。まさか、フェリオネアの方の……?」

僕が使える生活魔法の一つ〈防犯〉。

これは家などに使っておくと、侵入者の存在を通知してくれ、さらにその捕縛までしてくれるという便利な魔法だった。

つい先日も、この家に押し入ろうとしたカルザー兄上が、網に絡まれて身動きが取れなくなっていたっけ。

「すいませんっ、ちょっといったん離脱します! 〈即帰宅〉」

僕は慌てて〈即帰宅〉を使い、フェリオネアにあるシルアの家へと飛んだ。

「シルア! 大丈――」

「あら、ライル。やっぱりこれ、あなたの仕業だったのね」

「――夫そうだね」

シルアは家の前で平然と佇んでいた。

その足元には、全身に網が絡まって藻掻いている三人の男たちがいる。

「おい女! 早く助けろよ!」

「シカトしてんじゃねぇぞ!」

「ぶっ殺されてぇのか!」

怒鳴り散らす彼らをひとまず無視して、僕は頷いた。

「うん。〈防犯〉って言ってね、あらかじめ家にかけておくと、こんなふうに自動で侵入者を捕まえてくれるんだ」

「相変わらずとんでもないわね、あなたの魔法。普通はちょっとした警報音を響かせる程度じゃないの?」

呆れるシルアを余所に、僕は捕まっている男たちを指さす。

「彼らは獣人?」

「ええ、そうよ。フェリオアが復興しつつあるって知って、最近戻ってきた連中だと思うわ」

見た感じ、若い獣人だ。

シルアと同じか、少し年上くらい。

となると、フェリオネアが魔物災害に遭ったときは、まだほんの子供だったはずだ。

「無視して喋ってんじゃねぇ!」

「マジで死にてぇらしいな、オイ!?」

「女とガキなんざ、まとめてヤっちまうぜ!?」

まだなんか叫んでる。

「見ての通りガラが悪いのよ。最近こんなやつが多くて」

「なるほど」

復興が進むにつれ、こうした連中が増えてきたらしい。

特に幼い頃にこの都市から避難した若者たちが、ちょっとした犯罪グループを結成して、色んな悪さをしているのだとか。

シルアもその一人だけれど、彼らは総じて過酷な環境で生きてきた。

犯罪に手を染めるしかなかった者も少なくないはずで、そんな彼らが再び故郷に戻ってきたとしても、やはり真っ当な生き方をするのは難しい。

「あなたの万能魔法でどうにかならないかしら?」

「万能魔法じゃなくて生活魔法だって」

シルアの言葉を訂正していると、三人組の一人が網から抜け出した。

「やっと出られたぜ……っ! はっ、まさか逃げずにずっとくっちゃべってやがるとはな! バカの極みだぜ!」

「名称を変えた方がいいわ。完全に名前詐欺になってるもの」

「詐欺って……」

「いや、マジでいつまで喋ってやがる!? 舐めてんのか!?」

「まぁ一応、期待に応えられそうな魔法はあるけど」

「ほら、やっぱり万能魔法じゃない」

「オレを無視すんじゃねえええええええええええええっ!」

というわけで、僕はこの魔法を使ってみることにした。

「〈ペット飼育〉」

エンペラーギガトードにも使った生活魔法だ。

本来ならペットをお世話するための魔法なのだけれど、十分な魔力を込めることによって、相手が魔物でも従順にさせることができるらしい。

「今のところ人に使ったことはないけど……多分、獣人相手になら効果を発揮すると思う」

「こいつらをペットにできるってこと? 可愛くないペットね」

「誰がペットだ!? マジで殺すぞ!?」

「まぁまぁ、落ち着いて」

「分かりました!」

激高していた男が、僕の一言であっさり態度を変えた。

さっきまでとはまるで別人である。

「あ、もしかして効いた? ええと、名前を教えてくれる?」

「はい! オレはジンと言います!」

まだ網に苦戦している仲間二人が、その変貌ぶりに驚く。

「お、おい、ジン、どうしたんだよっ?」

「何でそんなガキ相手に下手に出てやがるんだ!?」

「い、いや、なぜかこの人にだけは、逆らってはいけないような気がするんだ……」

うん、完全に効果があったみたいだね。