作品タイトル不明
第67話 帰らぬ人になってるんだから
「すごい、本当に穴の途中に集落があるなんて……」
魔境の街、ギア。
てっきり斜面沿いに家屋が建てられているのかと思っていたけれど、斜面から大きく迫り出した巨大な出っ張りがあって、その部分に街が築かれているようだ。
思っていた以上に家屋の数が多くて、どうやら五十人ほどの人たちが住んでいるらしい。
その多くは引退した冒険者たちらしく、こんな辺鄙な場所を気に入ってそのまま住み着いてしまったのだとか。
街の明かりは非常に少ない。
魔物が寄ってきてしまうため、極力明かりを控えているのだろう。
「こんな四六時中、夜が続くようなところに住もうなんてどうかしてるわ。あたしだったら一週間で気が参って逃げ出すわよ」
「ひひひ……つまり、陽キャとは……無縁の街……素晴らしい……」
「……こいつみたいなやつばかり住んでるのかしら? なおさら気が滅入るわ」
呆れたように言うタティさんに対し、カーミラさんは心なしか地上にいた頃よりテンションが高い。
「当初は少しずつ距離を増やしながらここまで来る予定でしたが、一回目で辿り着いてしまいましたわ。ライルくんの活躍のお陰ですの」
「ありがとうございます! 上手くサポートできたようでよかったです!」
「本当にサポートなのか、怪しいところなのだ……」
街の中には冒険者ギルドの出張所もあるらしく、足を運んでみた。
さすがにエギルの街の冒険者ギルドと違って、こじんまりした建物だった。
中に入ってみると、窓口も一つしかなかった。
二十代半ばくらいの受付嬢がこちらに気づくと、
「あら、いらっしゃい! 新しい顔ぶれね! アタシはこの出張所で唯一の受付嬢、アンナよ! よろしくね~っ!」
めちゃくちゃ明るく声をかけてきた。
初対面で分かるほどの陽キャっぷりに、カーミラさんが「嫌いなタイプ……」と呻く。
「ここの出張所でできるのは、主に素材の解体と買い取りよ! 経費がかかっちゃう分、地上の街で売るより少し安値にはなっちゃうけど、自分たちで素材を地上まで運ばなくて済むのが大きなメリットね!」
深部に挑戦するような冒険者ともなると、ローザさんのようにアイテムボックスを持っていることが多いけれど、倒した魔物の素材を保管しているとすぐに容量がいっぱいになってしまうため、そうした需要があるらしい。
「ただし希少な鉱物とかは自分たちで持って帰ってね! アダマンタイトとかアダマンタイトとかアダマンタイトとか!」
「そのアダマンタイトを狙って深部に挑戦するつもりですわ。どれくらいの場所で採掘できるものか分かりますの?」
「一応、五千メートルあたりで発見されたこともあるけど、それはごく稀なことよ! 実際には最低でも深さ六千メートルくらいまでは潜らないと、なかなか手に入らないかな!」
「ざっと今の倍……と考えると、意外と余裕なのだ?」
アルテアさんの呟きに、アンナさんが鋭く反応した。
「こらそこ! 舐めてかかると痛い目を見るわよ!」
「っ!?」
「この魔境の深部は、ここまでとは全然レベルが違うんだから! もっと暗くなるし寒くなるし、魔物も遥かに凶悪になる! 加えてここまでは普通に歩ける斜面だったけど、深部になるともはや完全な崖よ、崖! 百メートル降りるだけでも一苦労なの!」
「い、いや、その……け、決して、舐めているわけでは……ない、のだ……」
いきなり叱責されて、狼狽えるアルテアさん。
「毎年何人もの冒険者が穴の底まで転落して、帰らぬ人になってるんだから! 上級冒険者だからって油断は禁物よ!」
「は……はい……」
アルテアさんはしゅんとなって頷く。
その様は完全に親に叱られた子供だった。
「彼女の言う通りですわね。想定よりも早くここまで辿り着いたからと言って、気を抜いてはいけませんわ。むしろここからが本番ですの」
「わ、分かっているのだ……ちょっと軽く思ったことを口にしただけなのに、寄ってたかってそんなに怒らないでいいのだ……」
現在このギアの街を拠点にしているのは、全部で五つのパーティだけらしい。
そのうち三つのパーティは街の周辺が主な探索範囲だというので、深部に挑戦しているのは二つのパーティしかいないことになる。
「あなたたちを含めると三つのパーティになるわね! 深部に挑む際には、必ずここ出張所に探索計画書を提出してもらってるから忘れないように! もちろん帰還後の報告も必須よ! 予定の期間から一か月が経っても戻ってこない場合は、死んだものと見なされるから気をつけてね!」
出張所を後にした僕たちは、ひとまずここまでの疲れを癒そうと宿に向かった。
このギアの街には冒険者のための宿もあるらしい。
「ありましたわ。きっとここですの」
「……夢追い亭・別邸? どこかで聞いたことあるのだ?」
「エギルの街で泊った宿の兄弟宿ですわ。この別邸はあそこの店主のお父様が、隠居がてら経営しているそうですの」
中に入ると、六十に届きそうな年齢ながら筋骨隆々な体躯の男性が大声で出迎えてくれた。
「いらっしゃああああああいっ! 若き冒険者たちよっ! ようこそ夢追い亭・別邸へっ!」
物凄く暑苦しい感じの人だった。
「……何で陽キャばっかりなの……」
カーミラさんが心底嫌そうな顔で呻いた。