作品タイトル不明
第61話 ここを自宅にしておいてよかった
盗賊団の構成員たちと奴隷商の男は、騎士たちによって近くの都市に連行された。
騎士団によると、裁判を経るまで分からない部分はあるものの、かなり重い刑罰を科される可能性が高いとのことだった。
盗賊団を率いていた男、コブラについてはほぼ確実に死刑らしい。
まぁ自業自得だよね。
一方、捕まっていた人たちは、身元が判明次第、すぐに元の場所に帰れるよう手配してくれるとのこと。
家族や友人が心配して待っているだろうから、早く帰れるといいね。
しかしそんな中、奴隷商から解放された獣人たちはというと、
「……私たちには戻る場所がないんです」
「生まれたときからずっと奴隷で……」
「親の顔も知らないですし……」
獣人の多くは迫害されていて地位が低く、彼らのような奴隷は少なくない。
「それならいいところがあるよ」
「「「?」」」
「獣人ばかりの都市でさ、一度は災害で壊滅させられちゃったけど、今は復興が進んでる。よかったら連れていってあげようか?」
「「「ほ、ほんとですか……?」」」
「うん、じゃあ行くよ。〈即帰宅〉」
「「「え?」」」
一瞬で目の前の光景が変わり、驚く獣人たち。
もちろんそこにあったのはシルアの家だ。
「ライル? また来たの? って……誰よ、その子たち?」
家の窓から顔を出したシルアが、連れてきた獣人たちを見て怪訝な顔をする。
僕は彼女に事情を話した。
「……なるほど、そういうことだったのね。相変わらずお人好しなんだから」
シルアは呆れつつも、
「もちろん構わないわ。猫系の獣人が多いけど、それ以外の獣人もいるし、きっとみんな歓迎してくれるはずよ。他ならぬライルの頼みだし」
幸か不幸か、災害によって人が失われてしまったことで住宅が余っていた。
猫系の獣人仕様にはなっているだろうけれど、空き家として放置しているより、彼らが住んで有効活用した方がいいだろう。
熊っぽい耳を持つ大柄な獣人が、恐る恐る聞いてきた。
「こ、この都市ってもしかして……フェリオネアじゃ……?」
「知ってるの?」
「は、はい、噂だけなら……でも、さっきまでいた場所から何百キロも離れてるはずでは……?」
「生活魔法の〈即帰宅〉を使ったからね」
後のことはシルアに託すことにした。
「じゃあ、彼らのことよろしくね」
「もう行っちゃうの? もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「色々と寄り道しちゃったから、急がなくちゃいけなくて」
「仕方ないわね」
僕は再び〈即帰宅〉を使った。
そうして一瞬で戻ってきたのは、アーゼルにある家――ではない。
「ここを自宅にしておいてよかった。またアーゼルから魔境に向かうってなると大変だったし」
そこは洞窟の中だった。
盗賊団が拠点としていた、奇岩地帯の洞窟だ。
こういうのを隠れ家って言ったりもするし、もしかしたら自分の家ということにできるのではないか。
そう思って試してみたのである。
「これを持っておいたお陰でもあるのかな?」
自宅認定の条件。
はっきりしたことは分からないけれど、シルアの家の場合は、家の鍵を持っていることだった。
なので、この隠れ家にも何か鍵があればと捜して見つけたのが、盗賊たちが盗んだお宝を隠していた 倉(・) 庫(・) の(・) 鍵(・) なのである。
倉庫内にあったものは騎士たちが持っていったけれど、この鍵だけこっそり回収しておいたのだ。
「倉庫の目の前に転移したし、この倉庫が自宅として認定されてるのかも……? なんにしても大幅に移動時間を短縮できてよかった」
こうして再び魔境を目指して旅を再開した僕は、それから三日後。
ついに魔境『無明の竪穴』――から最も近い街に辿り着いたのだった。
魔境から最も近い街、エギル。
大陸の辺境にある小さな街だけれど、その割に随分と活気に溢れていた。
魔境に挑む冒険者や、彼らが入手した希少な素材を求める商人が、各地から集まってきているためだろう。
実際、街の中を歩いていると、それらしい人ばかりを見かける。
街の重要産業を冒険者たちが担っていることもあって、冒険者ギルドは街の中心部にあった。
しかも大都市であるアーゼルの冒険者ギルドと比べても、まったく遜色ないほど立派な建物である。
「思っていたより人が多いし……どうやってリーゼさんのお姉さんたちと合流すればいいんだろう?」
リーゼさんからは、この街に行けば合流できるはずとしか教えてもらっていない。
もっと小規模な冒険者ギルドをイメージしていたので、てっきり顔を出すだけで簡単に見つかると考えていたのだ。
「とりあえず受付で訊いてみよう」
困ったときの受付嬢というわけで、窓口にいたお姉さんに声をかける。
ネームプレートには「ビアンカ」と書かれてあった。
「すいません、僕、冒険者なんですけど、ちょっと聞きたいことが……Bランク冒険者のローザさんのパーティってどこにいるか分かりますか?」
リーゼさんのお姉さんは、ローザさんという名前なのだ。
「あら、じゃあ、あなたがライルさん? 彼女から話は聞いてるけど……まだこんな子供だとは思わなかったわ」
どうやら僕が受付窓口に来ると想定し、言付けておいてくれたらしい。
ただ、ビアンカさんは不服そうな様子で、じろじろと僕の全身を見てくる。
「いくらなんでも、こんな子供を連れて魔境に挑戦する気だなんて……。そもそも『無明の竪穴』への挑戦は、上層ですらCランク以上であることが推奨されてるほど危険なの。駆け出しが挑めるようなところじゃないのよ。見ての通りここにいるのはベテランの冒険者ばかりでしょ?」
なるほど、道理で同年代をぜんぜん見かけないわけだ。
どの冒険者たちも歴戦の猛者といった雰囲気で、明らかに装備のレベルも高い。
と、そのときだった。
後ろからどこかで聞いたことのある声が響いたのは。
「あーっ! あのときの少年なのだ! 何で吾輩より先にこの街に着いているのだ!?」