軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第38話 その手がありましたね

トレント種には痛覚が存在しない。

そのためどれだけダメージを与えても、痛がる素振りすら見せずに攻撃を続けてくる。

「確かに、このボスはドラゴンではなく、トレントの一種……っ! 同様の性質を持っていてもおかしくありません……っ!」

リーゼさんが青い顔で叫んだ。

「じゃあ、どうやって倒すんですか!?」

「も、もちろん、他のトレント種と同様、痛覚はなくても、一定以上のダメージを受ければ絶命するはずですが……」

つまりは、そこまでダメージを与え続けなければならないということ。

しかもボスの猛攻を凌ぎながら……うん、割と絶望的だ。

「撤退を……なにっ!?」

ピンファさんが言い終わる前に、ドラゴントレントがその巨体を躍らせながらこちらへ猛スピードで突進してきた。

躱し切れない……っ!

「「「~~~~~~っ!?」」」

凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされ、僕たちはそろって宙を舞った。

「い、〈痛み止め〉!」

意識が飛びそうになる中、僕は何とか自分に治療を施し、ダメージを回復させる。

どうにか意識がクリアになったときには、すでに地面が迫ってきていたけど、ギリギリで上手く着地した。

以前より身体能力が強化されていなかったら、地面に思い切り叩きつけられていたと思う。

リーゼさんたちは……無事のようだ。

さすがに僕と違って、一撃でノックアウトされるようなヤワな身体じゃないだろう。

「ライル君、大丈夫ですか!? 今、ヒールをっ……」

「あ、自分で回復させたので大丈夫です」

とそのとき、ドラゴントレントが大きく口腔を開いたかと思うと、周囲の空気を一気に吸い込んでいく。

「ブレスがくるでござるっ!?」

「っ……確か、樹海迷宮のボスであるドラゴントレントは、他にはない特殊なブレスを使うはず……っ!」

直後、ドラゴントレントが響かせたのは、耳をつんざく甲高い音だった。

キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!

「っ……こ、これがブレスっ!?」

「だが何も起こらぬぞ?」

困惑していると、どこからともなく、ブーーーーーーーンッ、という音が聞こえてきた。

虫の翅音だと分かったときには、それらが姿を現した。

「「「マッドビーの大群!?」」」

巨大な蜂の魔物、マッドビーの群れだ。

それがダンジョン内に生えた樹木のあちこちから、猛烈な速度で集合し、こちらに襲いかかってこようとしていた。

「そうですっ……『樹海迷宮』のボスが放つブレスは、マッドビーを操る特別な音波を発するというものっ……ゆえにこのドラゴントレントは、特別に〝ハニーヘル〟と呼ばれて怖れられているのです!」

「ドラゴントレントだけでも厄介なのに、こんな蜂の大群、どうやって相手すればいいでござるか!?」

みんなが絶望的な表情を浮かべる中、僕は叫んだ。

「〈虫よけ〉!」

「「「あっ」」」

直後、巨大蜂の大群が瞬く間に散会し、逃げるように飛び去っていった。

「……確かに、その手がありましたね」

「あ、はい。この生活魔法、昆虫系の魔物には効果抜群なので」

「がはははっ! あれだけいたマッドビーが、一匹残らず去っていったのう!」

ひとまずマッドビーの大群とボスを、同時に相手取るという絶望は回避できた。

だけど、ボス単体であっても勝率が著しく低いという現状は変わっていない。

「っと、そうだ! もしかしたらあれが効くかも!?」

そこで僕はあることを思い出す。

しばらく〈草刈り〉ばかり使っていたので、こんな場面で役立ちそうな生活魔法の存在を失念していたのだ。

味方を巻き込んでしまう恐れはあるため、そこだけは注意が必要だけど。

「みんな、左右に避けてください! 〈水生成〉!」

まずは大量の水を作り出す。

ドラゴントレントの巨体をも上回る膨大な水塊が、空中に出現した。

「「「は?」」」

みんなが唖然とする中、その水塊を操作し、ドラゴントレントに頭から被せてやる。

バシャアアアアアアアアアアアアアンッ!!

もちろんこれだけではただ樹木に水をやっただけに過ぎない。

もう一つの生活魔法とのコンボが必要だった。

「〈冷房〉!」

直後に送り込んだのは、極寒の空気だ。

それが水に濡れたボスの巨躯を、瞬く間に凍り付かせていく。

やがてボスは氷の檻の中に閉じ込められた。

「ふぅ。上手くいきましたね。これで後は〈火起こし〉で焼き尽くすか……でも水を吸った木はなかなか燃えないっていうし……」

次の一手に悩んでいると、リーゼさんが絶叫した。

「な、な、何をやったんですかあああああああああっ!?」

「えっと、生活魔法の〈水生成〉と〈冷房〉を使って凍らせたんです。ここまで大きい相手にも効くかどうか心配でしたけど、上手くいってよかったです」

「どう見ても生活魔法の威力じゃなかったですよ!? ここまでそんな魔法を隠し持っていたなんて……っ! 何で教えてくれなかったんですか!?」

「そんな隠し玉があるなら、早く言うでござるよ!」

リーゼさんのみならず、ユズリハさんまで僕を咎めてくる。

「えっと、見ての通り味方を巻き込む可能性があったので、なかなか使う機会がなくて……」

「がはははっ! まさか生活魔法でありながら、上級魔法並みの威力を出してしまうとはのう! もはやそこらの魔法使いなどより、よっぽど火力役だ!」

「いえ、生活魔法としては強力かもしれないですけど、各属性の専門の魔法使いの魔法と比べたら全然ですよ」

ゴルドンさんの絶賛を僕が否定すると、なぜかリーゼさんが呆れたような顔で言った。

「ライル君、どう考えても魔法への認識がおかしいと思います」

「え、そうですか?」

これでも魔法の名門の出身なんだけどなぁ。