軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 何のこれしき

ユズリハさんを追いかけ、やってきたダンジョンの最下層。

やがて姿を現したのは、全長二十メートルを超える巨大なトカゲだった。

「オアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

大きく開けた口から凄まじい咆哮を轟かせる。

強烈な威圧感に、僕は思わず後ずさった。

「「「ど、ドラゴン!?」」」

その正体に思わず絶叫する。

ドラゴン。

それは言わずと知れた、最強の魔物種だ。

強靭な鱗による防御力と、凶悪な牙と爪による脅威の攻撃力の両方を兼ね備えており、さらに翼を有し、大空を自由に舞うことが可能な個体も多い。

中には一発で大都市の城壁を粉砕してしまうような、破滅的なブレス攻撃を持つ個体もいると言われていた。

「……いや、ドラゴンではない」

みんなが戦慄する中、冷静に否定したのはピンファさんだ。

「体表はまるで樹木のそれ。そして、身体のあちこちからは木の枝が生えている……ドラゴンの姿に擬態したトレントの上位異種、ドラゴントレントだろう」

どうやらドラゴンではないらしい。

ただ、強力な魔物であることは間違いないだろう。

「ドラゴントレントっ……まさか、このダンジョンのボスですか!?」

「え、ボスなんですか?」

どうやら僕たちは、ユズリハさんのせいでダンジョンのボス部屋にまで誘い込まれてしまったらしい。

「がははははっ! こんな形でボスの姿を拝むことになるとはのう!」

「……喜んでいる場合ではない。十分な情報もないまま、ボスに挑むのは自殺行為だ」

ドラゴントレントの下腹部から伸びる、触手のような無数の根。

それでユズリハさんを拘束し、ここまで引きずってきたのだろう。

「あれを地下22階にまで伸ばしてたってことですか!?」

「そうなりますね……。しかも宝箱まで用意して……相当な知能が無ければできない芸当でしょう」

それだけでも非常に厄介なボスだということが分かる。

「正直、こんな形で対峙するとは思っていなかったので、あまり情報を仕入れてはいませんが……分かっている範囲で言えば、あの身体はドラゴンの鱗に匹敵するほど硬く、物理攻撃がほとんど効かないそうです」

「がははははっ! それは……困ったのう。わしは物理攻撃しかできぬのだが?」

「拙者もでござるよ!?」

「……通じるとすれば、光を付与したリーゼの槍しかない」

とそこへ、ドラゴントレントが全身から生えた枝を、鞭のように振るって攻撃してきた。

「枝なら物理攻撃で破壊できるはずです!」

それらをリーゼさんたちがことごく斬り落として猛攻を凌ぐ。

僕も〈草刈り〉でサポートした。

「……気を付けろ、まだまだ来るぞ」

ピンファさんが忠告した通り、次から次へと枝の鞭が襲いかかってくる。

それを必死に捌いていくだけでも精一杯な中、珍しく焦りの籠った声でピンファさんが叫ぶ。

「っ……下にも注意しろ!」

直後、地面から根が槍のように生えてきた。

「〈草刈り〉!」

僕はすんでのところで魔法を発動し、何とか防ぐ。

リーゼさんは光の結界を作り出して防ぎ、ユズリハさんは素早く剣で斬り落とし、ピンファさんは俊敏な動きで回避していた。

だけどゴルドンさんだけ捌き切れず、何本かがその身体に突き刺さってしまう。

「ぐぬぅっ……何のこれしき!」

無理やり引っこ抜いた!?

「だ、大丈夫ですか!?」

「がはははっ! 心配は要らぬ! 頑丈さはわしの取柄の一つだからのう!」

血が噴き出しているけど、本当に大丈夫かな……?

ただ、生憎と今は〈痛み止め〉を使ってあげている余裕もない。

「このままでは防戦一方です……っ! 強引に攻めます!」

リーゼさんが叫び、光の結界を纏ったまま距離を詰めた。

枝の鞭と根の槍をその結界で弾きながら、ついにドラゴントレントの鼻先へ。

「はああああああっ!」

裂帛の気合と共に放った刺突が、ドラゴントレントの脳天を直撃する。

「やった……えええっ!?」

一瞬、僕は歓喜の声を上げかけたけれど、すぐに引っ込めることになった。

リーゼさんの渾身の一撃でも、樹表を僅かに削っただけに過ぎなかったのだ。

「あの程度のダメージでござるか!?」

「……ちっ……予想以上に厳しいな」

ユズリハさんが目を剥き、ピンファさんは状況の悪さに舌打ちして、

「……撤退だ。それしかない」

「まだですっ……ライル君の魔法を試していませんっ! 全員でサポートを!」

だけど、リーゼさんは撤退前に試す価値があるとばかりに叫んだ。

「え、僕っ?」

「あなたの〈草刈り〉であれば、ダメージを与えられる可能性はあります! 撤退するにしても、効かせられる攻撃手段があるかどうかで、大きく違いますから!」

確かに何の手もないまま逃げても、相手は余裕で追いかけてくるだけだ。

一方で手痛い反撃を受けるリスクがあれば、警戒が必要になる。

「や、やってみます……っ! 〈草刈り〉!」

まさかこんな大事な場面で頼りにされると思わず動揺しつつも、僕はできる限りの魔力を込め、〈草刈り〉を発動した。

次の瞬間、ドラゴントレントの樹表にぱっくりと亀裂が走った。

「つ、通じたっ!?」

「あれだけ切り裂かれれば、ダメージ間違いなしでござろう!」

「がはははっ! さすがであるな!」

「っ……いや、安心するのはまだ早い」

ピンファさんが注意を促す中、ドラゴントレントは何事もなかったかのように前傾姿勢を取ると、こちらに向かって勢いよく突進してきた。

「まさか効いていないのですか!?」

これにはリーゼさんも戸惑いと焦りを隠せない。

そこでピンファさんがハッとしたように、

「いや、痛覚だ……っ! 恐らく、こいつには他のトレント種と同様、痛覚がない!」

絶望的な情報を口にした。