作品タイトル不明
第18話 運んであげるわ
「〈冷房〉!」
水攻めによって大量の経験値を稼ぎ、新しく覚えた生活魔法の一つ。
本来はひんやりとした気持ちのいい空気を送ることで、暑い夏などを快適に過ごせるようになる魔法なのだが、吹き荒れたのは極寒の風だった。
「~~~~ッ!?」
水攻めでまだ身体が乾いていなかった状態だったこともあり、オークキングの巨体が見る見るうちに凍り付いていく。
気が付けば豚の氷像が完成していた。
「や、やったか……?」
ゼファルさんが震える声で呟く。
なんだろう……なぜか分からないけれど、その台詞はこのタイミングで言ってはいけない気がする。
ビシビシビシッ!
氷像全体に亀裂が走った。
「やっぱり!」
「ブヒイイイイイイイイイイッ!!」
氷が粉々に砕け散り、雄叫びと共にオークキングが自由を取り戻す。
全身から湯気を立ち昇らせながら、再び強襲しようとした、そのとき。
つるんっ!
「ッ!?」
オークキングが盛大に転んだ。
それもそのはず、水溜まりだらけの地面もまた凍りついて、非常に滑りやすい状態になっているのだ。
「ブヒイッ!」
つるんっ!
「ブヒイッ!」
つるんっ!
「ブヒイッ!」
つるんっ!
何度立ち上がっても、すぐに転び続けるオークキング。
「怒りで頭に血が上っているせいか、急に学習能力が低くなっちまったな……」
「今なら狙い放題だね。〈火起こし〉」
「ブヒイイイイイイイイイイイイイッ!?」
転んだタイミングを見て〈火起こし〉を発動すると、オークキングが火柱に呑み込まれ、絶叫を轟かせる。
それでもまだ戦意は衰えていないのか、足元の氷が解けたのを良いことに、こちらへ襲いかかってこようとした。
「ブ……ヒ……」
けれどその前に力尽きてしまったらしい。
炎に包まれながら地面に倒れ込み、そのまま動かなくなった。
「今度こそやったのか……?」
ゼファルさんがまた言ってしまったけれど、さすがにもう大丈夫だろう。
――〈重さ軽減〉を習得しました。
――〈乾燥〉を習得しました。
経験値が入ってきた証拠に、新しい生活魔法を習得できたしね。
オークキングを倒した僕たちは、その後も街中を隅々まで探索し、オークの生き残りがいないことをしっかり確認した。
そうして拠点に戻ると、復興隊の面々から大歓声が上がる。
「これでいよいよ本格的に街の再興に取りかかれるってわけだな!」
「ああ! だが街はほぼ全壊している状態だ。何から手を付ければいいやら……」
「まずは人手だろう! オークの群れを掃討できたと知れば、復興に力を貸してくれる同胞も増えるはず!」
「そうだな! となったら、各都市にいる同胞たちに呼びかけるとしよう! ビラも作って、色んな掲示板に貼らせてもらうのもいいかもしれない!」
長らくオークの群れのせいで頓挫していた中、ようやく復興を進められるとなって、みんなやる気満々だ。
「ライル、それもこれもお前さんのお陰だ。礼を言うぜ」
「いえ、僕はあくまでサポートしただけですから」
「いやあれをサポートと呼ぶのは無理があるだろ」
しかしこれからが彼らにとって本当の戦いだろう。
「確かに人手が必要だね。壊れた建物を作り直すだけでも何年もかかるはずだし」
「そうね。誰かさんみたいに、一瞬で修繕するなんて無理だものね」
「そうそう、誰かさんみたいに……って、それもしかして僕のこと?」
シルアは街の方を指さして言う。
「他にいないでしょ。見なさいよ、あの綺麗に元通りになった防壁を」
「ほんとだ。我ながら見事に修復できたなって思うよ。……ん? ちょっと待って。もしかして……僕の〈修繕〉を使えば、建物とかも元通りにできちゃうってこと?」
僕のその言葉に、盛り上がっていた復興隊の獣人たちが一瞬静まり返ってしまう。
そしてお互いに顔を見合わせると、何かを示し合わせるように頷きあってから、
「「「どうかお願いしますうううううううううううううううううううっ!!」」」
あんなに復興への意欲に燃えてたのに、いきなり他人任せになっちゃった……。
結論から言うと、僕の〈修繕〉を使えば、どんな建物でもあっという間に魔物災害前の姿を取り戻すことができた。
まぁ防壁に効果的だったのに、建物にはできない道理がないしね。
もちろん全部の建物を元通りにするのは、防壁を元通りにするよりも遥かに時間がかかる。
何日もかけながら少しずつ修復していくことになった。
「それにしても本当に変わった建物が多いね」
外壁をよじ登る用の足場があるのは当たり前。
縦方向に置かれた丸太の階段で上階と一階が繋がっていたり、蜘蛛の巣のようなネットが張り巡らされていたりと、バリエーションも豊富だ。
そして街の中心には、シルアが言っていた通りの巨大な塔があった。
この街の象徴的な建造物だったようで、修復してみると復興隊の面々が大いに喜んでくれた。
「これよ、これ。懐かしいわね」
シルアも塔を見上げながら目を細めている。
かと思ったら、いきなり塔を登り始めた。
ロープを伝ったり、不安定な橋を渡ったり、反り立つ壁を乗り越えたりしながら、やがて塔の最上階にまで辿り着いた。
「ライル! あなたも登ってきてよ!」
「無理だよ! 僕、高いところ苦手だし!」
「得意の生活魔法で何とかならないの?」
「ならないよ!」
生憎とそんな魔法はまだ覚えていない。
〈歩行補助〉ならぬ〈登攀補助〉みたいな生活魔法を習得していれば行けるかもだけど、さすがにそんな生活魔法は存在しないだろう。
「仕方ないわね!」
シルアが塔の上から一気に駆け下りてくる。
見ているだけでハラハラするけれど、猫系の獣人にとってこのくらいは余裕なのだろう、あっという間に地上に着地した。
そしてなぜか僕を抱え上げた。
「えっ? ちょっ!?」
「運んであげるわ。怖いなら目を瞑っておきなさい」
「う、うわあああああっ!?」
僕を抱えたままシルアは再び塔を登り始めた。
細身の身体なのに、一体どこにそんな力があるんだろうか。
ジャンプでもしたのか、時々ふわっと身体が浮く感覚に襲われて思わず全身に力が入る。
「重いから力を抜きなさいよ」
「そんなこと言われても!? って、そうだ、これが使えるかも? 〈重さ軽減〉!」
「急に軽くなったわ!」
〈重さ軽減〉は持ち物や荷物の重さを軽くする魔法だけれど、自分自身にも使えるらしい。
そうして運ばれ続けること、しばし。
やがてシルアが足を止めた。
「着いたわ。ほら、見て。良い眺めよ」
「……う、うーん」
だから高いところは苦手だって言ってるでしょと思いつつ、僕は恐る恐る目を開けた。
そこには絶景が広がっていた。
まず飛び込んできたのは抜けるような青い空だ。
この日は雲一つない快晴で、遥か彼方まで美しい青色が続いている。
空とコントラストを形成しているのが、地上を覆い尽くす緑。
防壁よりも高いこの塔の頂上からは、防壁の外の大草原を見渡すことが可能なのだ。
そして眼下にはフェリオネアの街。
まだ街の半分は破壊されたままだけれど、もう半分はアスレチックと立体迷路が融合したような街並みが復活していて、見ているだけでワクワクするような心地になる。
「この眺め……大好きだったのを今でも覚えてるわ。だから、あなたにも見てもらいたかったの」
「確かに、これは一生忘れない光景かも。見れてよかったよ。……怖いけど」
感動のお陰か、その怖さも少し和らいできた。
「でもまだ街の残り半分が元通りにならないと、完全ではないわね。都市が完全に戻ったら、また見に来ましょ」
「それは断固としてお断りするよ!」