作品タイトル不明
第17話 さすがに正気を疑ったけど
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「な、なんていう大雨だ!?」
「さっきまで晴れてたはずだよな!?」
「もはや天変地異じゃねぇか!?」
みんながびしょ濡れになりながら叫ぶ。
もちろん都市だけを狙って雨を降らせたつもりだけど、防壁の外側にいる僕たちの方まで容赦なく降り注いでくるのだ。
「しばらくはこのまま降り続けるはずですけど、段々と雨雲が少なくなってくると思います。そうしたらまた〈雨乞い〉を使う感じですね」
いったん都市から離れ、復興隊の砦で待機することに。
二時間ほど激しく降り続けた後、明らかに雨脚が弱まってきた。
「見ろ、マジで都市の中に水が溜まってきているぜ!」
ゼファルさんが叫ぶ。
砦は小高い丘の上に作られていて、さらに見張り台に登れば、都市の中まで見ることが可能だった。
水はすでに防壁の三分の一くらいの高さまで到達していた。
廃墟の大部分が水に浸かってしまう高さだ。
「オークどもが必死に建物の残骸にしがみ付いてる姿も見えるぜ! やつらはあの巨体だ、そんなに泳ぐのも得意じゃねぇだろうしな!」
「でもまだ一部の建物の上階に逃げたりしてますね。もう一発〈雨乞い〉を発動しておきましょう」
これくらいのスパンなら魔力も十分に回復している。
僕は再び雨雲を呼び集めた。
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「あっ、なんかどんどん経験値が入ってきてる気がする」
きっとオークが溺れて死に始めたのだろう。
防壁を登って逃げようとしているオークもいるけれど、図体が大きいためそう簡単には登ることができない。
「……完全に水攻めね」
シルアが呆れたように呟いた。
「都市を丸ごと使って水攻めするって聞いたときは、さすがに正気を疑ったけど……」
やがて再び雨脚が弱まってきた頃には、水位は都市の三分の二近くにも及び、もはやすべての建物が水に沈んでしまっていた。
「やつら、全滅したんじゃねぇか……? もうぜんぜん水面に見当たらねぇぞ」
「そうですね。水底に沈んじゃったのかもしれません」
僕も七回くらいは魔法を覚えた。
推定で千体いたというオークを全滅させ、相当な経験値が入ってきたようである。
新しい生活魔法は、以下の七つだ。
〈庭いじり〉〈冷房〉〈草刈り〉〈虫よけ〉〈防火〉〈失せ物探し〉〈消臭〉
まだ生き残りもいるかもしれないので、しばらくそのまま水を抜かずに放置することに。
もちろん完全に密閉されているわけではないため、徐々に水位は下がっていき、三日もすればすっかり水が引いてしまった。
「マジでオークどもが死んでやがる……」
水攻めから三日後。
都市の様子を確認しに行くと、まだ至るところに水溜まりが残る中、オークの死体が転がっていた。
念のため警戒しつつ街の奥にまで進んでも、生きているオークは一体もいない。
「お、俺たちが数か月かけても、一向に減らすことができなかったオークどもを……こんなに簡単に……」
「だがこれでいよいよ復興作業に移れるってわけだな!」
「そういや結局、オークどもを統率してるやつは何だったんだろうな? オークキングだって話もあったが……」
と、そんなやり取りをしているときだった。
突然、シルアが何かに気づいたように叫んだ。
「っ……気を付けて! そこのオーク、まだ生きてるわ!」
「「「え?」」」
道端に折り重なるように倒れていたオークの死体の一つだった。
シルアが言い終わるよりも早く、いきなり身を起こしたかと思うと、こちらに猛烈な速度で躍りかかってきた。
「〈そよ風〉!」
「~~~~ッ!!」
僕が咄嗟に風を起こして吹き飛ばしていなければ、その豪腕が復興隊の一人を直撃していただろう。
とはいえ、数体のオークをまとめて吹き飛ばすほどの突風を受けたというのに、数メートルほど宙を舞っただけであっさり地面に着地してしまった。
なんていう体幹の強さだろう。
「まだ生きてるやつがいやがったのか!?」
「水でニオイが消えてるから気づかなかったぜ……っ!」
「普通のオークよりも一回りは大きいぞ!? しかも毛並みの色が金に近い……っ! まさか、こいつがっ……」
その生き残りのオークが凄まじい咆哮を轟かせた。
「ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」
周囲の空気が震え、心なしか地面までもが揺れたような気がした。
その圧倒的なプレッシャーを前に、精鋭ばかりの復興隊メンバーたちですら射竦められてしまう。
間違いない。
オークキングだ。
「こいつは生きてたのね」
「マジか、あの水攻めに耐えやがったなんて……」
「かなり賢いから、上手く乗り切ったのかもしれないね」
仲間の死体に隠れながら機を伺うなんて、並のオークの知能では不可能な芸当だろう。
「〈火起こし〉!」
「ブヒイイッ!」
「躱された!?」
僕が放った〈火起こし〉を、オークキングは信じられない反射速度で避けてしまった。
そのまま再びこちらへ突っ込んでくる。
「しかもデカい上に動きが素早いとかっ!」
「よ、避けろおおおおおっ!」
突進から繰り出されたオークキングの一撃を、獣人たちがすんでのところで回避する。
代わりに豪腕は地面に叩きつけられ、蜘蛛の巣状の亀裂と共にクレーターが生じた。
「それになんてパワーだ!?」
「こんなのまともに喰らったら一溜りもねぇぞ!?」
復興隊の精鋭たちが戦慄する中、オークキングの背後へ果敢に迫る影があった。
シルアだ。
「ふっ!」
渾身の斬撃がオークキングの背中に叩き込まれる。
しかしそれは硬く分厚い皮に阻まれ、ほとんどダメージにならなかった。
「ブヒイッ!」
「~~~~っ!?」
すかさず身を回転させて反撃したオークキングの豪腕を浴び、シルアが吹き飛ばされた。
廃墟の壁に叩きつけられ、瓦礫に埋もれてしまう。
「シルア!」
「ブヒイイイイイッ!!」
容赦なく追撃しようとしたオークキングへ、僕は生活魔法を発動させた。
「〈冷房〉!」