作品タイトル不明
第16話 直してるだけだしなぁ
僕たちはどうにか迫りくるオークの大群から逃れ、街を脱出した。
「ふぅ、ここまで来たらもう大丈夫だろう」
ゼファルさんが安堵したように大きく息を吐く。
「しかし何でまた急に足が速くなったんだ?」
「あ、それは僕の魔法です」
「またお前さんか!?」
「はい。〈歩行補助〉といって、歩くのをサポートする生活魔法です」
「歩行? 完全に走ってたんだが……」
それにしても話に聞いていた通りだ。
やはりこの都市に巣食うオークの群れは、その数もさることながら、軍隊のように統率されているようだね。
「統率者がいるのかも? オークの上位種とか」
「そうだな……あまり考えたくはねぇが」
魔物の中には、下位の魔物を統率するような上位種も存在している。
特に知能の高い魔物に多くて、オークはその条件に当てはまるだろう。
当然ゼファルさんたちもその可能性を踏まえ、統率者の存在を調査しているようだけど、なかなか尻尾を掴ませてくれないという。
「うーん、もしオークの上位種……例えば、オークキングなんかがいるとしたら、どれだけ倒したところで数が減らないかも……」
オークキングは、オークの最上位種だ。
高い統率力を持つ上に、いるだけで群れの繁殖を促すようで、オークが延々と増え続けてしまうと言われている。
「何だと!? オークの上位種に、そんなヤバい魔物がいるってのかよ!?」
「はい。今のところそのオークキングの可能性が高い気がしています。書物で得た情報だけなので、確証は持てないですけど」
実家の書庫には、世界各地の様々な魔物を取り上げた本があった。
それを幼い頃によく読んでいたのだ。
「だったら、そいつを真っ先に討伐してしまうのはどうかしら?」
「だがどこにいるか分からねぇそいつを、あれだけの数のオークを蹴散らしながら見つけて討伐するなんて現実的じゃねぇぞ?」
「確かにそうですね」
僕たちは頭を悩ませる。
と、そこである考えが思い浮かんだ。
「そうだ。水攻めとかどうですかね?」
「「「……は?」」」
何を言ってるんだという顔でみんながこっちを見てくる。
「そんなのどうやってやるのよ?」
「どこか一か所にやつらを集めるってことか? んなこと不可能だぜ?」
「いえ、この都市全体を丸ごと使って水攻めしちゃうんです」
「「「……は?」」」
「えっと、言葉で説明するより、実際にやってみることにしますね」
僕はそう言いつつ、都市を囲う防壁の、壊れた場所へと近づいていく。
「多分、この魔法を使えば直せると思うんですよね。〈修繕〉」
直後、防壁に開いていた大きな穴がみるみる塞がっていった。
やがてすっかり元の立派な防壁に戻ってしまう。
「「「ええええええええええっ!?」」」
「ちょっ、何が起こってるんだ!?」
「防壁が元通りになっちまったぞ!?」
「俺たちは神の奇跡でも見せられているのか……?」
ゼファルさんたちが唖然としているけれど、これは別に神の奇跡なんて大層なものではない。
「これも生活魔法ですよ。〈修繕〉って言って、痛んだり壊れたりした箇所を繕い直す魔法です」
新しく覚えた生活魔法。
その一つがこの〈修繕〉だった。
「毎度のことだけど、あなたの魔法は規模がおかしいのよ」
「そうかな? でも、一から作るならともかく、直してるだけだしなぁ」
そうして僕は、壊れた防壁をどんどん修復させていった。
もちろん一つの都市を囲む防壁で、しかもあちこちが半壊しているわけなので、さすがに一日ですべて終わるはずもない。
数日がかりの大仕事になった。
「……ふう。やっと終わったね。思ってたより時間かかっちゃった」
「私の感覚だと、むしろ『こんなに早く終わるの?』って感じだけれど」
「右に同じだぜ……」
だけど防壁の修復は、まだ作戦の準備段階に過ぎない。
本番はここからだ。
「まさかとは思うけど、防壁を直して穴を塞いでおいて、この都市全体を水の底に沈めようとしてるわけじゃないわよね?」
「そのつもりだけど?」
「……いくらあなたの魔力が無尽蔵でも、さすがに〈水生成〉でこの巨大なバケツを水で満たすのは不可能じゃないかしら?」
シルアの考えに、僕は頷きつつ、
「はは、そうだね。さすがに僕も〈水生成〉だけで、それができるとは思ってないよ。だから別の生活魔法を使おうと思ってさ」
「別の魔法を?」
「うん。ちなみに〈雨乞い〉っていう魔法なんだけど」
「雨乞い……?」
こちらも〈修繕〉と同様、習得したばかりの生活魔法だ。
その名の通り、雨雲を呼んで雨を降らせることができる魔法である。
「そ、そんなもんで、本当に都市ごとの水攻めなんてできるのかよ?」
恐る恐るといった感じでゼファルさんが聞いてくる。
「やってみないと分からないですけど……なんとなく行ける気がしてます。魔力だけで水を作り出す〈水生成〉と違って、自然の力を借りる〈雨乞い〉の方が、少ない魔力でたくさんの水を作れるはずなんです。じゃあ、やってみますね。〈雨乞い〉!」
僕はありったけの魔力を込め、〈雨乞い〉を発動させた。
するとつい今の今まで晴れ渡っていたというのに、あっという間に上空にどす黒い雲が形成されていき、やがてぽつぽつと雨粒が落ちてきたかと思うと、
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
一気に土砂降りになった。