軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19章 『黄昏の眷族』を統べる者  06

帝都プレイオーネからファルクラム領の領都までは、馬車で10日ほどである。

俺たちは途中マラソンをしたりもするので、その半分以下の日数でたどり着くことができる。冒険者というのはそれだけ常識から外れた存在だ。

ちなみに『早駆け』という長距離走スキルを持つマリアネなら、ぶっ通しで走破することによって2日で行くことも可能だそうだ。それを専門にして、飛脚便のようなことをしている冒険者もいなくはないらしい。

城門で出会った『ポーラードレイク』もやはりファルクラム領へ向かうということで、旅は道連れということになった。

3日目までは特に何事もなかった。ジェイズたちは一度『ソールの導き』流野営を見ていて、その影響で彼らの野営装備もかなり充実していた。風呂も完備していたのは驚いたが、ジェイズ曰く「やっぱり女2人の圧が強くてよ……」とのことだった。

4日目、季節はすでに夏を過ぎて初秋である。しかも大陸北部ということで気温はかなり低く、襟をそばだてたくなるほどだ。『冷気耐性』があっても季節的な寒さを感じてしまうのは、それはそれでいいことである気もする。

いくつかの耕作地帯を左右にはべらせるようにして、街道はほぼ北に一直線に伸びている。東西に目をやると森や山脈なども見え、時々川や湖なども目に入る。すでに見慣れた景色ではあるが、前世日本のそれと比較すると、大陸ならではの雄大さ、人工物の少なさがやはり心にとまる。この世界も、千年二千年の後には、地球のように科学技術が発達したりするのだろうか。

そんな感慨にふけりながら歩いている俺の耳に、叫び声のようなものが入ってきた。

街道の先の方からだ。見ると遠くに隊商らしき馬車の集団が停まっていて、黒い獣の群れに襲われているように見える。どうやら冒険者が10人くらいいて戦っているようだが、状況の優劣はわからない。

目を凝らしていたスフェーニアが、きゅっと眉を寄せた。

「あれは『黄昏の猟犬』です。近くに『黄昏の眷族』がいるに違いありません」

「それはことだな。援護が必要かもしれない。走るぞ」

走りながらフレイニルに確認を取ると、やはり『黄昏の眷族』のような気配を感じるらしい。ただまだあの場には現れていないようだ。

近づいてみると、思ったより『黄昏の猟犬』の数が多い。すでに10匹くらいは倒されているようだが、その倍、20匹くらいが遠巻きに隊商と冒険者たちを囲んでいる。

見ている間に『黄昏の猟犬』が火の玉を吐き出し、冒険者が処理しきれなかった数発が馬車に命中して火をつけた。商人たちから悲鳴があがる。

「マズいな。援護しよう」

俺は大声で冒険者たちに「援護する!」と声をかけ、同時に『誘引』スキルを発動した。

手前にいた『黄昏の猟犬』の10匹ほどが首をめぐらせてこちらに向かってくる。もちろん俺たちのところに着く前に、スフェーニアの矢やフレイニル、シズナたちの魔法で全滅してしまう。

隊商の護衛の方も残りの『黄昏の猟犬』を倒したようだ。だが当然、冒険者たちは戦闘態勢を崩さない。『黄昏の眷族』が近くにいるのを知っているからだ。

俺たちが近づいていくと、護衛のリーダーらしき壮年の男がこちらを見て驚いたような顔をした。

「まさか『ソールの導き』か!? しかも『ポーラードレイク』まで! いや、これは助かったというべきか。さすがに『黄昏の眷族』は私たちには手に余るので、どうしようかと思っていたところだ」

見た感じ全員BランクからCランクといった感じだ。護衛としては十分すぎるが、『黄昏の眷族』が相手だと分が悪いだろう。

「『黄昏の眷族』はこちらが相手をするということでいいでしょうか」

「もちろんだ。むしろ頼む」

話の早いリーダーで助かるな。まあ俺たちが有名なのと、相手が相手というのもあるか。

「ソウシさま、近づいてきます。数が多いです。4……いえ、5人……?」

フレイニルの言葉に、護衛と『ポーラードレイク』の面々に緊張が走る。一方で、『ソールの導き』は平常運転なのは一度3人を相手にしているからか。

気配はどうやら空からのようだった。遠目には、ゲシューラと出会った時に戦った翼を持った人間型の『黄昏の眷族』のように見える。

その5人の『黄昏の眷族』は、20メートルほど先の地面に着地すると、「ゲッゲッ」と喉を鳴らした。

そいつらは近くで見ると、以前戦ったアーギとかいう竜人とは違う種族のようだった。身長は2メートルを超すくらい、頭は角が一本生えたトカゲで、全身もトカゲのようにぬめっとした鱗に覆われていて、無論尻尾も生えている。腕が異様に長く、反対に足は短い。両手に持つのは禍々しい形状の三つ又の槍だ。

5人のトカゲ人のうち、リーダーらしき者が前に進み出た。

「ココハ通レナイ。引キ返スナラ見逃シテヤロウ。進ムナラ死ヌコトニナル」

意外にも、その『黄昏の眷族』はかなり緩やかな提案をしてきた。ゲシューラ以外では初めて見るタイプである。

「お前達はここを封鎖しに来たということか?」

「レンドゥルム様ノ命令デナ。イズレニンゲンノ地ハレンドゥルム様ノモノトナル。命ガ惜シクバ従ウコトダ」

「見境なく攻撃はしないと?」

「我ラハナ。他ノモノハ知ラヌ」

トカゲ人の目には、知性と理性が感じられる。これはちょっと悩ましい相手だ。

話が通じるなら、無差別に倒してしまえということはできないだろう。いや、話が通じる『黄昏の眷族』ということになれば、むしろ我々にとっても重要な種族であるかもしれない。

俺が少しばかり悩んでいると、後ろからゲシューラがやってきて俺に並んだ。

「貴様はミギティマだな。お前達もレンドゥルムに下ったということは、ほぼ『黄昏の庭』の統一は終わったということか」

ミギティマと呼ばれたトカゲ人は、ゲシューラの姿を認めて目を大きく広げた。

「オマエハゲシューラ!? アーギニヨッテ討伐サレタトイウ話デアッタハズ」

「見ての通りだ。アーギは返り討ちにした。ここにいる者たちがな」

「ナンダト? アノアーギヲニンゲンガ倒シタトイウノカ?」

「相手にもなっていなかったな。お前達の目の前にいるのは、そういうニンゲンだ」

「信ジラレヌ。アーギハレンドゥルム様ノ側近ガ一人。ニンゲンニ容易ク倒サレルナド……」

「我がこの場にいることがなによりの証拠。疑う余地などなかろう」

ゲシューラが決めの言葉を口にすると、ミギティマは「グ……ッ」と言葉に詰まった。

「お前達は最後までレンドゥルムに 与(くみ) せぬと言っていたはず。なぜ変節した?」

「……力ニハ勝テヌ。レンドゥルム様ハ強イ。我ラノ部族ガ生キ永ラエルニハ従ウシカナイノダ」

「やはりそのような理由か。しかしお前達がここに来て物資輸送の妨害を始めたということは、この大陸に来るのも近いということだな?」

「今ヨリ20ノ日ヲ以テ上陸スル予定ダ」

ミギティマはあっさり答えたが、これは相当に重要な情報だ。

『ソールの導き』のメンバーだけでなく、『ポーラードレイク』の面々も、護衛の冒険者たちも唾を飲みこんでいる。

しかしミギティマはなぜ簡単に軍事機密を口にしたのだろうか。いや、彼らにとっては機密でもなんでもないのかもしれない。力で圧倒できるのだから、隠す必要もないと考えているのだろう。

「ゲシューラ、今カラデモ『黄昏ノ庭』ニ戻リ、レンドゥルム様ニ帰順スルノダ。サスレバ許サレヨウ。レンドゥルム様ハ、イマダニオ前ヲツガイニデキナカッタコトヲ惜シンデイル」

「断る。あのような野蛮な者の子を産むつもりはない。我が欲するのは強く知性のある者。その者はすでに見つかっている」

その言葉に、ミギティマは俺の方をちらりと見た。

後ろではラーニたちもなにか反応しているようだが……。

「ソノニンゲンガ、レンドゥルム様ヨリ強イトイウノカ」

「戦わねばわからぬが、少なくとも我は負けると思っておらぬ。この我がそう判断するのだ」

「……」

ゲシューラが言い切ると、ミギティマは「少シ待テ」と言い、後ろに並ぶ仲間と話を始めた。

5分ほどして、再びこちらへ身体を向ける。

「『黄昏ノ賢者』タルゲシューラ。オ前ノソノ言葉ヲ信ジタイガ、ヤハリ我ラ自身モ自分ノ目デソノニンゲンノ力ヲ確カメタイ」

「戦うか?」

「他ニスベハナイ。ヨイカ?」

後半は俺に向けた確認だ。

いきなりの提案だが、断るという選択肢はなさそうだ。

「構わない。そちらは貴方が戦うのか?」

「ソウダ」

「ならばすぐに始めよう」

俺とミギティマを残し、それぞれの仲間が後ろに下がっていく。「お気を付けて」と小声で言うフレイニルには片手を上げて応えておき、俺は一歩前に出た。