作品タイトル不明
19章 『黄昏の眷族』を統べる者 07
「ユクゾ」
三つ又の槍を構えるミギティマ。
翼を持っているが、飛ぶつもりはなさそうだ。それなら素手で十分だな。俺はメイスと盾を『アイテムボックス』にしまって軽く構えた。
「己ノ力ニ自信ガアルノダナ。レンドゥルム様ト同ジカ」
俺の行為をミギティマは気にしたふうもなく、槍を構えたまま距離を測り始めた。
俺は構えたまま、まっすぐミギティマに向かって距離を詰めていく。
「……ッ!」
射程に入った瞬間、ミギティマの槍が閃いた。
三つ又の槍だが、『幻刃』スキルを使ったのか、その穂先は9本に増えて俺の身体を貫こうとする。
俺はその9本のうち、真ん中の穂先を左手でつかみ取った。ミギティマの一撃は、スピードだけなら昔戦ったザイカルよりも速かったかもしれない。しかしそれでも、俺の動体視力と反射神経を超えることはなかった。
「ムウ……ッ!?」
俺につかまれた槍は、ミギティマがいくら力を込めても微動だにしない。
何度か力を込めて槍を引き戻そうとしたミギティマだったが、タイミングを合わせて俺が槍を引っ張ると、たたらを踏んで俺の射程に入ってしまった。咄嗟に手を離せなかったのは、もしかしたらミギティマも『掌握』に近いスキルを持っていたからかもしれない。
俺はカウンター気味に、右フックをミギティマの側頭部に軽く当てる。俺の動体視力には、その時の風圧でミギティマの頭部の表面が波打ったのが見えた。
本気で当てれば首から上は消し飛んでいただろう。それはミギティマにも理解してもらえたようだ。
「……我ノ負ケダ。オ前ノ力ヲ認メヨウ」
ミギティマはそこで力を抜き、両手を上にあげた。降参のポーズは『黄昏の眷族』も同じらしかった。
その後再び仲間たちが集まってきて、話し合いが再開された。
「『黄昏ノ賢者』タルゲシューラ。オ前ノ言葉ハ真実デアッタ。我ラハコノ地ヨリ身ヲ引ク。同族モ退カセヨウ。ダガ戦場デハソウハイカヌ」
「正しい判断だ。ソウシ、それでよいな?」
「ああ、そうしてもらえるなら一番だ。ただミギティマに聞きたいことがある」
「ナンダ?」
「『黄昏の眷族』には、レンドゥルムに嫌々従っている者はどれくらいいるんだ?」
「我ラ同様、最後マデ抗ッテイタノハ8部族、300人ホドダ」
「その部族は、戦場ではどういう扱いを受ける?」
俺の質問に、ミギティマは「グッグッ」と喉を鳴らした。
「……恐ラクハ、最前列ニテ戦ウコトニナロウ」
「そうか……。レンドゥルムの軍はどのくらいの数になるか聞いてもいいか?」
「3000、トイッタトコロカ。『黄昏ノ眷族』ノ、戦ウ者ホボスベテダ」
「意外と少ないな。その程度ならなんとかなるか。済まないな、助かる」
「ゲシューラノツガイニシテ強キニンゲンヨ。我ラヲ含ム8部族ハコノ戦イハ望ンデハオラヌ。恐ラクハ『黄昏ノ眷族』ノ半数ハ同ジ考エノハズ。オ前ガ真ノ強者ナラバ、デキレバ早期ニレンドゥルム様トノ一騎打チニテ決着ヲツケテ欲シイ。我ラヲ力デ従エテイル以上、挑マレレバ断レヌカラナ」
「いい話を聞いた。その方向で考えよう」
「デハ、サラバダ」
ミギティマたちは翼を広げると、そのまま振り返らずに飛び去っていった。
その後ろ姿が見えなくなると、場の空気が一気に緩んだ。
「ゲシューラのおかげでうまく話がまとまったな。しかし話がわかる『黄昏の眷族』も多いようだな。彼らが人間を敵視しているわけではないのも感じられた」
「うむ。むしろ関心がない者の方が多かろうな。ただ部族や個人によっては他種族に異常な敵意を持っている者もいる。そういった手合いはさすがに倒すしかない」
「本当に様々ということか」
息を吐いて、振り返る。
『ソールの導き』のメンバーはゲシューラとも仲がいいのと、俺のやり方も知っているので今のやりとりに納得しているようだ。全員が微笑んだりうなずいたりしている。
驚いた顔なのは『ポーラードレイク』の面々と護衛の冒険者たちだ。彼らにしてみれば、宿敵ともいえる『黄昏の眷族』と会話をし、軽く戦った上で取引をするなど、完全に常識の外にある行為であろう。
いち早く回復した『ポーラードレイク』のジェイズが、俺の方に寄ってきた。
「ソウシさんすげえな。まさか『黄昏の眷族』と普通に話をして軽くひねった上に相手の情報を聞き出すとか、俺にはなにが起きたのかすらよくわからねえわ」
「幸い交渉できる人材がこちらにはいましたからね」
「いやそういう問題だけじゃないと思うが……。ところでやっぱそっちの人は……なんだよな?」
ゲシューラをちらりと見て、ジェイズは声を低めた。
「ええ。彼女は『ソールの導き』の仲間ですよ」
「ああすまん、どうやらそうみたいだな。というかソウシさんの……ってのは野暮か。しかし今の話、すぐにグランドマスターに報せないとマズくないか?」
「それはこちらにお任せください。連絡する手段を持っていますので」
「マジか。さすが大陸一のパーティだな。そういや伯爵様なんだったか。『通話の魔道具』とかも借りられるんだな」
「ええ、そういうことです」
と答えたが、そんな制度があるのは初耳だった。領地を持つと借りられるとか、そんなシステムなのかもしれない。
「すまん、ちょっといいかな?」
護衛の冒険者のリーダーが、恐る恐るといった様子で入ってくる。
「今の話は、俺たちは聞かなかったことにした方がいいんだよな? 貴方たちがそう言うなら口止めをするが」
「そうですね。ギルドから正式な通達があるまでは口外しないほうがいいと思います」
「わかった。いやしかし、まさかこんな場面に出くわすことになるとは思わなかった。やっぱり闘技大会優勝者ってのは世界が別なんだな」
そんなことを言いながら、リーダーは仲間の方に戻っていった。なお商人たちは少し離れたところに退避していたので話は聞こえていなかったはずだ。
しかし思わぬところで思わぬ情報が手に入ってしまったな。これも『悪運』の手引きというなら納得はいくが、『黄昏の眷族』が話の通じる者たちだと体感できたのは、俺としては大きな話だ。
恐らく皇帝陛下としても、これで対応が少しは取りやすくなるのではないだろうか。