軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18章 帝都 ~武闘大会~  43

「う~ん、なんだかゴーストかなにかに化かされた感じ。最後なんで当たらなかったんだか全然わからないのよね」

家に戻り、夕食が終わって皆でリビングでゆっくりする時間になっても、ラーニはしきりに首をひねっていた。

「剣が弾かれる時はどんな感触なんだ?」

「あれも不思議なのよね。剣が受け止められたと思った瞬間、身体ごと別の方向に流される感じ。流されるっていうか、なんか最初からそっちに剣を振っていたみたいになるの」

「やはり単純に攻撃を弾く技ではない感じか」

「多分ね。あれがスキルだとすると、剣を合わせるのがスキル発動の条件で、そのスキルが発動するとこっちの身体が操られるとか、そんな感じかな。前の相手を見ててもそんな感じしたでしょ?」

「たしかにそう見えたな。しかしそうすると、最後の『飛刃』が逸れたのはおかしい気もするが」

「そうなのよね~。あれはいい手だと思ったんだけどな~」

ラーニが足をバタバタさせると、隣に座るカルマがその頭をごしごしとなでた。

「狙い自体はよかったと思うけどねえ。というかよく戦ったよラーニは。観客もあそこまで粘った奴はいなかったって言ってたよ」

「でも一太刀くらいは当てたかったな~。あ~もう悔しい、ソウシ、絶対仇は取ってよね!」

「仇ってことはないだろう。まあ全力は尽くすが」

「何か突破口は見えてるのかい?」

カルマが言うと、その場にいた皆が俺に注目する。しかしその期待に応えられるたしかな考えは、実はもっていなかった。

「正直なにもないな。全力でやるだけさ」

「え~、大丈夫なのそれ?」

ラーニが半目になって、疑わしそうな目で見てくる。

それに俺が答えようとしたとき、使用人のミルグレットさんがやってきた。

「お館様、皇妹殿下がいらっしゃいました。」

「マリシエール殿下がこんな時間に? いやわかった、俺が行こう」

俺と同じく驚いた様子の皆を置いて、玄関まで迎えに出る。たしかにそこにいたのは、紫がかった銀髪が魔道具の灯りを浴びて輝くマリシエール殿下に違いなかった。

しかもいたのは彼女一人である。いくら帝国最高位の冒険者とはいえ、女性が夜の一人歩きとはかなり無茶ではなかろうか。

俺は殿下を応接の間に通そうとしたのだが、「あの……できれば皆様と一緒がいいのですが……」と言われ、皆がいるリビングに案内した。

マリシエール殿下が入ると、さすがにラーニやカルマも緊張した感じになった。帝国人であるサクラヒメなど見た瞬間固まっていたくらいだ。

殿下は腰の剣を外すと、ソファに腰を下ろした。その所作は、やはり皇妹という立場にふさわしくたおやかである。

「ええと、オクノ伯爵様、急に申し訳ありません。明日の戦いの前にどうしてもお話をしたくて、無理をして来てしまいました」

「いえ、殿下にいらっしゃっていただけるのはとても嬉しく思います。昼間の試合のこともありますし、もしかしたらこちらから伺わないといけなかったのかもしれません」

俺が頭を軽く下げると、殿下は慌てて首を横に振った。

「い、いえ、モメンタルに関してはすべて話は聞いております。今こちらへうかがったのも、実はそのことをお伝えするためだったのです」

「それは、何か新たにわかったことが?」

「そうではなく……モメンタルの身体を調べたところ、やはり表面以外は人間とは違った物質で形作られているようだったと……。その体も、あの後すぐに崩れてしまったそうですわ」

「そうでしたか……。ファルクラム侯爵はどのような反応をしていらっしゃたのでしょうか」

「ずっと取り乱していて、かける言葉もないような状態だったそうです。モメンタルの遺体は崩れてしまったのですが、それをそのまま引き取って、ご自分の館にこもってしまったそうですわ」

「なるほど。……私に対する恨み言のようなものはおっしゃっていましたか?」

俺の質問に、マリシエール殿下は眉を寄せて言いづらそうにした。

「……かなり大声で、そのようなことを言っていたとは聞いています。ただ、兄が言うには少し不自然なところもあったとは言っていましたわ。周りにわざと聞かせるような、そんな雰囲気があったと言っておりました」

「なるほど……。しかしそのような状態では事情を聴くわけにもまいりませんね」

「ええ。ただもちろん監視は以前にも増してつけているとのことですわ。それに関しては心配することなく、明日の試合に臨んでほしいとの兄からの言葉を預かっております」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」

「わたくしもモメンタルの件ではオクノ伯爵様には何も思う所はございません。むしろお礼を言わなくてはならないことですわ。彼もあのような状態で操られていたことは、さぞ無念であったことだと思いますので」

「お心遣い感謝いたします。殿下にそう言っていただけると、肩の荷が下りた気がいたします」

俺が再度頭を軽く下げると、マリシエール殿下は「安心いたしました」と口もとをおさえながらにこりと笑った。

「わたくし、オクノ伯爵様とはなんの言い訳もないところで戦いたいと思っております。これほど心が 昂(たかぶ) るのは、もしかしたら初めてのことなので」

そう言った時の殿下の目は、令嬢のそれではなく、まさに冒険者、いや戦士としてのそれだった。彼女は根本はやはり戦いにあるのだということが言下に強く伝わってくる。

俺がその言葉にどう返すべきか一瞬迷っていると、ラーニが横から殿下に声をかけた。

「ねえマリシエール様、マリシエール様のスキルっていったいどういうスキルなの? 私の最後の攻撃が両方とも外れたのがどうしても納得いかないのよね」

相変わらず怖いもの知らずラーニだが、さすがに相手がマリシエール殿下となると俺も腰が抜けそうになってしまう。

他のメンバーもそれぞれ驚いた顔をしたり、口をおさえたり顔を覆ったりとリアクションをしていたので皆同じ気持ちだったのだろう。

しかし当の殿下は「ふふっ」を微笑んで平然としていた。

「さすがにわたくしのスキルの秘密はお話できませんわ。ただスキルの名前だけはお教えしましょう。『告運』、それがわたくしだけが持つ特別なスキルです」

『告運』、意味深な名前である。普通に考えれば『告げられた運命』もしくは『運命を告げる』という意味だろうか。俺が持つ『天運』と何か関係があるのか……というのはさすがに考えすぎか。

「『告運』かぁ……。名前だけじゃ分からないわね。でも攻撃が当たらなかったのはそのスキルのせいってことでいいの?」

「ええそうです。ラーニさんの攻撃は見事でしたわ。実は少し冷やっとしました。私が戦った中でも間違いなく1、2位を争う強さだと思いますわ」

「う~ん、それならまあいっか。でももっと強くならないとダメってことよね」

「強さに上限はありません。わたくしも常に上を目指しています。そうでないと守れるものも守れなくなってしまいますから」

そう言うマリシエール殿下の瞳はどこか辛そうなところもあった。彼女にも色々と過去があるのだろう。もしかしたらモメンタル青年についても、何か悔いのようなものがあるのかもしれない。

その後も一時間ほど皆と旅の話などをして、マリシエール殿下は城へと帰っていった。さすがに夜道を一人で帰すわけにもいかなかったので俺が城門まで送ることになったが、その道すがら、「オクノ伯爵様の家はとても居心地がいいですね。お城ではあんなふうに楽しくお話ができないので羨ましいですわ」と少し寂しそうに言っていた。

彼女の立場だと仕方がないところもあるのだろうが、それだけに彼女にとっては冒険者活動というものは、自分を解放できる意味をもっているのかもしれない。

城門で別れる時に、俺はマリシエール殿下に皇帝陛下へ、とある言伝を頼んだ。

今までの経験からいって、やはりなにかあるとしたら明日だろう。決勝戦の闘技場というシチュエーション以上に、仕掛けるに適したタイミングはないはずだ。

「ふふっ、わたくしと戦う前に、すでにその後のことまでお考えになっていらっしゃるのですね。オクノ伯爵様は、やはり兄が言うように器が大きい方のようですわ」

最後にそんなことを言われてしまったが、皇帝陛下はどこまで俺を過大評価しているのだろうか。ともあれ俺としては、できる限りのことはやるだけだ。身に合わない評価をされている人間として、それがもっとも誠実な対応というものだろう。