作品タイトル不明
18章 帝都 ~武闘大会~ 44
翌日、ついに決勝の日を迎えた。
決勝戦は前座として騎士団の演武などが行われていて、試合開始は正午の半刻前(1時間前)に開始となる。
俺たちは試合開始のさらに半刻前に闘技場に入ったが、闘技場の周囲は恐ろしいほどの人いきれであった。帝都中の人間が集まっているのではないかと思うほどだが、逆に『冥府の燭台』が何か仕掛けてくるとすると、かなり厄介なことになりそうでもある。
よく見ると衛兵の数も多く、武装している冒険者のパーティも大勢警備に駆り出されているようだ。アーシュラム教の神官の姿も見えるので、そちらの協力も得ているのかもしれない。
ともかく俺はいつものとおり控室に入り、メンバーは貴賓席に向かった。もちろんメンバーには口々に応援の言葉をもらった。大会の決勝など人生でも初めてのことであるが、やはり仲間がいて応援をしてくれるというのはありがたいのだと肌で感じる次第だった。
控室で準備運動をし、係員が来るのを待つ。ちなみに今日は、『アイテムボックス』の中のものはほとんど家の庭に出してきた。「え~、今まで入れっぱなしで戦ってたの?」と、ラーニを始めメンバー全員に呆れられてしまった。
外から聞こえてくる歓声によって、前の出し物が終わったのが分かる。それから5分ほどして係員がやってきた。俺は『万物を均すもの』と『不動不倒の城壁』を持って舞台へと向かう。なお昨日の戦いで損傷を受けた鎧だが、帝都の腕利きの防具屋の手によって実用レベルまで修復されている。
舞台へ上がるとすさまじい歓声に包まれる。もはや物理的な波となって押し寄せてくるようにすら感じられるほどだ。
ただその圧力も俺には遠く、むしろ心地よい。
貴賓席を見るとメンバー全員の顔が見える。フレイニルが両手を合わせて祈っているのもいつも通り。ラーニとカルマ、シズナは手を振り、スフェーニアとマリアネ、そしてサクラヒメはこちらをじっと見てるだけ、ゲシューラがピクピクと尻尾を動かしているのが面白い。
『虹龍の方角は「ソールの導き」のソウシ! 本選初出場』
メイスを振り上げると歓声のボルテージが一段階上がる。
向こう側から、長剣を携えたマリシエール殿下が舞台に登ってきた。薄く紫がかった銀の髪と白銀の鎧、整った容姿と合わせてもはや神々しささえ感じさせる出で立ちだ。
『暁虎の方角は「睡蓮の獅子」のマリシエール! 本選出場3回、優勝3回』
アナウンスと同時に、爆発とも言えるような音の奔流が舞台になだれ込んでくる。
殿下も長剣『運命を囁くもの』を天に掲げ、その歓声に応える。もはやそれだけで一幅の絵画といってもいいような光景だ。
互いに中央によって、剣とメイスの先を合わせる。精緻な装飾のほどこされた『運命を囁くもの』と、武骨としか言いようのない『万物を均すもの』は、あまりにも対照的な組み合わせだ。
「殿下、全力で戦わせていただきます」
「どのような戦いになるのか、本当に楽しみです。わたくしはこの瞬間のために冒険者を続けてきたのかもしれませんわ」
そう答えるマリシエール殿下は、いつもの人見知りな様子は一切ない。今目の前にいるのは、紫紺の瞳に戦う者の光を宿す、帝国最強の剣士に違いなかった。
「ご武運を」「ご武運を」
開始位置まで下がり、俺はメイスと盾を軽く振り回す。いつもよりも軽く感じるのは当然か。さて、この力が殿下のスキルに通用するのか。まずはそこからだ。
『始めよ!』
30メートル向こうに銀色の剣士。心拍も呼吸も問題ない。さて、まずは小手調べといくか。
俺はゆっくりと歩いて前に出る。盾を前に、メイスは斜め後ろに。
殿下は動かない。長剣の切っ先を床に着けるようにして構えたままだ。
距離が狭まる。20メートル、俺の有効射程距離内だ。
「……ふっ!」
メイスを横殴りに振る。もちろん『衝撃波』だ。
不可視の力の波が、扇状に広がりながら殿下へと殺到する。
下がるか、受けるか、それとも――
殿下が長剣を、す、と振り上げた。それだけで、俺の放った『衝撃波』が上に逸れた。
いや、衝撃波自体は不可視、本当に逸れたのかは不明だが、少なくとも俺にはそう感じられた。
それでも構わず連続で『衝撃波』を放つ。その度ごとに殿下は長剣の先を滑らせ、自身の身には不可視の力を届かせない。ただ、その銀の髪は強い風にあおられたようになびいているので、完全に防いでいるというわけでもなさそうだ。
俺はなおも前に出ながら『衝撃波』を放ち続けた。全力ではないが、それでも石の舞台にひびが入るほどの威力は出ている。
それでも殿下は半歩も動くことなく、そのすべてを 捌(さば) き切った。
そして今、白銀の剣士は俺の目の前にいる。一歩進みながらメイスを振れば、その高貴な体に 槌頭(つちがしら) が届く距離。
「さすがに受けるのに精一杯でしたわ」
マリシエール殿下は微笑みを残して、瞬時に俺の左に回り込んだ。
『疾駆』スキル、殿下の速さはマリアネのそれに匹敵していた。もはや瞬間移動に近いが、俺の動体視力と反射神経は辛うじて追随する。
水平に振るわれた『運命を囁くもの』を、『不動不倒の城壁』で受ける。凄まじい音、そして衝撃。細身の体からは想像もできないような重く激しい剣撃だ。超高レベルの身体能力上昇スキル、それに『超爆』スキルも持っているかもしれない。
身体が押し込まれ、そしてさらに不思議なことに、上半身が勝手に流れる感覚がある。殿下に対して隙ができるように、盾がわずかに外側に開いてしまう。
その隙間に、殿下は強引に刃を滑り込ませてくる。俺は身体をねじってその一撃をかすらせるだけにとどめ、カウンターでメイスを振るう。
瞬時に剣を引いた殿下は、破壊の権化を剣で弾く動作をする。槌頭が剣に触れた途端、メイスが上に逸らされる。いや、ラーニが言う通り、最初からその方向にメイスを振っていたような感覚に陥る。
「ふふっ、さすがオクノ伯爵……っ!」
だがそこで、マリシエール殿下の体勢がわずかに崩れた。どうやら俺のメイスは、彼女のスキルをもってしても完璧に弾けるわけではないようだ。
そこから数秒か、数十秒か、長剣とメイスの、近距離での差し合いが始まった。
俺は殿下の剣撃を盾で受け止め、殿下は俺のメイスを長剣で弾く。俺は力で押し、殿下はスピードで圧倒する。
やはり殿下の斬撃を受け止めるたびに、盾がわずかに流される。メイスが弾かれるたびに、身体の動きを強制的に変化させられている感覚がある。
どちらも力でそうさせられているわけではない。まるで最初から、そうであるべきだと告げられているように、その状態にされてしまう。