作品タイトル不明
17章 帝都への長い道 05
地下1階から2階は多数の『ミノタウロス』を一方的に払いのけて進み、3階4階では人面ライオンの『マンティコア』をやはり一方的に殲滅し、5階では翼竜の『ワイバーン』を倒しつつ中ボス部屋まで休みなしで進んでいった。
重厚な石の扉の手前で、ラーニは少し拍子抜けしたように言う。
「う~ん、手応えがないね。5階の中ボスはなんだっけ?」
「『メタルビースト』ですね。四本足の獣型のゴーレムです。物理的な防御力が高く、動きも早いボスです。ゴーレム系なので魔法も効きづらい難敵です。弱点は関節部分で、足を奪って倒すのがセオリーとなっています」
情報担当のマリアネがすらすらと答えるが、ラーニは耳をピクピクさせながら肩をすくめた。
「でも物理型でしょ? だったらソウシなら一撃だよね」
「そうなるでしょうね。大型の敵ではありますが、ソウシさんのメイスに耐えられるということはないでしょう」
「だって。複数できてたらとりあえずソウシが前にでて倒しちゃってね。ただ一体は残して欲しいかな」
ラーニが俺の肩をぽんぽんと叩く。まあ俺としてはザコ戦がほとんど出番なしだったので、その提案はありがたいといえばありがたい。
「わかった、それでいこう。では入るぞ」
俺を先頭にボス部屋に入る。なかはサッカーコートほどもある広い空間だ。
こちらが陣形を整えている間にボスが出現する。
体高2メートル以上はありそうな、ネコ科を思わせるフォルムの、全身鈍色の金属で覆われたゴーレムである。口には剣のような牙、そして前足にも刃のような爪が生えている。
現れたのは3体、見た感じすべて通常ボスのようだ。
「よし、来い」
俺は前にでて『誘引』スキルを発動。3体のメタルビーストが弾かれたように迫ってくる。
先頭の一体は両前足を広げ、その爪で引き裂いてこようとする。俺はその前足を振り上げたメイスで迎え撃つ。鋼鉄製の前足が紙細工のようにひしゃげ、返すメイスで頭部も同じ末路を辿る。
2体目は横から噛みにつきに来たが、それは完全に悪手である。慣性を無視した動きで振るわれるメイスがその横っ面に叩きつられると、メタルビーストの頭部は液体になったかのように飛散した。
先の2体が一瞬で破壊されたのを見て、最後の1体は寸前で攻撃をやめて飛びのいた。
『翻身』スキルもちの動きだが、恐るべきはその判断力のほうか。ゴーレムではあるが高度な知能もあるということらしい。
「ホントに一撃だから呆れるわね。じゃあソウシ、後は任せてっ!」
ラーニとカルマ、マリアネとサクラヒメが俺を追い越して前に出る。
身構えているメタルビーストに後衛組の魔法が次々を襲い掛かるが、それはさすがにひらりひらりとかわされる。それでも何発かは着弾していて、表面を 抉(えぐ) るくらいのダメージは与えている。
カルマとサクラヒメが正面左右から攻撃を仕掛ける。カルマの大剣をかわしたメタルビーストだが、サクラヒメの振るう薙刀の刃を前足に食らう。命中した瞬間に薙刀の先端が分裂したように見えたのは、『幻刃』というスキルの効果だろう。メタルビーストの前足に三条の切断跡が残る。
一瞬怯んだように見えたメタルビーストだが、反対の前足でサクラヒメを切り裂きにいく。
「そうはいかないよっ!」
その爪を大剣で受け止めたカルマは、そのまま力で前足を押し返す。
一瞬の隙を逃さず、ラーニのミスリルソードが後ろ足の関節部を切り裂いた。『大切断』『急所撃ち』のスキルがいい仕事をしている。さらにマリアネも反対側の関節を狙う。さすがにこちらは切断まではいかないが、どうやら『行動停止』の付与を与えたようだ。
「首はもらったっ!」
動きを止めたメタルビーストの頭部をカルマの大剣が真っ向から兜割りにして、ひとまず初のAランク中ボス戦は幕を閉じた。
三つ現れた宝箱はすべて銀箱で、出てきたのはオリハルコンインゴット2つと『俊敏+3』の効果がついた銀の腕輪であった。
「すまないが高レベルの『俊敏』は俺に必要なので使わせてもらいたい」
と言うと、一も二もなく了承された。
問題はそのために、効果が被る『俊敏+2』のついた真珠の指輪が必要なくなったことなのだが……
「これをどなたがつけるのかは、夜の食事の後にゆっくりと話し合いましょう」
いつになく迫力のあるスフェーニアの様子に、フレイニルとラーニ、そしてシズナとカルマが真剣な顔でうなずいていた。マリアネは前回『俊敏+1』の指輪をすでにもらっているので我関せずの様子である。
たぶんまたくじ引きになるのだろうが、Aクラスダンジョン攻略中にそういったことで盛り上がれる余裕があるのだから大したものである。
明けて攻略2日目。
寝起きからスフェーニアの機嫌がいい。昨日の夜のくじ引きに勝ったからのようだが、「この指にちょうど合うので」と言って左手の薬指につけているのが俺としてはちょっと気になる。
こちらの世界での指輪の扱いがどうなのかは知らないが、聞くとなんとなく墓穴を掘りそうなのでやめておいた。ちなみにマリアネもしれっと指輪の位置を左薬指に変えていた。
さてダンジョンだ。
地下6・7階では大剣を持った鬼『オーガアデプト』、8・9階では巨大イノシシの『ティタノボア』、10階は『スモールドラゴン』だった。
これは『王家の礎』の1~5階と同じであるが、物理系ばかりなので『ソールの導き』にはまったく問題にはならない。『オーガアデプト』などは同時に10数体現れるが、スフェーニアとフレイニルとシズナとゲシューラが『先制』スキルの魔法攻撃で10体前後を処理してしまうので前衛の出番がないほどである。
なお『ティタノボア』のおかげで高級肉が大量に手に入り、獣人のラーニとカルマが狂喜乱舞していた。密かにエルフのスフェーニアも嬉しそうな顔をしていたのは確認済みである。
ボスはCクラスダンジョンのレアボスだった『フリージングリザード』2体だった。
氷属性の巨大トカゲだが、すでに戦っている相手なので問題にはならない。スフェーニアの上級火魔法『フレアサークル』で1体がほぼ瞬殺だったのには驚いた。
「恐らくソウシさんの『将の器』の効果が大きいのだと思います。私の記憶ではフレアサークルはここまで強力な魔法ではありませんし」
とのことで、これが『将の器』スキルのレベルが上がったことと関係があるのなら、『将の器』の有用性は想像以上のものになりそうだ。
宝箱は両方銀で、一つは『エレメンタルシルク』、もう一つは『オリハルコンインゴット』だった。
妙にオリハルコンが集まりやすい気がするのだが……ドワーフの里に早く行けと急かされている感じさえする。
「ねえソウシ、今日はあと5階行けないかな?」
ボス部屋を出てセーフティゾーンに入ると、ラーニがそんな提案をしてきた。
確かに体感で4~5時間というところなので時間的には行けなくはない。
しかしメンバーを見渡してみると、やはりシズナとサクラヒメが少し疲れを見せている。彼女たちは実力的にはまだAクラスは早いはずなので仕方ないところだ。
「いや、初めてのAクラスだから慎重にいこう。この先一気に難易度が上がる可能性もあるからな」
「そっか~。まあそうよね。安全第一が大切だし、今夜はあの肉を美味しく食べたいからゆっくりした方がいいか」
ラーニもなんとなくサクラヒメたちの様子に気づいたようで、そのまますぐに野営の用意に入った。