作品タイトル不明
17章 帝都への長い道 04
一日休息の翌日、ついにAクラスダンジョンへと挑戦をすることになった。
地下30階が最下層と想定されているダンジョンで、初のAクラスということもあり一応1日5階の攻略で6日を見込んで準備をした。ちなみに「地下30階が最下層と想定されている」と言ったとおり、このAクラスダンジョンは地下27階までしか攻略されていない。このダンジョンを完全に踏破した時に初めて俺たちは冒険者としてダンジョンを攻略した、と言えるのかもしれない。
王都から歩いて2時間の所にあるAクラスダンジョンは、古代遺跡を思わせるフィールドの、その中央に鎮座する石の祠に入り口があった。
「いよいよAクラスダンジョンっ! ん~、やっぱりちょっと緊張するかも」
といいつつ嬉しそうな顔の狼獣人剣士のラーニ。
大剣を背負った虎獣人カルマと鬼人族の巫女シズナが同調して、
「ようやくここまで来たって感じだね。でもここからがアタシたちにとっては本番みたいなもんかな」
「まさかこれほど短期間でAクラスダンジョンに挑むことになるとは思わなかったのう。しかし皆が一緒なら安心して臨めるのじゃ」
とこちらも楽しそうな顔をしている。
一方でハイエルフのスフェーニアと、ギルド専属職員のマリアネは真剣な面持ちで入り口に視線を注いでいる。
「いよいよAクラスダンジョンですね。アナトリアもAクラスダンジョンはかなり苦戦したと聞いています。『ソールの導き』なら問題はないでしょうが、覚悟をもって挑みましょう」
「王都のAクラスダンジョンはいくつものAランクパーティが挑んで撤退を余儀なくされた未踏破のダンジョンです。しかも『ソールの導き』ですと難易度がさらに上がるのですから、絶対に気は抜けません」
「俺としても事前情報なしの28階から先は怖いとは感じるな。危険だと感じたら、教会から借りている『還りの鈴』を遠慮なく使おうと思う」
いまさらながらに情報の大切さと、ギルドでまとめられているガイドブックの大切さが身に沁みる。ともかくも重要なのは一人も欠けることなく生還することと、リーダーとして指針を示しておく。
気になるのは『ソールの導き』として経験の浅いゲシューラとサクラヒメだ。Bクラスダンジョンで連携はかなりとれるようになってきたが、その練度を最下層まででどこまで高められるかも重要になるだろう。特にBランクのサクラヒメはスキルの取得数やスキルレベルが十分ではない。他のメンバーに比べて注意が必要である。
本人もそれを感じているのか、多少不安そうな様子で俺のところにやってくる。
「ソウシ殿。それがしはまだAクラスダンジョンに挑む十分な力はないと存ずる。足手まといと思ったならすぐに言ってほしい」
「サクラヒメの考えはわかった。ただダンジョン攻略はあくまでパーティ全体の力で挑むものだからな。サクラヒメの役割は必ずあるし、そこまで気負わなくて大丈夫だ」
「私の『神の後光』で敵も弱くできますし、『神の祝福』で皆さんの力を増すこともできます。それにソウシ様がいらっしゃいますから絶対に大丈夫です」
珍しくフレイニルが自分から励ますようなことを言ってくる。この間の聖女騒ぎでフレイニルもさらに成長をしたようだ。
「フレイ殿、かたじけない。それがしは前衛、後衛であるフレイ殿たちを守るのが役割でござる。その役は確かにまっとういたそう」
「後衛の守りはわらわの『精霊』もおるし万全じゃ。その上でサクラヒメがおれば 鬼(オーガ) に金棒といったところじゃのう」
シズナは和風つながりでサクラヒメには親近感を抱いているようだ。
「うむ、シズナ殿も必ずや守り通そう。しかしあの『精霊』はいつ見ても面妖で面白い。父上にも見せてやりたいものだ」
女子同士でそんな話が始まる。
後は半人半蛇の美女ゲシューラだが、彼女は腰の『アイテムボックス』付きバッグから、杖とバックラーを取り出すところだった。人前では使わないように言ってあるので、彼女も周りに人がいるかどうかは確認はしている。
「ゲシューラ、問題はないか?」
「問題ない。Bクラスのダンジョンがあの程度であれば、我の力はAクラスでも十分以上に通用するだろう。我はすでにこのパーティの一員、言ってもらえればいつでも全力を出す」
「頼りにしている。特に今回は未知の敵にも挑むことになるからな。ゲシューラの力はあてにさせてもらう」
今までのダンジョンでゲシューラの実力を測っていたが、『黄昏の眷族』だけあってやはり確実にAランク冒険者以上の力はあるようだ。特に彼女にしか使えない雷魔法や、大きな真空の刃を作り出す風魔法が強力で、Bクラスダンジョンですら彼女一人で踏破できそうなレベルであった。
「よし、全員用意ができたらダンジョンに入るぞ」
そう声をかけ、全員の様子を確認してから俺はダンジョン入口へと向かった。
遺跡のAクラスダンジョンの1~5階は、遺跡を思わせる石組みの通路が奥へと一直線に続く、構造としてはかなり単純なダンジョンである。
通路のところどころに広くなった部屋があり、基本的にモンスターはそこで出現する形になる。
その部屋はそれぞれがボス部屋なみに広く、狭いところでもテニスコート2面分くらいはある。
もちろん『ソールの導き』の特性として、出現するモンスターの数は恐ろしく多い。
例えば地下1階にはDランクのボスだった牛頭人身の巨人『ミノタウロス』がザコとして出現するのだが、通常2~3体のところ、一度に8体前後が現れるのだ。
さすがに『ミノタウロス』8体は驚いた、というより俺としては半ば呆れてしまう感じだったのだが……
「先制します。『フレアサークル』!」
スフェーニアの上級炎魔法で一体が炭になり、
「『神の審判』!」
フレイニルの放つ光の柱に一体が飲み込まれ、
「一体は我がやろう」
ゲシューラの雷魔法で一体の身体が裂け、
「わらわも負けてはいられぬ!」
シズナが放った20本の岩槍が一体を串刺しにし、
「もらいっ!」
一瞬で距離を詰めたラーニが太い首を刎ね、
「ここです」
完全に気配を消したマリアネが、背後から一体の延髄に刃を突き入れ、
「おらぁっ!」
カルマが正面から唐竹割りにし、
「それがしもっ!」
サクラヒメが、こちらは多少立ち回りつつも危なげなく一体を切り伏せ、
8体のミノタウロスが一瞬で全滅する様子に、俺は『ソールの導き』自体が異常な力をもちつつあることを実感するしかなかった。