作品タイトル不明
16章 王都騒乱 15
「俺がやる、守りをかためてくれ!」
『不動不倒の城壁』を取り出して、デュラハンの前で構えを取る。
禍々しいオーラをまとい、隙なく槍を構える首無しの騎士は、たしかに対峙しただけで強者とわかる風格がある。
「『後光』いきます!」
遠くでフレイニルの声が聞こえ、会場全体が光に包まれる。『神属性』が知られてしまうが、フレイニルが覚悟を決めて使った以上そこはもう考えるところではない。なにより今は多くの人間の命がかかっている状況だ。
『神の後光』の光が薄れていく。Aランクモンスター相手だと効果が弱いかと思ったが、どうやらアンデッドには効くようだ。デュラハンのまとうオーラが目に見えて弱まったのが分かる。
「来いっ!」
『誘引』スキルを使ってやると、アンデッドの馬がいななき、瞬時に突撃態勢へと移行した。
『疾駆』を使った騎士の突撃、だが『後光』の効果のせいか動きは意外に鈍い。とはいえ目の前に真紅の槍が迫るまでに瞬きする余裕はない。
デュラハンの槍が、『不動不倒の城壁』の表面に弾かれる。どうやら一瞬でこちらの防御力を察知して、突撃コースをわずかにそらしたようだ。真っすぐ突っ込んで来ればそれで終わったのだが。
俺の脇を通りすぎたデュラハンは急停止、『翻身』スキルによって慣性を無視したように方向転換して再度突撃を仕掛けてくる。
俺は盾を横に寄せ、デュラハンに向けてカウンターで『衝撃波』を放つ。全力でやると観衆を巻き込むのであくまで軽く、範囲を絞ってだ。
しかしそれでも効果は十分だった。鎧騎士はなにかにぶち当たったかのように急減速して体勢を崩す。
俺は一気にダッシュして近づき、大上段からメイスをふりおろした。圧倒的な暴力の前に板金鎧も馬もまとめて爆散する。
「うおぉっ!?」
近くで見ていた騎士が悲鳴に近い歓声をあげる。
ラーニたちの方を見ると、そちらも勝負が決するところだった。カルマが大剣で馬を切り裂き、体勢を崩した鎧騎士をラーニのミスリルソードが両断する。すでに鎧に穴が開いていたのはスフェーニアとシズナの魔法だろう。
ガンドロワ、メルドーザ両名の方も問題はなさそうだ。問題はこれで終りかどうかというところだが……
「こっち来ないでよ! ガルソニア、前に出て! 援護するからっ!」
雛壇のほうから上がった金切り声はミランネラ嬢のものだ。
どうやらもう一体、時間差でデュラハンが出現していたようだ。俺はそちらに走り出す。
首無し騎士の前にはミランネラ嬢とガルソニア少年、その奥に腰を抜かしたホロウッド枢機卿とそれを支える神官たち、さらに脇には国王陛下と親衛騎士のハーシヴィル青年がいる。
少し離れた所にはフレイニルとマリアネがいて、フレイニルはすでに精神集中の態勢に入っている。
デュラハンに一番近いのはガルソニア少年だが、彼は剣を構えているもののその顔は恐怖に引きつっている。
「……どうしてこんなことばっかりッ……僕の前で起こるんだ……ッ!? おかしいだろう……いつもいつもこんなわけのわからない敵が……ッ!」
少年は明らかに全身が震えていて、どう見ても戦える状態ではない。
デュラハンが無言でジリッと距離を詰める。
「うわあぁぁぁッ! がは……っ!」
少年は弾かれたように剣を振り上げて突っ込んでいき、そして騎士の槍に弾かれて吹き飛んだ。
少年の攻撃はスキルも剣技もなく、どう見ても恐慌状態に陥って飛び出しただけに見えた。
「ちょっとガルソニア!? うそっ、やだっ!?」
デュラハンはそのままミランネラ嬢に襲い掛かるかと見えたが、それはさすがにハーシヴィル青年が阻止した。槍を投擲し、デュラハンに回避行動を取らせる。もちろん投擲された槍は弧を描いてハーシヴィル青年のところに戻っていく。
「このっ! 消えろアンデッド!! 『聖光』ッ!」
ミランネラ嬢が『聖光』の魔法を放つ。『二重魔法』をもっていたらしく二条の光線がデュラハンの胸を貫くが、しかし小さな穴を2つ開けただけにとどまった。『聖光』はアンデッドに特効があるはずだが、Aランク上位のアンデッドとなるとやはり耐性があるということか。
「なんで全然効いてないのよっ!? おかしいでしょ……っ!」
立ち尽くすミランネラ嬢。
そこにデュラハンが、多少勢いを失いつつも騎馬ごと突っ込んでいく。
ハーシヴィル青年が再投擲。デュラハンは上半身をよじりつつも、しかし突進を止めることはない。
「えっ!? ちょ……っ!!」
騎馬の突撃をもろにうけて、ミランネラ嬢の小柄な体が吹き飛んだ。ハーシヴィル卿の援護によって槍による致命の一撃は回避できたが、それでも大きなダメージを負っただろう。魔法を使わず逃げていれば……というのは後の祭りか。
ミランネラ嬢を吹き飛ばしたデュラハンが、馬首をフレイニルに向ける。
ほぼ同時にフレイニルの声が響いた。
「いきます、『神の戒め』!」
突撃を始めようとしたデュラハンの身体を、いきなり光の柱が包み込んだ。その光柱は天から降り注いできたように見えたが、人の目には一瞬で現れたようにしか映らない。
『神属性魔法』の上位スキル、『神霊魔法』による対アンデッド攻撃魔法『神の戒め』。単体攻撃ながらアンデッドには絶大な力をもつ魔法である。
シギュアアアァァッ!!
その光が消えた時にはデュラハンの姿は影も形もなくなっていた。Aランクのアンデッドを一撃、対アンデッド用の魔法としては頂点に位置するのではないだろうか。
俺は周囲を見回し、追加のモンスターが出現しないのを確認する。ガルソニア少年とミランネラ嬢は神官の手当てを受けていて、彼ら自身反応はあるようなので命までは失っていないようだ。
そのままフレイニルのもとに向かう。
「フレイニルのおかげで被害が少なくて済んだ。最後の魔法もよかったな。アンデッドが相手だとフレイニルは敵なしだな」
「ありがとうございます。しかしこの力を得られたのもすべてソウシさまのお陰です」
両手で杖を抱え、俺を見上げるフレイニル。
相変わらずの物言いに、俺は「フレイニルが自分で得た力だ」と言いながら頭を撫でてやる。
「でもソウシさま、結局『神属性魔法』も『神霊魔法』も見せてしまいましたね」
「今回は仕方ない。それにもう隠さなくてもいい気もしているんだ。俺たちもAランクになって名前もそれなりに知られてきたし、今回の件で教会もこちらに対して強くは出られなくなるだろうしな」
「それでも面倒が起こるかもしれません。私のせいで……」
「それは断じてフレイニルのせいじゃないから気にするな。なにかあっても俺がしっかりと対応すればいいだけだ。フレイが望まないことはさせないようにする」
「はい、ソウシさま」
まぶしそうな表情で俺を見上げてくるフレイニル。
そんなやりとりをしていると、衣服をボロボロにしたミランネラ嬢が足をひきずりながら近づいてくるのが分かった。治療されたとはいえ、あれだけのダメージを受けてもう動けるのは正直感心するところではある。しかし眉を怒らせている表情からして、いい話をしにきたわけでもなさそうだ。
「ちょっと! なに今の魔法、なんでフレイニルがあんな魔法を使えるの!? あ、きっとその杖のおかげでしょ! やっぱりその杖は私が使うべきものなのよ! その杖さえあれば、私の方が絶対に貴女より上になるはずなんだからっ!」
結局このミランネラ嬢も、ガルソニア少年と同じかそれ以上に現実を見ることができないらしい。もしかしたらそれは彼女たちを取り巻く大人のせいだったのかもしれないが、それでも限度というものがあるだろう。
俺が注意をしようと前に出ると、ミランネラ嬢の後ろからやってくる人物がいた。
一際豪華な法衣を着た、中年の神官。その頬はやつれてはいるが、顔には上位に立つ人間の持つ威厳のようなものが備わっている。しかもその瞳は、以前とは違って確固とした意志が宿っているように見えた。
「ミランネラ、それ以上はやめなさい。さきほどフレイニル様がお使いになった魔法は『神霊魔法』。真の聖女にのみ発現するというスキルです。杖などいくら持ち替えたところで決して使えるようになる魔法ではありません」
教皇猊下はそう言うと、フレイニルを感慨深そうに見つめて、そして深いため息をつくのだった。