軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16章 王都騒乱  16

王都建立以来初めてという騒ぎではあったが、奇跡的に一人の犠牲もなくその場は収まった。

国王陛下と教皇猊下が中心になって事件の収拾に当たったため、特に俺たちはなにもすることなく一旦宿へと戻ることができた。

黄昏の眷族ゲシューラは王都郊外の森に待機しているままだが、今回の場にいなかったのは幸運だったかもしれない。もし彼女がいたら余計な疑いをもたれていた可能性もあったからだ。

さてその翌日だが、もちろんなにもないというわけにもいかず、俺たちは王城へと呼び出された。

いつものように控えの間に通されたあと、俺とフレイニルの2人が会談の間に通される。

その場には国王陛下、ジュリオス宰相、親衛騎士のハーシヴィル青年とメルドーザ女史、ギルドマスターのドワイト氏、そしてなんと教皇猊下の姿もあった。

教皇はまだやつれたような顔ではあったが、昨日よりは顔色はいいように見えた。

促されて俺たちが席に着くと、驚いたことにいきなり教皇猊下が立ち上がり、深々と頭を下げた。

「この度は我らの不始末により、ソウシ様、そしてフレイニル様に非常に不愉快な思いをさせてしまったこと、この上なく遺憾に思っております。陛下にお話をうかがいましたが、ソウシ様がホロウッド枢機卿の企みに気づかなければ、あのままお2人と『ソールの導き』にはいわれのない罪が被せられていたでしょう。無論それは我らとしても取り返しのつかない過ちを犯すことにほかなりませんでした。それらを未然に防いでくださったことに対してはどれだけ礼を申し述べても言い尽くすことができません」

「私としても今回のトラブルを回避できたことは、互いに益のあることであったと思います。ただ、可能ならば今回の件の全容はお話しいただきたいと考えております」

「互いに益など……ソウシ様たちにとってはあるはずのない罪が消えただけでございましょう。それと今回の件については、昨日枢機卿からすべてを聞きましたので、この場にてお話をさせていただきます」

そう言って腰を下ろす教皇猊下の動きはぎこちなく、やはり本調子からは遠いようだ。かなり無理をしてこの場に来ているのだろう。

「ではまず事件のあらましをお話しいたします。陛下もよろしいですかな?」

「うむ、まずは事件の全容を共有するのが先でしょうな」

国王陛下がうなずいたのを見て、教皇猊下はゆっくりと語りはじめた。

「話は1年ほど前、私が教皇の位についた時にさかのぼります――」

語られたのは以下のような内容だった。

1年前ほど前から現聖女が病がちになり、聖女交代の必要があるのではないかという話が教会内で取り沙汰されるようになった。

当然次の聖女には、すでに候補となっていたフレイニルの名が挙がったのだが、そこに待ったをかけたのがホロウッド枢機卿だった。

彼は同じアルマンド公爵家の娘であるミランネラ嬢を連れてきて、彼女こそ正当な聖女候補であると主張を始めたらしい。

その論拠は、ミランネラ嬢がすでに『聖属性魔法』のスキルを得ていたことだったそうだ。

「話の途中申し訳ありません。フレイニルが追い出されたのは彼女が『覚醒』したからだと聞いているのですが……」

「それは正確ではありません。教会では『覚醒』したものを『神の使徒に近い者』ととらえておりますので、それを理由に追放するということはありません。むしろはじめはフレイニル様は『覚醒』しておらず、ミランネラが『覚醒』していたため、ミランネラの方が聖女候補にふさわしいという話だったのです」

「ということは、もしやフレイニルは追い出されることが決まった後に『覚醒』したということでしょうか?」

「そうなると思います。どちらにしろミランネラはすでに『聖属性魔法』に目覚めていましたので、ホロウッドの主張が覆ることはありませんでした。そして問題なのはこの時、すでにあの正体不明の神官……『冥府の燭台』の手先がホロウッドの元にいたことなのです」

あのアンデッドを召喚して溶けて消えた神官が『冥府の燭台』の手の者なのは明らかだ。

そしてあの神官が、なんらかの方法で、教皇猊下と現聖女を病の状態に陥らせていたのだという。

「昨日フレイニル様の『神の後光』を受けた時になって初めて、私も聖女もはっきりと意識を取り戻したという感じなのです。それまでのことは白く靄がかかったような曖昧な記憶があるばかりで、自分がなにをしていたのかもはっきりとは思い出せないのです」

「もしかして操られていたということでしょうか?」

「神官たちの話を聞く限り、私はいくつかのことについて判断を下すような発言をしていたそうです。ですからソウシ様のおっしゃる通り、 件(くだん) の神官、ひいてはホロウッドに操られていたと考えるのが妥当だと思います」

なんとも驚くべき話である。フレイニルに関しては単に権力争いの余波かと思っていたのだが、正体不明の闇の組織まで関わる話であったとは。

「ホロウッドはその後ガルソニア、ミランネラを中心に『救世の冒険者』を立ち上げたりと、己の地盤を固める方策を進めたようです。今回はその『救世の冒険者』、つまりは『至尊の光輝』の計画が危地に陥ったゆえの強硬策ということのようです」

「なるほど。目障りな我々『ソールの導き』を蹴落とし、ミランネラ様を聖女にすることによって『至尊の光輝』の地位を高めようとしたのですね」

「おっしゃる通りでしょう。まったく愚かとしか言いようがありません」

教皇猊下が目を伏せて首を振る。

気になってフレイニルを見ると、特に表情も変えずにじっと聞いているのみである。

「フレイニルは今の話でなにかに気になることはあるか?」

「いえソウシさま。私にはもう関係のないお話ですし、これ以上なにもないのなら気にすることもありません」

「そうか……」

彼女がつまらぬ男の陰謀によって不利益を……もしかしたら命を失いかねない不利益を被るところだったという話だが、本人がいいと言っているならそれ以上はつつくまい。しかし「関係のない話」という言い方にはフレイニルの強い気持ちがこもっている気がするな。

ただ俺としてはちょっと気になることがある。

「申し訳ありません、ホロウッド枢機卿がフレイニルではなくてミランネラ様にこだわったのにはなにか理由があるのでしょうか?」

「アルマンド公爵家からの……それもミランネラの母からの強い推薦があったからだそうです。ただ公爵家がどうしてフレイニル様からミランネラにするよう勧めたのかは分からないとのことです」

「推薦……ですか」

ホロウッド枢機卿については、おそらく『推薦』という名の『賄賂』をもらったということだろう。公爵家については、ミランネラ嬢を推薦したのが彼女の母ということから、やはりお家の権力争いが理由と考えて間違いなさそうだ。

「ところで件の『冥府の燭台』についてはなにか話は聞くことができたのでしょうか?」

その質問には、教皇猊下は首を横に振った。

「いえ、ホロウッドも件の神官については召喚術や闇の魔術……我々を病に陥れたような術に長けた人間という認識しかないようです。アルマンド公爵領の教会から来たという話でしたが、公爵領の大司教に連絡をとったところ、そのような神官はいないとのことでした。枢機卿がなぜ例の神官の出自を信じたのかは、本人もよく理解をしていないようです」

「枢機卿に対してもなんらかの術を用いて、手下に成りすましていたということでしょうか」

「その可能性もあると思います。ところでその『冥府の燭台』についてなのですが……」

「うむ。それもこの場にて情報の共有を図っておきたい」

そこで国王陛下が口を開いた。

「王家が持っている情報もそう多くはない。彼らの存在が確認されたのは数年前まで続いていた戦乱にて、『冥府の燭台』と言われる一団があちこちにあらわれ戦いに加担していたということ、そして彼らがアンデッドを使役していたことだ。戦乱の終結と同時にその名は一切表には出てこなくなった。彼らの行動の目的は一切不明。なにしろ特定の勢力にのみ加担するということがない。場合によっては対立する2国の両方に力を貸していたという記録もあった」

「教会でも把握しているのはほぼ同じです。ただそれに追加して、彼らは『迷い姫』という存在を求めているという記録がありました」

「『迷い姫』とは?」

「アーシュラム教会の経典には冥府に関する記述があるのですが、そこには冥府のどこかに死者を癒す『姫』がいるという伝承があります。死者たちはその『姫』を求めて、永劫に冥府をさまよい続けるということになっているのです」

「『冥府の燭台』はその伝承を事実として考えている、ということですか?」

「記録が真実ならそういうことになります」

「その『姫』というのは何者ということになっているのでしょう?」

「アーシュラム神が作った一人目の人間です。アーシュラム神は万物を作った創造神でいらっしゃいますが、人間を作る時に試しとして一人の女性をまず作ったと言われています。彼女は生まれてすぐに冥府に落ちた……すなわちすぐに亡くなったとされているのですが、冥府でもその特別性ゆえに普通の死者にはならなかったそうです」

「それで『迷い姫』ですか。『冥府の燭台』は彼女を探して何をしようというのか、は分からないのでしょうか」

「それは一切不明ですね。死者に癒しをもたらすというのですから、救いを求めているとも解釈はできますが……」

「『冥府の燭台』の連中をつかまえて直接聞くしかなさそうですね」

俺が言うと、国王陛下は重々しくうなずいた。

「そちらについては王家としても調査をしているところだ。メカリナンにも現れたということであるから、メカリナンとも協力はすることになろう」

「私も幹部らしき者と接触をした身ですので注意はします」

「うむ。ところで先ほどの『迷い姫』だが、アーシュラム神が作った人間という点で、例の『悪魔』と関係があると教会では考えているとか?」

国王陛下が水を向けると、教皇猊下は再度口を開いた。

「はい。今回この王都の外にも現れたという『悪魔』ですが、経典にはアーシュラム神が作った『人間』を、 邪(よこしま) なる神が真似して作ろうとして失敗した結果生まれたもの、ということになっております。そして、はるか昔に実際に一度現れたということが事実として伝えられています」

「邪なる神が作ったもの、失敗作ですか。確かにあの姿はそう言えなくもありませんね」

なにしろ『悪魔』は基本的に人体を無秩序につなぎ合わせたような姿をしているのだ。『人間の失敗作』と言われれば、なるほど確かにそうかもしれないと思わせるものはある。もっとも、あの見た目から逆にそういう逸話が作られた可能性の方が大きい気もするが。

「ところでソウシ様は、その『悪魔』が出てくる出口に入ったことがあるとか」

「ええ、『異界の門』に吸い込まれて、『異界』ともいうべき場所に入り込んだことがあります。そこで『悪魔』が生まれてくるところも見ました」

「それもすさまじいお話ですが……実はその『異界の門』ですが、経典の一節ではその『異界の門』を別の言葉で表しているのです。すなわち『冥府の門』と」