軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16章 王都騒乱  14

妙なことを口走る神官の身体を中心に、地面に怪しげな魔法陣が広がるのが見えた。

マリアネが咄嗟に拘束を強め、ハーシヴィル卿が素早く神官に当て身をくらわす。

「ぐェッ!?」

神官の身体は崩れ落ちたが、魔法陣は消えずに光を強めた。

「なんだっ!?」「キャアッ!?」

観衆の方からも叫びが上がる。どうやら広場の外側を囲むように魔法陣が出現しているようだ。残念ながら発動は止められなかったようだ。

魔法陣を見るとメカリナン王城でリッチレギオンを召喚した時のものと似ているのに気づいた。予想していないではなかったが、さっきの神官はやはり『冥府の燭台』の関係者だったらしい。しゃべり方からしてあの時の『イスナーニ』ではないようだが……それはいま考えることではないな。

国王陛下が俺の方を見て叫ぶ。

「ソウシ殿、これはなにが起きているのだ!?」

「恐らくアンデッドを召喚したのだと思います。すぐに対応を!」

「うむ。騎士たちよ、民を守るのだ! 皆の者、その場を動くな! 騎士が諸君を必ず守る!」

国王陛下が指示をすると、観衆の外側にいた人間が一斉に懐から短剣を抜いて構えを取った。市民に偽装をしていた騎士……元冒険者たちである。

「フレイニル、『昇天』の用意を。それと『昇天』のあとは一応『神の後光』の用意して待機してくれ。『後光』はできればここでは使いたくはないが……」

「いえ、必要ならば使いましょうソウシさま。とても強い力のアンデッドが出現するようですので」

「そうだな。フレイニルの魔法が頼りだ。頼むぞ」

「はい、お任せください」

遠くを見ると、ラーニとシズナ、カルマも観衆を守る位置についている。シズナは『精霊』を召喚済みだ。あちらは大丈夫だろう。

気づくとマリアネがそばに来ていた。

「マリアネはフレイを護衛してくれ。俺は強い奴を叩く」

「わかりました。もしかしてメカリナンで出たというリッチレギオンが出現するのでしょうか?」

「どうかな。あの時の魔法陣よりはひとつひとつは小さい気がするから、質より量で来るのかもしれない」

俺は『アイテムボックス』からメイスを取りだし、近くの魔法陣の方へ向かう。

そのタイミングで魔法陣が一斉に光を強めた。

現れたのはおびただしい数の骸骨戦士『スケルトン』、それに貴族風霊体モンスターの『バロンファントム』だ。

観衆を取り囲むように現れているので正確な数は分からないが、恐らく全部で500体くらいはいるだろうか。

しかしスケルトンはともかく範囲攻撃魔法を使ってくるバロンファントムはマズい。騎士がいても観衆に被害がでてしまうだろう。

観衆からは悲鳴があがるが、先ほどの国王陛下の言葉もあって辛うじてパニックには至っていない。

スケルトンが包囲を狭め、バロンファントムが精神集中を始める。

一部の騎士が突出してスケルトンに攻撃を始めている。バロンファントムの危険性に気づいた者だろう。だがこのままでは間に合わない。

「フレイ!」

「はい! 『昇天』いきます!」

フレイニルが『聖女の祈り』を掲げ、真聖魔法を発動する。先のミランネラ嬢のそれとは比べ物にならないほど強烈な光のヴェールが広場全体を包み込む。

シギャァァァッ!!

数百体のアンデッドが、一斉に悲鳴を上げる。

スケルトンたちは力を失って崩れ落ち、バロンファントムは苦悶の表情を浮かべて消えていく。現れた数百体のアンデッド軍団は、一瞬にして全滅した。

会場に驚きの声が広がる。特に戸惑っているのは今まさに戦おうとしていた騎士たちだ。目の前のモンスターの大群がいきなり消えたらそれは驚くだろう。

ダンジョン内で活動していると分からないが、フレイニルの対アンデッド殲滅力は凄まじい。もしかしたら国内最強まであるのではないだろうか。

「ちょっと、今の魔法はなんなのっ!? フレイニルがそんな魔法使えるなんて、そんなはずないでしょうっ!」

そんな中で、後ろから金切り声を上げてくる者がいた。聖女候補のミランネラ嬢だ。振り返ると目をむき出してこちらに近づいてくる。

「ああ分かったわ、きっとその杖の力ね! フレイニルごときがあんな力持ってるはずがないんだもの! 私だってその杖があれば同じことができるはずよ!」

ミランネラ嬢が手を伸ばして、フレイニルの手から『聖女の祈り』を奪おうとする。

しかしフレイニルは素早く身を翻して距離を取った。さらに間にマリアネが入って睨みをきかせてくれる。

「この杖は私がソウシさまにいただいたものです。なにがあっても絶対に渡しません」

「このっ! フレイニルのくせにっ! ちょっとガルソニア、あなたもボーっとしてないで手伝いなさいよ! あの杖を取り上げるの!」

しまいには乱暴なことを言い出すミランネラ嬢。だが指名されたガルソニア少年は戸惑ったような表情でおろおろするだけだ。彼の状態はこの会場で目にしてから明かに普通ではなく、ずっと怯えたような様子である。

いったいなにかあったのだろうか。そんな詮索をしようとしたとき、神官を取り押さえていたハーシヴィル青年が声を上げた。

「神官が溶けて……またなにか術式が発動したようです! 皆さんご注意を!」

見ると件の神官の身体がドロドロに溶けて地面に広がっていくところだった。近くの人間から悲鳴が上がっているが、俺がこの現象を見るのは二度目となる。一度目はメカリナン王城で、『冥府の燭台』のイスナーニが同じように消えていった。とすればあの神官も人形だったということだろう。

問題は再び会場の外側に魔法陣が現れたことだ。場所は3カ所、魔法陣の大きさはリッチレギオンの時にそれに近い。かなりの大物が出てくるのは間違いないだろう。

「陛下、リッチレギオンと同等のアンデッドが出現すると思われます。2か所は我々が対処しますので、あちらの1か所への対応をしていただければと思います」

俺が言うと、国王陛下は「ガンドロワ卿とメルドーザ卿で対処せよ!」と指示を飛ばした。巨漢の親衛騎士と魔女姿の魔族美女が魔法陣へと走っていく。

「フレイニル、やはり『神の後光』を頼む。その後は必要なら『聖光』で援護を」

「分かりました。お気をつけてソウシさま」

指示を出した俺は、魔法陣に向かって走りだす。遠くにあるもう一か所の魔法陣はラーニとカルマ、シズナが囲んでいる。スフェーニアも木の上から援護ができる態勢でいるので問題ないだろう。

俺が近くまで行くと、ちょうど魔法陣からモンスターが出てくるところだった。

現れたのは馬に乗った銀色の鎧騎士。しかし頭部はなく、代わりに左わきに兜が抱えられている。右手には血のように赤い槍。

「『デュラハン』だと!? 気をつけろ、Aランクだぞ!」

近くにいた騎士が叫ぶ。

なるほど有名なアンデッドモンスターだ。

禍々しい赤黒いオーラを立ちのぼらせた首無しの騎士が、馬の首と槍の穂先を俺のほうに向けてきた。