作品タイトル不明
異世界のジジイは強い
「ふむ、君がキールズか?」
「そうだ、私がキールズであるぞ」
「違います。この方は我が君、サイリユウム王国第一王子のジュリアン・サイリユウム殿下であらせられます」
「……兄上はどうしてそう……」
突如としてかかしもどき誰だに混ざってきた老人は、手近にいたジュリアンに声を掛けた。
会話からして敵では無さそうだと判断したジュリアンが適当な事を言い、ジャンルーカが頭を抱えている。
「御前!」
その時、城の方からバタバタと領騎士団のベテランが走り込んできた。
情報部隊である第四部隊の隊長で、いつもは「情報屋だからなぁ」と嘯いて訓練に参加しないので、カインはあまり関わったことのない人物だった。
第四部隊長の後ろからも何人かの騎士が駆け寄ってきていて、そちらはカインも顔見知りの人達だった。
「もしかして、死角から見守ってくれてた?」
「はい。坊ちゃんたちの遊びを邪魔しないように見守っておりました。……不審者侵入を許した過去もありますので」
カインに声を掛けられた騎士は、チラリとマクシミリアンに視線を投げてそう応えた。
以前、アルンディラーノと王妃殿下が領地に遊びに来ていた時に城へと不法侵入したのはマクシミリアンだったので、その時にも対応した騎士だったらしい。
マクシミリアンは視線に気がつかなかったようで、すこし離れた場所でラトゥールと並んで様子をうかがっていた。
騎士によれば、老人二人は庭のはしっこに突然あらわれたそうだ。その時点ではカイン達とはまだ距離もあった事と、武器を持っているようには見えなかったこと、ゆっくりと歩いているだけだったことから一人が人を呼びに行き、もう一人は引き続き駆け寄れる距離で見守っていたということだった。
何やら言葉を交していたらしい第四部隊長と老人だったが、くるりと振り返るとカインとディアーナに向かって移動をし始めた。
「カイン坊ちゃん。ディアーナお嬢様。こちらは、ニキアス・エルグランダーク様と、ヴァレリア・エルグランダーク様です。坊ちゃんとお嬢様の曾祖父母にあたるお方です」
カインとディアーナの目の前までくると、第四部隊の隊長がそういって二人を紹介してくれた。
カインの祖父母は、カインが生まれる前に亡くなっていて、曾祖父母にはあったことが無かった。両親からはずっと旅行に行っていて領地にも王都の屋敷にも寄りつかないのだと、父ディスマイヤが苦々しい顔で言っていたのが記憶に残っている。
面識がない人物なので、曾祖父母だと言われても、カインもディアーナもピンと来なかった。
「ヴァレリア・エルグランダーク様!? ヴァレリア・エルグランダーク様とおっしゃいましたか!」
カインとディアーナより速く、その名前に反応したのはティルノーアだった。
「あああ! 生ける伝説! 百年に一度の大魔法使い。魔法士団長を小指でひねり上げたという伝説のヴァレリア様! こんなところでお会いできるなんてぇ~!」
ティルノーアはそう叫ぶと、くるりと回ってローブの裾を広げて膝を突き、老婦人の手を取った。
「王宮魔道士団所属の魔法使い、ティルノーアと申します。家名は魔道士団入団時に捨てました。弟子にしてください!」
そう言って老婦人の手の甲に額を付けた。
「えぇい! わたしのヴァレたんに触れるでない! 無礼者が! その手を離さんか若造が!」
隣に立っていた老紳士、ニキアスが「ていっ」と手刀を振り下ろし、ヴァレリアとティルノーアの手を引き離した。
「御前。こちらがディスマイヤ様のご長男のカイン坊ちゃん。こちらが、長女のディアーナお嬢様です」
ティルノーアを牽制してヴァレリアを抱きかかえているニキアスと、どうしても弟子にしてほしくてすがっているティルノーア。そしてそんな二人をガン無視してカインとディアーナをじっと見つめてくるヴァレリア。
カオスな状態であるにもかかわらず、第四部隊長はたんたんとカインとディアーナを紹介した。
「カインが生まれた時には一度王都の屋敷に立ち寄っているのだけれど、カインは覚えていないわよね。あのちっちゃな赤ちゃんがこんなに立派な青年になって、おばあちゃんは嬉しいわ。ディアーナもエリゼに似て美人に育っているわね。あなた達のひいおばあちゃんのヴァレリアよ。気軽にヴァレおばあちゃまと呼んでちょうだい」
ニキアスに抱え込まれながら、ヴァレリアは何事もなかったかのようにカインとディアーナに挨拶をしてくれた。
「……。初めまして、ヴァレおばあちゃま。ディアーナ・エルグランダークです。お会い出来て嬉しゅうございます」
「初めまして、ヴァレおばあちゃま。カイン・エルグランダークです。お噂はかねがねうかがっておりました。お会い出来て嬉しく思います」
カインとディアーナは紳士淑女の礼をとり、しっかりと頭を下げた。
「なんと、カイン! ディアーナ! 私の事もニキアスおじいちゃまと呼んでおくれ!」
「お会い出来て嬉しゅうございます。ニキアスおじいちゃま」
「おはつにおめにかかります、ニキアスおじいちゃま」
「くぅうう。ディスマイヤもエクスマクスもおじいちゃまと呼んでくれなかったのに、ここにきて! ここに来て夢が叶ったぞ、ヴァレたん!」
「良かったですね」
「ヴァレたんも、もっと喜んだらどうだ!」
「ちゃんと喜んでいますよ」
なんともテンションの高い曾祖父と、ローテンションの曾祖母を交互にみやり、ディアーナがそっとカインに耳打ちをした。
「最初はお父様に似ているきがしましたけど、全然似てませんわね、おじいちゃま」
「うん……。エクスマクス叔父様もお父様もこんなテンションじゃないもんな」
ディアーナの言葉にカインは頷き、二人の会話が耳に入ったイルヴァレーノも後ろで頷いていた。
その後、曾祖父母はコーディリアにもおじいちゃまおばあちゃま呼びを求め、コーディリアがおじいちゃまおばあちゃまと返すことでまた狂喜乱舞をしていたところにエクスマクスとアルディがやってきた。
この場の責任者でもある二人がやってきたことで、混乱した場は一応おちついた。
「場所を移しましょう。応接室にお茶を用意いたしますから、一旦そちらで落ち着いて話をしましょう」
「お茶じゃなく、酒がいいのだがなぁ。アルディ嬢」
「あなた、アルディ嬢じゃなくてアルディ夫人と呼ばなくてはだめよ」
「おばあさま、ツッコミはそこじゃないでしょう……」
苦笑いで対応するエクスマクスの様子から、カインの曾祖父はいつもこんな感じの人なのだと察せられた。
エクスマクスとアルディを先頭に、カインやジュリアン達も遊びを切り上げて城へと戻ることになった。
もともと最後の一回と決めていたこともあって、引き上げ時だったのだ。