軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

諸国を漫遊する元偉い人

夏休みの外遊びは、攻守をかえて四回ほど繰り返された。

『カカシもどきだーれだ、の決まり文句を言い終わる瞬間に”子”が振り返り、振り返った瞬間に”かかしもどき”達はカカシの振りをする。動いたら負け』というその単純なルールはそのままに、魔法を使っても良い事になってからは何でもありになっていった。

ジュリアンとハッセは騎士らしく俊敏さと体幹の強さを発揮して魔法を避けたり耐えたりしつつ、ハッセの組んだ手にジュリアンが足を乗せ、それをハッセが打ち上げる事で上から奇襲すると言った戦法をとった。

その時の”子”はジャンルーカで、「かかしもどきみーつけた」と言わせる間もなく制圧されてしまった。

カインが土魔法で地面を勢いよく隆起させ、その上に乗っていたイルヴァレーノが勢いを利用して空を駆け、”子”の視線を引きつけている間にディアーナがダッシュして”子”にタッチするという作戦はうまく行き、“子”役であったコーディリアはあっけなく負けてしまった。

ここで「ついて行けないわ」といってコーディリアはあずまやへ退場し、一足早くティータイムを楽しむこととなった。

ずっと一番後ろに立って傍観していたマクシミリアンとラトゥールは、

「僕の弟子達は情けないなぁ! いつまで傍観しているつもりなんだぁい?」

とティルノーアに煽られ仕方なく積極的に参加したのだが、連携も何もなくそれぞれが競うように土魔法と水魔法を派手に使った結果、遊んでいた中庭の土はぬかるんでドロドロになってしまった。

そこを通りかかったアルディに見つかってしまい、全員でしこたま怒られてしまった。

ティルノーア、マクシミリアン、ラトゥールの魔法使い組で土を均し、ジュリアン、ハッセ、カイン、ジャンルーカの体力ある組が騎士団訓練所から乾いた土を運んでそこに撒くという後始末をするはめになった。

「じゃあ、コレが最後の一回ね」

太陽の位置も高くなり、そろそろ昼食の時間も近いという頃合いになってカインが人差し指を立てた。

撒いた土が泥の水分を吸い取り、靴に泥汚れが付くほどではなくなった中庭だが、まだ土はフカフカしており子ども達が全力でダッシュなどすればまた荒れてしまう状態である。

「最後の一回は魔法禁止で。またアルディ叔母様に怒られてしまうからね」

「うぅ~ん。土魔法と水魔法だけ禁止にするわけにはいかないかなぁ」

「うぅ…もう成人しているというのに子どもの様に叱られてしまうなんて」

「いたずら……だけ、叱られた……」

カインの魔法禁止宣言に、ティルノーアは残念がり、マクシミリアンは大人のクセに子どもと一緒に叱られてしまったことにショックをうけ、ラトゥールは魔法を使ったことではなくやり過ぎた事だけを叱られ、人格否定されなかったことに感動していた。

最後の一回は公平性から”子”をコーディリアが務めることとなった。

「私はもういいのに」

「魔法を使わないって約束をちゃんと守れそうなのがコーディリアぐらいしかいないんだよ」

「それもどうなの……。みんなちゃんとルールは守らなきゃだめよ」

さっさと脱落してティータイムを楽しんでいた所を引っ張り出されて不満顔のコーディリアではあったが、最後の一回だしと思って引き受けてくれた。

「じゃあ、いくわよー!」

片手を上げて、コーディリアが声を掛ける。

カイン達”かかしもどき”組はそれぞれ屈伸したりストレッチをしたりして体をほぐし、その時を待っていた。

コーディリアが後ろを向き、両手で顔を覆って視界を塞ぐと、かかしもどき達はグッと足に力を入れてスタート姿勢を取った。

今回は魔法が使えないので、単純に瞬発力の勝負、そしてピタッと止まる為の体幹勝負である。

「かーかしもーどき……」

コーディリアが決まり文句を言い始めると同時に、皆がダッシュした。

ジュリアン、ハッセ、ジャンルーカはそれぞれが全力疾走し、カイン、ディアーナ、イルヴァレーノは三人固まって走っている。カインとイルヴァレーノの手がディアーナの腰に添えられているので、最後の最後で押し出すつもりのようだ。

魔法禁止となったことで、マクシミリアンとラトゥールはまた最後尾で傍観に徹している。

ティルノーアは、魔法使いのローブをなびかせて軽やかに走っていた。メンバーの中で一番体の大きなハッセの真後ろを走っているので、魔法以外にも何か奇策を考えているようである。

「だれだ!」

決まり文句を言い切り、コーディリアが鋭く振り返る。

カインに片思いをしていた頃にお淑やかなレディを目指していたコーディリアではあるが、父と兄が騎士であることもあり、動きそのものはいつも鋭い。

ジュリアン、ハッセ、ジャンルーカの騎士組はピタリと止まる。慣性につられて若干上体が前のめりになりかけていたが、グッとこらえたのでコーディリア的にはセーフとなった。

カインとイルヴァレーノも出していた足に力を入れて踏ん張り、その場に止まる。勢いのままディアーナが行きそうになったが、腰に添えていた二人の手がそれをしっかりと止めて支えた。

ティルノーアの体はかろうじてストップしたもののブレブレだったが、ハッセの体に隠れてコーディリアからは見えなかった。

「えーっと……。みんなちゃんと止まったかな……あれ?」

ぐるりと見渡して、全員がピタリと動きを止めているのをみたコーディリアだったが、ある一点で視線を止めて首をかしげた。

「あの……どなたですか?」

コーディリアの言葉に、騎士組三人は振り向いた。

カインとディアーナは「その手には乗らないぞ」という顔をして振り向かなかった。

イルヴァレーノはそっと腰に手を回し、ベルトの後ろを探った。

「楽しそうだったんで、混ぜて貰おうと思ってな」

「え!」

コーディリアのブラフではなく、実際に人の声が聞こえたことでカインは慌てて振り向いた。

そこには、八割ほどが白髪となっている黒い髪に青い瞳のガッチリとした体型の老齢の男性と、白髪交じりの茶色い髪をきっちりと結い上げたオレンジ色の瞳の老齢の女性が立っていた。

「……お父様に似てる?」

ディアーナがぽつりとこぼしたとおり、カインもどことなくディスマイヤに雰囲気が似ていると感じていた。

この城で育ったコーディリアが知らず、この領地の跡取りであるカインも知らない人物とあって、ジュリアンとハッセも真剣な表情になり、思わず腰に手を添えて剣を持っていないことを思い出していた。

「ふむ。年頃の子がたくさんおるな? さて、どの子がワシのひ孫だ?」

「ひ孫の顔も知らない曾祖父なんて……だから、もっと頻繁に帰りましょうと言っていたのに」

「ディスマイヤには構い過ぎて嫌われてしまったからな、ひ孫には嫌われん様に構うのを控えただけだ」

「限度というものがあるでしょうに」

緊張感の漂う中庭で、老人二人だけがのんびりと会話を交していた。