軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

248.開戦

その異変に最初に気付いたのは、浜辺に居た彼らだった。

突如現れたゾワゾワと背筋が凍るような巨大な 威圧感(プレッシャー) 。

それも一つではなく複数。

数は全部で――十人。

その気配が、その正体が誰なのか、死王リベルと海王シュラムにはすぐに見当がついた。

「……これはどういう事かしら?」

リベルは手に持った杖を思いっきり砂浜に叩きつける。

砂塵が爆発のように舞った。

見当がついたからこそ、リベルには理解が出来なかった。

いや、理解することを脳が拒んでいた。

まだ時間はあったはずだ。

まだ四カ月近く時間は残されているはずだった。

それなのに、これはどういう事なのか。

「何をした……? アイツら、私とお母さんの作ったシステムに何をしたぁ!」

本来、システムの改変は莫大な負荷をかける。

二度の改変によって、既にシステムはかなり危うい状態にあったはずだ。

そこにきてこの強襲。間違いなくシステムの改変を行ったのだろう。

下手をすれば全てが崩壊するかもしれないシステムの改変を、だ。

『見当はつかんが、まあ碌な手段ではあるまい。その怒りは理解出来るが、とりあえず殺気と魔力は抑えろ。我々がここに居ると、奴らに知らせている様なモノだ』

「……そうね」

刹那、リベルの体から殺気と魔力があふれ出るが、それをシュラムが諌める。

リベルは全力で心を押さえつける。

彼女はアンデッドだ。本来、感情がいくら昂ろうとも、一定の時間を置けばその昂りは消える。

だが今だけは、それを意識的に行わなければ、とてもではないが内から湧き出るこの感情を押さえつける事が出来なかった。

一呼吸して気持ちを落ち着かせると、リベルは先遣隊のメンバーを把握するために索敵を行う。

「メンバーは……ランドル、シュリ、グレン、ベルド、ガシュマシュ、リアルド、オリオン――この七人は予想通りだったけど、残りの三人は分からないわね……」

『三人の内、二人なら私が知っている。この気配は結界師リジーと封殺者ナルスだな。おそらくオリオンの補佐として呼ばれた連中だろう』

「成程……。残りの一人は?」

『さあな。だが只者でないのだけは確かだ。少々妙な気配だが、おそらく名を隠していた英雄と言ったところか』

「ちっ……出来れば全員、見知った奴らで固めて欲しかったわね」

『ランドルも馬鹿ではない。向こうの世界を探し回ったのだろう。我々の知らない英雄をな』

増々気に喰わないとばかりに、リベルは舌打ちする。

「連中が出現した場所は……カズトたちが元居た町ね」

先遣隊の出現位置に関しては、予想が当たったようだ。

彼らはこの世界における繋がりの強い場所――トレントの少ない場所に現れる。

とりわけ、暴食の大樹ペオニーと周辺のトレントを根こそぎ駆逐したカズト達の居た町は彼らにとってこの世界に来るには絶好のポイントだった。

状況を理解すると、即座にリベルは杖を掲げた。

「――シュラム、何分稼げる?」

『二時間は余裕だ』

「十分」

シュラムの肉体が輝きだす。

シュラムはカズト達との訓練の傍ら、先遣隊が現れそうな場所に分裂体を向かわせマーキングをしていたのだ。

そしてその分裂体は、本体であるシュラムの合図で肉体を変化させ強靭な結界へと変化させる。町一つ覆う程の巨大な結界に。

『あの町は、我々がマークしておいた重要ポイントだ。分裂体の数も、他の場所よりも遥かに多い! 先遣隊といえど破るには相応の時間が掛かるだろう』

シュラムの予想では、結界が破られるのにかかる時間は二時間。

その間に、カズト達に事の次第を説明し、戦闘準備を済ませる。

そういう手筈も整えていた。

だが――、

『むっ――』

一瞬、シュラムの体が不自然に揺れる。

『まずいぞ、リベル……』

「どうしたの?」

不穏な雰囲気を感じ取ったのか、リベルの表情も強張る。

『――二人、既に結界の外に出ている』

「なっ――」

シュラムが結界を発動させるまで一秒にも満たないタイムラグ。

その僅かな時間に、結界の外へと逃れた先遣隊が居たのだ。

一方で、少し離れたところでその気配を察知した存在が居た。

『――来タカ』

「……どうしたのですか、狼王様?」

五十嵐十香は狼王シュヴァルツの気配が変わったことに首を傾げる。

その背中には、未だにガタガタと震える葛木さやかの姿もあった。

『ドウヤラ貴様ラが言ウ先遣隊ガ、コノ世界に来タヨウダ』

「なっ――!?」

「えぇっ?」

シュヴァルツの言葉に、十香とさやかは瞠目する。

「ど、どうして……? まだ時間はあった筈じゃ……?」

『知ラン。ダガ、コウナッタ以上、悠長に構エテイル訳ニモイクマイ』

シュヴァルツはすぅっと息を吸うと、遠吠えをした。

周囲に波及する王の呼び声に、次々とモンスターが集まってくる。

シャドウ・ウルフにゴブリン、オーク、女王蟻にメタル・リザード、そして大量のスケルトン。

種類も様々なモンスター達だ。その数は優に千を超えるだろう。

一体一体が強い上に、真っ黒な奇妙な武装で身を固めている。

更にネームドクラスのモンスターも何体か混じっているように思えた。

『皆ノ者! 戦ダ! コレマデ鍛エ抜イタ牙を存分に振ルウ時が来タ!』

「「「「「「ウォォオオオオオオオオオオオオオオッッ!」」」」」」

咆哮がビリビリと大気を揺らす。

その光景に、十香は寒気が止まらなかった。

今は休戦状態だが、先遣隊との戦いが終われば、再びこの大軍勢が敵に回るのだ。

そう思うと、ゾッとする。

(凄まじい力ね……。でも――)

それでも、と十香は思う。

はるか遠方からでも感じる事が出来る濃密な十の気配。

その気配は、ここに居るモンスターの大軍勢よりも遥かに――。

「――なんだぁ? 強い気配を感じてきてみれば、まさかの狼王かよ。はは、こりゃ当たりだな。ちくしょー、面倒くせぇ」

「ッ――!?」

声がした。

後ろを振り返れば、そこにはくたびれた風貌の男性が居た。

ボロボロの布きれを纏い、腰には燃えるような真っ赤な剣を携えている。

(誰、この男性は……? さっきまで気配も何も……)

十香は突然現れた男に困惑する。

一方で、男性は無精ひげをなぞりながら、シュヴァルツを、次いで十香とさやかを見つめる。

「……そっちがこの世界の人間か。へぇ、中々のべっぴんさんじゃねーか。てか、もう一人の方は本当に生きてんのか? 良くわかんねーな、異世界人ってのは」

「……アナタは?」

「先遣隊、『炎帝』グレン・アッシュバーン」

あっけらかんと、その男は自分の素性を明かす。

ごくり、と十香とさやかは唾を飲む。

「わ、私は――」

「あー、別に名乗らなくていいよ。意味ないし」

「え?」

刹那、グレンの姿が消える。

「これから殺す奴らの事なんざ、覚えたくもねぇ」

気付けば、グレンは十香の目の前に居た。

そして――、

「――え?」

「まず、一人目」

十香の胸を、彼の持つ刃が深々と貫いていた。

――アロガンツの言葉を理解するのに、俺は数秒かかった。

「先遣隊が……来ただと……?」

『そうだよ。君だってとっくに理解しているんだろ?』

「っ……」

アロガンツの言う通りだ。

頭の中では理解している。

以前、リベルさんが言っていた。

先遣隊のリーダーはシステムに介入するマスターキーを持っていると。

リベルさんはシステムが崩壊する可能性があるから、これ以上の改変は出来ないって言ってたけど、何らかの抜け道があったのかもしれない。

『こうなった以上、戦いは避けられない。君は自分の成すべき事をするべきだ』

「ああ、分かってるよ……」

アロガンツを握りしめると、影を踏む。

そして俺はすぐさま一之瀬さん達にメールを送った。

『お父さん、どうしたのですか?』

「スイ、これからここは戦場になる。お前はどこか安全な場所に隠れてるんだ」

『え?』

スイの神樹としての力が目覚めていない以上、今はどこか別の場所へ避難させるしかない。

影を広げて、スイを移動させようとした。

その瞬間――、

「――あ?」

不意に、胸に痛みを感じた。

見れば、銀色の刃が体の中心から飛び出していた。

「なんだ、一番強い気配を感じてきてみれば、この程度か」

後ろから声がした。

刃が抜き取られ、胸から大量の血が溢れ出す。

ようやく俺は後ろから刺されたのだと理解した。

膝から崩れ落ち、血だまりの中に倒れ込む。

「だ、誰だ……?」

眼球だけを動かして、その姿を確認する。

真っ黒な髪の少女が俺を見下ろしていた。その手には俺を刺したであろう銀色の刃が握られていた。

黒髪の少女は、感情を一切感じさせない無機質な瞳で俺を見つめながら口を開く。

「先遣隊、『忍神』シュリ・アズマ」

「――ぁ」

忍神……?

まさかコイツ、俺と同じ力を持ってるのか?

忍神は派手な忍術もさることながら、元々は奇襲や暗殺に特化した職業だ。

そうか、それで気配を感じ取れなかったのか……。

なんて事だ。そんな奴が先遣隊に居たなんて。

それがよりにもよって一番最初に俺の前に現れるなんて。

これはなんとも――、

「不運だったな、人間」

「――ああ、そうだな」

その瞬間、俺はアロガンツを握りしめ、少女へと斬りかかる。

「なっ――!?」

確実に殺したと思ったのだろう。

少女の目には動揺が浮かんでいた。

手に持った刃でアロガンツを弾くと、俺から距離を取る。

「……どういう事だ?」

「あー、痛ぇ……。完全に油断してた」

口元の血を拭うと、俺は先遣隊の少女を見つめる。

成程、どうやらこの展開は彼女にとっては予想外だったようだ。

彼女は思いもしなかったのだろう。

この世界にも、彼女と同じ忍神の力を持つ人間が居るなんて。

その人間が、更に別の力も手に入れていたなんて。

なにせ直前にステータスを更新してなければ本当に俺は死んでいたのだから。

(しかし、俺と同じ戦闘スタイルか……)

奇襲、暗殺に特化した忍神の異世界人。

本当に良かった。コイツが他の皆の元へ行ってたと思うとゾッとする。

誰よりも先に、俺を優先的に狙ってくれて助かった。

「不運だったな、先遣隊。そう簡単には、殺されてやんねーよ」

さあ、開戦だ。