軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

249.VS先遣隊 忍神シュリ その1

俺はスイを抱えると、窓を破って部屋の外へ飛び出した。

地面に着地すると同時にスイを影に押し込める。

『お、お父さ――』

「スイ、しばらくじっとしてろ。いいな?」

『は、はいです』

スイは何か言いたげだったが、我慢して影の中に沈んでくれた。

よし、これでスイが巻き込まれることはなくなった。

「――ッ!?」

その刹那、後ろから迫りくる刺突をギリギリで躱す。

そのまま飛んで距離を取る。

危ねぇ……。もう一回心臓に喰らえば今度は本当に死んでた。

(修行僧の上位職で手に入れたスキルが早くも役に立ったな……)

修行僧の上級職『求道者』。

得られたスキルは『破邪』と『求道』。

『破邪』はアンデッド系モンスターに対し攻撃力が増すスキル。

そして『求道』は致命傷になる攻撃を一日一回だけ無効化するというもの。

極端な話、頭を潰されても心臓を刺されても、一回だけならそれを無効化出来る反則的なスキル。

(とっておきのスキルだったのに早くも消費しちまった、畜生)

『求道』はスキルのレベルを上げても無効化出来る回数は増えない。代わりに無効化出来るダメージ上限や傷の度合が増えるだけだ。レベルをマックスまで上げた状態ならば、HPの4倍までのダメージや、脳や心臓のような一撃で致命傷となる攻撃であっても無効化することが出来る。

リベルさんや先遣隊のような格上の相手でも最悪、相打ちに持ち込めば勝てるのだ。

決戦に向けた切り札の一つだった。

それが早くも消えてしまった。

(……気持ちを切り替えろ。どの道、相打ち程度で勝てる相手じゃなかったと思え)

見た目は華奢な少女だが、感じる威圧感はあのリベルさんや海王様と同等。

最初から全力で掛からなきゃ勝てない相手だ。

俺と目の前の少女――シュリは同時に忍術を発動させた。

「「火遁の術ッ!」」

目の前で発生する巨大な火柱と爆発。

だが――、

「ぐっ……やっぱ威力は向こうの方が上か」

徐々に俺の出した火球は、相手の炎に飲み込まれてゆく。

俺は咄嗟にアイテムボックスから『土砂』を降らせて炎を消火した。

「アロガンツ! 多少痺れるけど我慢しろよ。――付与、雷遁の術」

『ちょ、おま――あああああああああああああああああッ』

俺は雷遁を付与したアロガンツを握りしめ前に出る。

「……」

シュリは動かない。

躱すタイミングを見極めようとしているのか?

いや、違う。

いつの間にか、その両手には禍々しい気配を放つ二本の忍刀が握られていた。

(忍術を付与した忍刀か)

接近しきる前に俺はアロガンツを振るう。

雷遁を付与した不可視の拡張斬撃の連撃。

かつて俺もアロガンツ相手に苦しめられた攻撃だ。

「……」

だがシュリは表情一つ変えない。

ただ一瞬だけ眼を細めると、両手に持った忍刀でその全てを防ぎきった。

「なっ――!?」

嘘だろ? これを防ぐだと?

不可視の斬撃――しかも雷遁付与でアロガンツが使っていた頃よりも更に強化されているのに。

「――の術」

ぼそりと、シュリの口が動いた。

次の瞬間、その姿が消えた。

「ッ――!?」

咄嗟に俺は横に飛んだ。

俺が居た場所にシュリが居た。

ちょうど俺の背後から心臓と首を狙うような形で。

「……外したか」

「ハァ……ハァ……」

危なかった。

攻撃を躱せたのは偶然だ。

もし彼女が背後ではなく、真横から迫っていたら俺は避けきれなかった。

今度こそ確実に死んでいたのだ。

(今のは風遁か……)

よく見れば、彼女の足――靴に風が纏わりついていた。

俺がアロガンツに雷遁を付与した様に、彼女も靴に風遁を付与して速力を底上げしたのだろう。それも俺よりも遥かに上の精度で。

(強い……強すぎる……)

僅か数秒の攻防だが、それでもはっきりと理解した。

忍術の威力、精度、そして肉体のステータス。

その全てが俺よりも上だ。

これが先遣隊……これが異世界人のトップ。

するとシュリは何故か訝しげな表情を浮かべた。

「どういう事だ?」

「……ん?」

彼女は追撃を仕掛けるわけでもなく、ただ俺をじっと見つめている。

「……なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」

俺が問いかけると、意外にも彼女は反応を見せた。

「……いや、随分と不自然な力だと思っただけだ。私と同じ『忍神』の力を使うのには少々驚かされたが、私とお前とではその力の本質が違う。お前のソレはまるで外から無理やり貼り付けたような歪さを感じる」

「……」

外から無理やり貼り付けた、か。

確かに彼女の言う通りかもしれない。

元々スキルがあった彼らの世界とは違い、俺たちのそれはリベルや彼女の師匠が創ったシステム由来の力だ。

本来の俺たちの力ではない、与えられた力。

彼女から見ればそれは酷く不愉快だったのだろう。

シュリは汚物でも見るかのように表情を歪めたのだ。

「歪だ。お前の力は酷く歪んでいる。不愉快ですらある。大方、リベル様の仕業だろう。本当にあの御方の考えは理解出来ない。現地に住まう先住民なんぞに力を与えて我々に対抗できるとでも本気で思っていたのか? 愚かしいにも程がある」

「……」

ギリッと歯を鳴らし、シュリは俺を睨み付けた。

その瞳にははっきりとした憎悪が浮かんでいた。

「ああ、腹立たしい。貴様の――貴様らのような猿共に協力した為に、あの御方は反逆者の汚名を着せられた。あれほどの偉業を――我々の世界を救済して下さったあの御方を、我々は反逆者として処分しなければいけない! 貴様らだ。全部、貴様らのせいだ!」

「お前……」

次の瞬間、シュリの体から膨大なエネルギーが溢れ出す。

この感じ……まさか俺の『神力解放』と同系統のスキルか?

彼女もまだ本気でなかったのだ。

「死ね! 猿共が!」

刹那、シュリの姿が消える。

また背後――いや、違う。これは――、

(分身の術!)

複数の気配。それも背後だけでなく、左右上下全てから。

分身の術、土遁の術、風遁の術、飛脚の術。

――俺には不可能な忍術の同時使用。

彼女は確実にこの一撃で、俺を殺すつもりなのだろう。

確かに致命傷を無効化する『求道』はもう使えない。

そしてこの攻撃は躱せるほどのスピードも無い。

ならどうするか?

――答えは簡単だ。

「―― 反射(リフレクション) 」

「ッ――!?」

その瞬間、シュリの攻撃は一斉に弾かれた。

無数の分身たちが信じられないようなものを見る目で俺を睨み付ける。

「きゅー!」

影から出てきたキキは俺の肩によじ登って高らかに声を上げる。

「わんっ」

更にモモも俺の足元に陣取りシュリを睨み付ける。

ちっとシュリは舌打ちする。

「モンスター契約か」

「違う、一緒に戦ってくれる仲間だよ」

強制した事なんて一度も無い。

みんな自分の意思で一緒に戦ってくれてるんだ。

「わぉぉおおおおおおおおおおおおおおんっ!」

モモが叫ぶ。

ビリビリと大気を揺らし、シュリの分身たちを足止めする。

「きゅー!」

更にキキの支援魔法が発動。

『神力解放』とキキの支援魔法は共存可能。

ステータスを増加させた俺は、動きの鈍った分身たちをアロガンツで一気に殲滅する。

(本体は――そこかっ)

アロガンツの遠距離斬撃を斜め後方に放つ。

その瞬間、ゆらりと景色が歪み、シュリが姿を現した。

「ッ――」

目を見開いて驚いている。

居場所がばれているのは予想外だったのだろう。

(……『隠れ身の術』か。背景と同化して気配を消す事が出来る忍術)

確かにその忍術は厄介だ。姿も気配も、匂いだって完全に消す事が出来る。

でも――弱点はあるんだよ。同じ忍術を扱ってるんだ。気付いて当然だろうが。

「……確かに俺たちの力は借り物だ。お前らに比べれば歪で不自然な力かもしれない」

それでも俺たちが戦ってきた時間は本物だ。

借り物だろうと、歪だろうと、この力を束ねて、俺たちはお前らに勝ってみせる。

「もう一度言ってやるよ、先遣隊。俺は――俺たちはそう簡単には殺されてやんねーよ」