軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247.最後の幕間

上杉市長と藤田は会議室で話し合いをしていた。

「――それじゃあ、周辺の調査は予定通りに。それと頼まれていた件ですが、追加の分が準備できました。これで条件は達成ですね」

「うむ、ご苦労だった」

藤田の報告に上杉市長は鷹揚に頷きながら、書類に目を通す。

新しい安全地帯でも電気が復旧し、パソコンやコピー機が使えるようになった今ではこうして紙での報告書も多くなった。

スキルや職業を得ていない人々であっても従事できる仕事が増え、市役所の頃に比べ効率は何倍も良くなった。

「……でも本当にやるんですか? 正直、俺は今もこの作戦には反対です。リスクが高すぎる」

「それでもやらねばならん。どの道、負ければ全てが終わりだ。我々に残された道は少しでも勝つための可能性を上げる事だけだ。それがどれだけ極小の可能性でもな」

「ですが……」

なおも藤田は食い下がろうとするが、不意にドアがノックされる。

「おお、丁度いいタイミングだ。入ってくれ」

市長に促され、その人物は会議室に入る。

その人物を見て、藤田は目を丸くした。

「アナタは……」

「アイヴァー・レイブンと申します。どうかよろしくお願いします」

アイヴァー・レイブン。

リベルと同じ異世界人であり、モンスターに身を落とすことで先遣隊よりも先にこの世界に来た男性だ。

こちらの世界では相葉と名乗っていたが、正体を明かした今では本名のアイヴァーで通している。

「そちらの準備が整ったと聞いてやってまいりました」

「うむ、よろしく頼む」

アイヴァーは軽く挨拶をすると席に着く。

「すまないな。私の我儘に付き合わせる形になってしまって」

「構いませんよ。リベル様と同じく、私も貴方達への協力は惜しみません。ですが……本当によろしいのですか? これは大変危険な方法ですよ? それに貴方はこの結界の要だと聞いています。それでもこの戦いに参加されるのですか?」

最終確認とでも言うように、アイヴァーは上杉市長を見つめる。

彼は迷うことなく頷いた。

「ああ、此度の戦――私も戦わせてもらう。もう若者たちだけに命を預けるわけにはいかん。それに私の後継はもう準備してある。何も問題はない」

上杉市長はちらりと藤田の方を見る。

その視線に、藤田は堪らず眼を逸らした。

「……分かりました。では始めましょう」

その覚悟を感じ取ったのか、アイヴァーはゆっくりと上杉市長へ向けて手をかざした。

一方その頃、五十嵐十香は葛木さやかと共に『安全地帯』の外に居た。

「うぅ……とお姉様ぁ、本当に大丈夫なんですか……?」

「今更怖気づいたところでどうしようもないでしょう? それにこれは私とアナタにしか出来ない事なのよ?」

「で、ですがぁ……」

ぶるぶると小鹿のように震えるさやかを見て、十香は溜息をつく。

本当にどうしてここまで変わってしまったのか。

あの頃の『ひゃっはー皆殺しだー』的な態度はナリを潜め、今ではすっかりおとなしくなってしまった。

まあそれでも、自分の言う事は聞いてくれるのだから問題ないといえば問題ないのだがどうにも不安である。

手を繋ぎながら、しばらく森の中を進むと、不意に二人の背筋に怖気が走った。

周囲の空気が一瞬にして張りつめ、巨大な威圧感が二人の肩にのしかかる。

どうやら向こうも自分達の存在に気付いてくれたようだ。

目の前の暗闇が波紋のように広がり、一匹の巨大な狼――『狼王』シュヴァルツが姿を現す。

『――何ノ用ダ?』

「……お初にお目に掛かります狼王シュバルツ様。実は折り入って相談したい事があります」

『相談ダト……?』

「はい」

シュヴァルツはグルルと呻り声をあげる。

それだけで十香は恐怖で崩れ落ちそうになった。

先遣隊との決着までは共闘すると約束してくれたが、それでも怖いものは怖い。正直、漏らしそうになる。

(覚悟を決めなさい、五十嵐十香……。これは私にしか出来ない事よ……)

だが何とか恐怖心をこらえて、十香は狼王を見つめる。

正直、これから十香が提案する内容は、シュヴァルツにとって相当に不快で度し難い内容だろう。

だが先遣隊との勝率を少しでも上げるためにはどうしてもやらねばならない事でもあった。

「狼王様、お願いです。どうか彼女と――葛木さやかと再契約を結んでは頂けないでしょうか?」

一方、安全地帯沿岸部にて、西野は一人で悩んでいた。

「どうするかな……」

己のステータスを見つめる。

彼が悩んでいるのは進化した種族『 天人(ソラビト) 』の特典であるスキルアップについてだ。

『 天人(ソラビト) 』は既存スキルの内、三つを上位スキルに変換することが出来る。

そのうち一つは、魔物使い葛木さやかを押さえる為に、『命令』を上げる為に使い、残りの二つはまだそのままになっていた。

ある程度レベルを上げ、SPを稼いで、既存スキルを上位スキルに変えてからの方が良いと判断し、これまで保留にしていたのだ。

「いい加減そろそろ決めるべきだよな……」

だが司令塔である西野では、リベルとの訓練やモンスターとの戦闘で得られる経験値も頭打ちになってきた。

そろそろこの特典を使うべきだと判断したのである。

悩みに悩んだ末、彼は二つのスキルを選択する。

「よし、この二つのスキルにしよう。さっそく強化を――ん?」

スキルを強化しようとした瞬間、ふと視界の端に何かを見つけた。

気になって近づいてみると、それは小さな宝箱だった。

小さい上に、滅多に人が来ない場所のせいか誰も見つけなかったのだろう。

彼が見つけられたのは『幸運』だった。

「ミミックじゃなさそうだな……」

西野は宝箱の中身を確認する。

中には親指ほどの大きさの 宝珠(オーブ) が一つだけ入っていた。

慎重に取り出すと、 宝珠(オーブ) は光の粒子となって西野の体の中へと吸収された。

頭の中に 宝珠(オーブ) の効果が流れ込んでくる。

「これは――」

それは彼にとって最高の『幸運』であった。

「――さて、今回のステ振りの方はこれで完了っと……」

俺はステ振りを終えるとベッドに横になった。

LV15まで上げた事で得られた大量のポイント。

それを使って『監視者』、『修行僧』、『仮面舞踏師』を一気に上級職や最上級職に変えた。

だが果たしてこれが先遣隊との戦いでどれだけ役に立つか……。

(……『監視者』が忍者と同じ最上級職まであったのは意外だったな)

影を操る漆黒奏者よりも監視者の方が伸び代があったのはちょっと驚いた。

『監視者』の最上級職で手に入れたスキルはかなり強力だったが、これを使いこなすにはまだ時間がかかりそうだ。

「そういえば一之瀬さんの方は上手くいったかな……?」

進化を保留にしてまで一之瀬さんが進めていた例の件。

今日で条件がほぼ達成できたと言っていたから、成功してたらそろそろメールが来る筈だ。

≪――メールを受信しました≫

「お、狙ったかのようなタイミングだな」

ステータスを開いて確認すると、案の定一之瀬さんだった。

そこに記されている内容を見て、俺は笑みを深める。

どうやら一之瀬さんは『賭け』に成功したようだ。

やはり彼女は相当に運がいいのだろう。

(――少しずつ、でも着実に準備は進んでいる……)

アカの力の受け渡しも、モモたちの特別訓練も順調だ。

西野君たちや、藤田さん達も力を付けている。

決戦に向けて誰もが必死だ。

俺ももっと強くならないと。

そんな風に考えていると、後ろから気配を感じた。

振り向けばスイが居た。……木なのにきちんと正座してる。

『お父さん、お父さん、お腹空きました』

「はいはい、今準備するからちょっと待ってろよ」

アイテムボックスから肥料を取り出しバケツに入れて水で薄める。

スイはその中に手……いや、根か……根だよな? を入れると気持ちよさそうに震えた。

バケツにたっぷり入れた肥料がみるみる減ってゆく。

『あー、美味しいです。ありがとうございます』

「たくさん食べろよ」

『はいです』

俺はどんどんお代わりを用意する。

スイは肥料の入った水を二十杯ほど飲み干すとようやく満腹になった。

「しかし二週間でスイもかなり成長したなぁ……」

『はいです。でももっともっと成長して、はやくお父さんとお母さんのお役にたちたいです』

「はは、ありがとな」

頭の部分を撫でると、スイは嬉しそうに震えた。

実際、スイは凄まじい速度で成長している。

ここ最近、『伸縮』という自分の肉体の大きさをコントロール出来るスキルを覚えたおかげでこのサイズに収まっているが、本来の姿は既に十メートルを超す巨木に成長している。

恐ろしく早い成長速度だ。流石、神樹。

「とはいえ、リベルさんが言ってた支援スキルはまだ使えないみたいだけど……」

使えるようになったのは大きさを変える『伸縮』や葉っぱを飛ばす『葉刃』といった通常のスキルだけ。

固有スキル欄は三つとも『■■■■』のままだ。

異界固定の領域スキル版って言ってたけど具体的にはどんな効果なんだろうか?

願わくばできるだけ早く目覚めて欲しいものだ。

「……ん?」

なんだろう?

今、一瞬変な気配を感じた。

人のような、人でないような奇妙な気配だった。

とはいえ一瞬だけだ。今はもう何も感じない。

「……一瞬だけだったし、気のせいか?」

『いや、気のせいじゃないよ』

勘違いかと思い、スイの方へ意識を向けようとした瞬間、壁に掛けてあったアロガンツの声が響いた。

『今の気配は、空間と空間が繋がった際に生じる余波のようなモノだ。君も覚えがあるだろう? 彼女が――死王リベルがこの世界に来た時にも同じ気配を感じたはずだ』

「……」

言われてみれば、確かにリベルさんに初めて会った時にも似たような気配を感じた気がする。

どうしてあの時と同じ気配を感じたのだろう?

それはつまり――。

「…………」

いや、そんなはずない。

頭の中に浮かんだその可能性を、俺は即座に否定する。

だって早すぎる。俺たちには時間があるはずだ。

決戦まで、まだ四ヶ月という時間が残されているはずなんだ。

『頭ではとっくに理解しているんだろ、クドウカズト』

だが、俺の考えを否定するように、

アロガンツは一呼吸おいて、

『――“来た”んだよ、彼らが』

次の瞬間、轟音と共に凄まじい光が夜の闇を照らした。