軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

骨の舞

骸骨の戦士たちが、アルマークたち三人を避けるように左右に分かれていく。

「後ろのみんなを狙ってる」

アルマークはモーゲンとウェンディに声をかける。

「回り込ませちゃだめだ」

「うん」

モーゲンが腕を振るい、光の網で敵を絡めとる。

「位置を変えるわ」

ウェンディがそう言ってレイドーたちを守るように後ろに下がっていく。

「助かる」

アルマークはマルスの杖を振るって風を起こし、骸骨たちを吹き飛ばした。

「敵を一か所に集めたい」

アルマークは叫ぶ。

「モーゲン、手伝ってくれ」

「分かった」

モーゲンがアルマークの意図を読んですぐさま風を起こす。そこにアルマークは自分の風を乗せて、骸骨たちを一気に吹き飛ばしていく。

「いいぞ、この調子でいこう」

アルマークがモーゲンを励ましたとき。

「新手よ」

視界確保を担うウェンディが警告の叫びをあげた。

新たな骸骨たちは、アルマークたちの前面ではなく最初から彼らの後方を窺うように現れた。

「僕が対応する」

アルマークが素早く駆け寄り、気弾の術を叩きつける。

これで倒せないことは分かっている。

だが、今は時間を稼ぐ。

ぼろきれのような鎧ごと骸骨の戦士は吹き飛ぶが、地面にばらばらに散らばったのもつかの間、アルマークの予想通りすぐに何事もなかったかのように体を再構築して立ち上がる。

アルマークはちらりとレイドーたちに視線を走らせる。

キュリメとバイヤーの傷は深い。レイドーとセラハ、ピルマンが必死に治癒術をかけているが、そう簡単に治るものには見えなかった。

しばらくここから動くことはできない。

一番いいのは、崖などを背にして敵の攻撃を前面だけに集中させることだ。そうすれば、アルマークたちだけで後顧の憂いなく敵の対処ができる。だが、今はそういうわけにはいかないのだ。

リルティの歌が響く。

その歌を聴くだけで、心に勇気が湧き起こる。

だが、そこに乗せているリルティとノリシュの魔力も無限ではない。

だからこそ、なるべく彼女たちに負担をかけないように、骸骨の戦士たちの相手は自分たちだけでしたかった。

しかし、敵はアルマークの意図を読んだかのように後方の傷ついた仲間たちを揺さぶりにかかってきた。

「澱みを引き剥がすのはいったんやめよう」

アルマークは叫ぶ。

「ウェンディ、モーゲン。できるだけ敵を引き離して、時間を稼ごう」

「ええ」

ウェンディが頷く。とはいえ視界確保のために鬼火の術と循環する風の術を同時に操っているウェンディにこれ以上の負担を強いるわけにはいかなかった。

僕がやる。

アルマークはマルスの杖を握る手に力を込めた。

「前に出る。モーゲン、援護してくれ」

言いざま、目の前の骸の戦士に飛びかかった。

魔力を込めたマルスの杖を叩きつける。骸の戦士は、受けようとした剣ごと吹き飛んで砂浜に転がった。

それを確認することもなく、アルマークは身を翻す。次の瞬間には、隣の骸骨が杖を打ち込まれて倒れる。

倒れた骸骨には目もくれない。アルマークの身体が躍動する。

次へ。アルマークが杖を振るうたび、骸骨が砂を巻き上げて倒れる。

倒れた骸骨たちは動きを止めたわけではない。すぐにまた元通り立ち上がるのだが、その隙をついてモーゲンの風が彼らを一か所に集めていく。

一か所に集めてしまえば、包囲されることはない。

アルマークは自分たちの周りから、骸骨たちをたちまち駆逐していく。

「ほら、やっぱり」

上空。グラングが目を細めて笑う。

「傭兵の坊やが出てくると思ったよ。いざとなったら力技に頼るのは相変わらずだね」

アルマークが次々に骸骨を打ち倒していくのを見て、グラングは低い笑い声をあげた。

「でも、君の腕はたった二本しかないんだよ。一生懸命広げたその腕で、一体何人の仲間を守れるんだろうね」

グラングはゆっくりと右手を上げた。

「それ」

周囲の骸骨の多くが倒され、それをモーゲンの起こした風が掃除するかのように吹き飛ばしていく。それを見てセラハが歓声を上げた。

「さすがアルマーク!」

「これなら、治癒術の時間を稼げるね」

レイドーもそう言って口元をわずかに綻ばせる。

「倒したわけじゃないから油断できない」

アルマークは言った。

「キュリメとバイヤーが歩けるようになったら、ここを離れよう。もっと、防ぎやすいところへ」

「分かった」

レイドーが頷いた時だった。

周囲の骸骨たちに突如変化が生じた。

骨同士のつながりが切れたかのように、いきなり地面にばらばらに散らばる。

「倒れた」

モーゲンが嬉しそうに叫ぶ。

「きっと魔法が切れたんだ」

「いいえ」

ウェンディが首を振る。

「何かあるわ。気を付けて、アルマーク」

「あっ」

アルマークは目を見張った。

骨の一本一本が意志を持ったかのように空中に舞い上がったのだ。

「ぶ、分裂した!」

モーゲンが叫ぶ。

無数の骨は、アルマークたちの頭上でぐるぐると渦を巻いた。

「これは」

先ほどまでとは違う差し迫った危険を感じ、アルマークが仲間を振り返る。それを狙ったかのように、上空の骨が一斉にアルマークたちに降り注いできた。

まともに受けたら骨が砕けてもおかしくないほどの速度で、天を覆わんばかりの骨が降ってくる。

「くっ」

アルマークはマルスの杖を振るって骨を叩き落としていくが、とても防ぎきれる数ではなかった。

ウェンディが強い風を起こして防ごうとするが、間に合わない。

光の網では取りこぼすかもしれないと判断したのだろう、モーゲンが不可視の盾を展開するが、それでも全てを防ぎきることはできなかった。

ノリシュがとっさに自分の身体でリルティを庇う。その背中に骨がぶつかり、ノリシュは低く呻いた。

レイドーもセラハたちの前に飛び出し、骨に打ち据えられる。

アルマークもモーゲンもウェンディも、いくつもの骨に叩きつけられた。

そうして骨がしたたかに少年たちを打ちのめしたその後に、頭骨が飛んできた。ぐわっと口を開いた髑髏が、レイドーたちの喉笛を狙って降り注ぐ。

「僕が」

アルマークは歯を食いしばった。

これだけは、レイドーたちのところへ行かせてはいけない。アルマークは気弾の術を立て続けに打って髑髏を打ち落としていく。

ウェンディがその後ろに立った。アルマークの打ち漏らしを気弾の術で落としていく。

髑髏が全て打ち落とされた。だが、アルマークたちが息をつく間もなく、再び骨が舞い上がった。

「また」

モーゲンが汗だくの顔で目を見開く。

「これじゃきりがない」

「そうだろう」

楽しそうにグラングが頷く。

「おでぶちゃんの言う通り。そろそろ無駄な努力だって分かってきたかな」

右手を上げると、アルマークたちの頭上で再び無数の骨が渦を巻いた。

「“門”のお嬢様と傭兵の坊やは、ライヌルさんの用意した船まで連れて行ってあげるよ。私はこう見えても約束は守る人間だからね」

そう言って、品定めするように眼下で奮闘する少年少女たちを見下ろす。

「そうだな。おまけであのおでぶちゃんも連れて行ってあげようかな」

グラングは指をくるくると回した。

「ほかの子は残念。ここでおしまいだ」

「ウェンディ」

アルマークは背後のウェンディの耳もとに顔を寄せて囁いた。その言葉を聞き、ウェンディは頷いてしゃがみこむ。

「モーゲン!」

アルマークはモーゲンにも何事か指示を出し、自分もウェンディと同じように砂浜に膝をついた。

上空から骨が一斉に降ってくる。

「みんな、モーゲンの足元にしゃがみこむんだ!」

アルマークが叫ぶ。

治癒術の手を止めて、セラハたちがキュリメとバイヤーをモーゲンの足元に引き寄せる。

モーゲンが歯を食いしばって汗まみれの顔を上に向ける。

全員を守るように、傘のような不可視の盾が広がった。

骨が、 雹(ひょう) か 霰(あられ) のような激しい音を立ててその盾を揺るがす。

だが、盾は破れない。弾かれた無数の骨が砂浜に散らばる。

「ははっ」

グラングが笑う。

「おでぶちゃん、頑張るじゃないか。何回目まで防げるかな」

そう言うと、砂浜に散らばった骨を再び浮かせようと手を動かす。

「……うん?」

グラングは目を見張った。

「骨が」

砂浜に散らばった無数の骨。

それが、そのままずぶずぶと砂の中に沈んでいく。

いや、砂ではない。

泥。

コルエンが以前、グリーレストを捕まえようとして、この魔法を使ったと話していた。

先ほど、アルマークは不意にそれを思い出したのだ。

泥掴みの術。

足場をぬかるみにしてそこに対象を沈める魔法。

今、アルマークたちの周囲の砂浜は、泥の沼と化していた。

「ありがとう、ウェンディ」

アルマークは泥掴みの術を使ったウェンディにそう声をかけ、自分も地面に杖をかざす。

思い出せ。

レイドーに教えてもらったコツを。

流し込んだ魔力を活性化させれば熱を発する。その逆だ。

レイドーはそう言っていた。

流し込んだ魔力の動きを止めていくイメージ。

周囲の泥が急激に温度を失っていく。

素手ではこうはいかなかっただろう。その大半は、マルスの杖の力だ。

だが、今はそれが何の力であろうが構わなかった。

凍れ。

マルスの杖は、アルマークの意思を力強く顕現した。

泥が無数の骨を飲み込んだまま固く凍り付く。

「封じたぞ」

アルマークは叫んだ。

「さあ、今のうちに治療を」