軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇の魔術師グラング

アルマークたち三人が前に立つと、レイドーは安心したように息を吐いた。

「やっぱり君が来ると安心感が違うよ、アルマーク」

「そんなことはないけど」

アルマークは目の前の骸骨戦士たちから目を離すことなく、そう言った。

ごめん、レイドー。後でゆっくり謝らせてくれ。

「でも今は僕たちに任せてくれ。ここから一歩も通さない」

「ありがとう」

レイドーたち七人は、全員が大なり小なり手傷を負っていたが、その中でも傷が深いのは、バイヤーとキュリメだった。

骸骨の戦士の剣に斬られたのだ。

セラハとピルマンが二人の傷に改めて手をかざす。

温かい光が二人の傷を照らすが、流れる赤い血は痛々しかった。

僕のせいだ。

その血を見るだけで、アルマークの胸は詰まった。

だが、後悔に身を委ねることはしなかった。

今は、やるべきことがある。後悔は、全部が終ってからでいい。

「ノリシュ、レイドー。君たちも少し休んでくれ」

皆の前に立ち続けた二人に、アルマークは言った。

「君たちも傷ついてるじゃないか」

「ありがとう。少し下がるよ」

そう言ってレイドーが素直に後ろに下がる。強がることはしない、彼らしい態度だった。

「でも、休んでる場合じゃないね」

レイドーはそのままセラハの隣に立ち、治癒術の治療に加わった。

一番必要とされている場所を自然に見抜く力。

君の方こそ、頼りになるよ。

先ほどのレイドーの言葉を思い出して、アルマークは口元を緩める。

「キュリメ。もう少し我慢してくれ」

レイドーの言葉に、血の気の引いた顔のキュリメが頷いた。

「ありがとう。ごめんね」

か細い声で、そうお礼を言う。

レイドーと同様にアルマークたちに前衛を譲ったノリシュは、そっとリルティの隣に立った。

リルティの肩を抱き、その歌声に魔力を乗せる。

「お願い、リルティ」

ノリシュは言った。

「あなたの歌が、頼りなの」

旋律と、言葉。

信奉するものは違うけれど、今二人の心は一つになっていた。

この霧を越えて、届け。

「リルティ。まだ続けられるかい」

アルマークの言葉に、歌を止めることなく、リルティが頷く。

「頑張って、リルティ」

ノリシュがリルティの肩を抱く腕に力を込めた。自身も傷つきながらも、ノリシュは明るい笑顔でリルティを励ます。

「本当に、あなたは素敵よ。私もあなたくらい歌がうまければよかったのに」

「うん、僕もそう思う。リルティ、君の歌なら」

アルマークは頷いた。

きっと、届く。

アルマークには確信があった。

届くはずだ。

このリルティの歌が、ネルソンたち三人の耳にも。

たとえ合流することが叶わなかったとしても、この歌が間違いなく三人に勇気を与える。

聞いていてくれ、ネルソン。デグ、ガレイン。

無事でいてくれ。

祈るようにそう念じたアルマークの前に、ゆっくりと骸の戦士が歩み寄ってきた。

「時間を稼ぐよ」

アルマークはモーゲンとウェンディに声をかける。

「一つずつ壊そう」

「分かった」

「ええ」

二人が頷く。次の瞬間二人の魔法が飛び、アルマークはそれに合わせて思い切りマルスの杖を振り抜いた。

「しぶとい子供たちだね、本当に」

上空。

霧の上に腰かける男は、もう先ほどまでの落ち着いた態度を取り戻していた。

その身体は、月光にくっきりと照らされ、霧の上に影を落としている。

「まあ、この霧の中で骸と戯れ続けて、いつまでももつわけはないけれど」

男の眼下で、アルマークたちが骸骨の闇を剥ぎ取って四散させた。

「これでやっと一つ」

男は微笑む。

「彼らはあと何体いると思っているんだろうね、哀れな骸たちが」

その言葉が聞こえたわけでもあるまいが、ゆっくりと数を増した骸骨たちが包囲の輪を狭めていく。

「人間の魔力は無尽蔵ではない。もしも全部そうやって倒そうなんて考えているのであれば、君たちもそのまま骸の仲間入りだよ」

男が嗤うそばから、また一体の骸骨が崩れ落ちる。だが、男の表情は変わらない。

「どこまでもつか、楽しみだ」

その時だった。

男の目の前の霧がぐにゃりと歪んだ。

男は、一瞬険しい目でそれを睨んだが、すぐに露わになりかけた感情を穏やかな表情の仮面の下に隠した。

「やあ」

男は言った。

歪んだ霧の中から、一人の男が姿を現していた。

灰色のローブをまとったその新手の男は、執事服の男よりもだいぶ年長に見えた。

「来たんだね、ライヌルさんも」

そう呼びかけられて、灰色のローブの男……闇の魔術師ライヌルは不機嫌そうに男を見た。

「ここで何をしている、グラング」

嫌悪感を隠さない声。

グラングと呼ばれた執事服の男は、笑顔で肩をすくめる。

「何をって、ご挨拶だな。ライヌルさんが力を貸してくれって言ったんじゃないか」

「力を貸せだと」

ライヌルは乱暴に髪をかき上げた。その右手の中指で金色の指輪が光る。

「私は、あの骨を拾って来いと言っただけだ」

そう言って、眼下に広がる霧を手で示す。

「こんな真似をしろと、誰が言った」

怒りを抑えるように、ライヌルの声が震えた。

「台無しにするつもりか、私の作品を」

「あなたが興味あるのは、“門”のお嬢様と、後はせいぜいあの傭兵の坊やくらいでしょう?」

グラングはライヌルの怒りにもまるで無頓着に答える。

「だったら、ほかの子供は私が遊んだっていいでしょう」

「それが邪魔だと言っているんだ」

ライヌルの語気が強まる。

「余計な真似はするな」

「だから、ライヌルさんのお目当ての二人には手は出しませんってば」

グラングはあくまで軽い口調で言う。

「そこは、約束しますよ。でも、ほかはいいじゃないですか。私だってわざわざあなたのところまで骨を持ってきたんだ。それくらいの楽しみはあったって」

「ふん」

ライヌルは鼻を鳴らして、グラングを見た。

「卑しいな」

その言葉に、グラングの目が一瞬細くなる。

「え?」

グラングはライヌルを見返した。

「何ですって?」

「私はお前になど興味はない」

ライヌルはきっぱりと言った。

「だが私の邪魔をしたら、その時は分かっているだろうな」

「誰にものを言ってるんです」

グラングが笑う。

「僕らは、同格でしょ」

「実力まで同格かどうか、その身で思い知ることになるぞ」

「おお、怖い」

グラングはおどけて肩をすくめた。

「あなたは時間がないんでしょ、ライヌルさん。アークレイさんがそう言ってましたよ」

そう言って、手を振る。

「ほら、だから急いで次の準備をしないと」

「グラング」

ライヌルの姿が、霧に侵食されるようにぼやけた。

「警告はしたぞ」

「承りました」

冗談めかしたグラングの返事に、ライヌルが不快そうな表情を崩さないままで言う。

「彼らが私の後輩だから、言うわけではないが」

「え?」

「あまり見くびらないことだ。ノルク魔法学院の学生の力を」

その言葉を最後に、ライヌルは消えた。

グラングは、ライヌルの消えたあたりを見つめ、穏やかな笑顔のままで言った。

「黙れ。死にぞこないが」

アルマークがマルスの杖を突き出す。

気弾の術。

見えない空気の塊をぶつけられた骨が砕け散り、そこにまとわりついていた黒い澱みが漂い落ちた。

骸骨がまた一体、操り糸が切れたかのように砂浜に崩れ落ちる。

「やっぱり、ちゃんと引き剥がさないとだめだね」

モーゲンが言う。

「横着はしちゃだめだな」

「ああ。一体ずつ丁寧にやっていくしかなさそうだね」

アルマークは頷いて答えた。

骸骨の戦士との戦い方のコツを、三人は少しずつ掴み始めていた。

一度、アルマークは試しに、骸骨の戦士にまとわりつく澱みに向けて直接気弾の術を放ってみたのだが、それは無駄に終わった。そこの骨が砕けても、澱みはすぐ近くの骨に移ってしまい、戦士の動きを止めることはできなかったのだ。

彼らを本来の物言わぬ骸に戻すには、やはり最初にアルマークたちがやったようにまず本体から澱みを引き剥がして、そのうえで骨を砕く必要があった。

「また来るわよ」

視界を保つために風を循環させ続けるウェンディが言う。

「気を付けて」

「動きが変わった」

アルマークは鋭い声を出した。

「気を付けろ。狙いは僕らじゃないぞ」

その言葉通り、骸骨の戦士たちがアルマークたちを回り込むように旋回を始めていた。

「さあ」

アルマークたちの上空。グラングが嗤う。

「生徒諸君。楽しく踊ろうじゃないか、私の骸たちと」