軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊王

ちっ、と聞き慣れた舌打ちの音がして、アルマークは顔を上げる。

いつの間にかトルクが隣に立っていた。

巨木を消して登場したウォリスを面白くなさそうに見ている。

「派手な演出しやがって」

「ああ、トルク。お疲れ様」

アルマークは言った。

「小鬼の影の演出、よかったよ」

「あんなもん誰でもできる」

トルクは鼻を鳴らす。

「ウォリスの野郎、俺の出番が少ねえのをいいことに、演出をやたらとやらせやがって」

トルクの言うとおり、トルク、ガレイン、デグの3人は演出の回数も多く、忙しそうだった。

ガレインとデグは役の出番自体が少ないこともあり、自発的に演出に力を注いでいたが、デミガル王ことトルクは重要な役だけに、他の役との兼ね合いもありやることが多い。

しかも最後には生演奏も控えているのだ。

アルマークは、実はトルクはこの劇でも一二を争う忙しさなのではないかと思っていた。

「ガレイン、デグ」

トルクが振り返って部下役の二人を呼ぶ。

「今の内に休んでおけよ。ウォリスが張り切って自分で演出している今がチャンスだからな」

その言葉に二人は笑顔で頷く。

このいつも一緒の三人組は、演出でも、トルクがリーダーとなって他の二人に指示を出していた。

ガレインもデグも、傍から聞いていると、それで分かるのか?と思うようなトルクの乱暴な指示を、特に聞き返すでもなくこなしている。

「君たち3人はやっぱり息が合っているね」

アルマークの言葉にデグが笑う。

「まあね。他の人とやるよりかはやりやすいよ」

それにガレインはいつもどおり無言で頷く。

武術大会でも、この二人は自分の仕事をきちんとこなしてくれた。

夜の薬草狩りでもそうだったと聞いている。

目立たないけれど、このクラスに欠かすことのできない二人だ。

舞台上では、精霊王ウォリスがネルソンたちに試練を与えようとしていた。

「魔女を倒す、か」

ウォリスが厳しい顔をする。

「今までにもそう言って森に踏み込んだ者は数多いが、誰一人としてそれを果たし得なかった」

「困難な任務であることは百も承知」

ネルソンは答える。

「それでも、王のため、王妃のため、ガイベル王国のために、やらねばならぬのです」

「さて、その立派な志、どこまで真実かな」

ウォリスはそう言って微笑むと、優雅な身のこなしで右手を頭上に掲げた。

その指先から、一本の大きな羽根が現れる。

ウォリスの手から、はらり、とこぼれて床に落ちそうになるのを、モーゲンが慌てて捕まえる。

「精霊の羽根」

ウォリスは言った。

モーゲンが客席に向けて透かしてみると、その羽根は角度や光の加減で、虹のように色を変化させた。

「こんなきれいな羽根は初めて見た」

モーゲンが感心したように言う。

「この森の中に、あと3本」

ウォリスは指を三本立てる。

「精霊の羽根がある。それを見つけてこられたら、その勇気と志を認め、我が加護を与えよう」

「望むところ」

ネルソンは力強く頷く。

「必ずや見つけてまいりましょうぞ」

そう言ってモーゲンを振り向く。

「さあモーゲン殿。羽根のところへ案内してくだされ」

「いやあ」

モーゲンは困った顔で首を振った。

「俺もずいぶん長いこと、この森で狩人をしているけどこんな羽根を見るのは初めてだ」

「えっ、モーゲンさんにも分からないんですか」

ノリシュが困惑した声を上げる。

「どこか、ありそうなところだけでも分かりませんか」

「う、うーん」

モーゲンが腕組みをして考える。

「どこにあるんだろうなぁ……」

「まあいいではないか、ノリシュ殿」

ネルソンが明るい声で言った。

「モーゲン殿にも分からぬならば仕方ない。とりあえず何事もやってみることよ。探しに行こうではないか」

そう言って元気に歩き出そうとするのを、ノリシュが慌てて引き止める。

「ダメですよ、何言ってるんですか。こんな広い森で、たった3枚の羽根をどうやって探すんですか。そんなことをしているうちにひと月が過ぎて、デミガル王が来てしまいます。もしそうなったらレイラ様は」

そう言って悲痛な顔をする。

「む」

さすがにネルソンもそれを見て足を止める。

「お願いします、精霊王様」

ノリシュが身を投げ出すようにしてウォリスの前に両膝をついた。

「魔女をどうしても倒したいのです。王妃様の笑顔を取り戻さないとならないのです。どうか羽根の在り処を教えてくださいませ」

「ふむ」

ウォリスは顎に手を当てる。

「今までに勇士と呼ばれる男たちは幾人もやって来たが、私の前で魔女を倒すと言った女はそなたが初めてだ。よかろう。その勇気と献身に免じて」

ウォリスが再び右手を伸ばす。

「バイヤー」

ウォリスが厳かにその名を呼ぶと、その指の先の空間から、弾けるようにして少年が現れる。

精霊バイヤーだ。

派手な魔法の効果に客席が沸く。

「さっきから樹を消したり羽根を出したり、バイヤーまで出して、あれを全部一人で演技しながらやってるんだからね」

呆れたようにレイドーが言う。

「我らがクラス委員は頼もしいね、本当に」

「うん」

アルマークは頷くが、トルクは相変わらず面白くない顔をしている。

「ふん、自分のところだけ派手にやりやがって」

とはいえ、ウォリスが全て自力でやっていることにトルクも表立って文句は言えないようだ。

それでこうして陰でぶつぶつ言うしかないのだろう。

「バイヤー。この者たちを精霊の羽根のところへ案内してやりなさい」

ウォリスの言葉に、バイヤーがぴょこんと頭を下げる。

「分かりました、精霊王様!」

それから、ネルソンたちに向き直る。

「森の精霊バイヤーだ。よろしくな!」

「よろしく頼む」

ネルソンが言い、ノリシュとモーゲンも笑顔で頭を下げる。

「それではバイヤー、頼むぞ」

ウォリスはそう言うと、今度は左手を掲げた。

その手が激しく光ったかと思うと、ウォリスの姿は消えていた。

おお、と客席がどよめく。

消えたウォリスの代わりに、再び舞台の中央に巨木がそびえ立っていたからだ。

「いちいち派手なんだよ」

反対の舞台袖を悠々と歩き去っていくウォリスの背中に向かって、トルクが顔をしかめて吐き捨てた。

「いいじゃないか」

アルマークは微笑む。

「さすが学年一位のウォリスだ。みんな驚いてるよ」

「ふん」

トルクは面白くなさそうにそっぽを向く。

舞台上では、ウォリスがいなくなってバイヤーがその本領を発揮し始めていた。

「ウォリス様はああ言っていたけど」

そう言って3人を見る。

「おいらには、お前らに道を教えてやる義理なんてこれっぽっちもないんだけどね」

「そう言わずに頼む」

ネルソンが言うが、モーゲンは露骨に面倒そうにバイヤーから距離を取った。

「それじゃ俺は道案内も済んだので、これで失礼しようかな。お二人さん、どうかお気をつけて」

「ああ、モーゲン殿。かたじけない」

「ありがとうございました」

ネルソンとノリシュが頭を下げ、モーゲンは手を振ってその場を去ろうとする。

「さて、お前ら」

バイヤーがネルソンとノリシュに向き直る。

「精霊の羽根の在り処を教えてほしかったら、言うことを聞いてもらおうかな」

バイヤーはいたずらっ子のようににやりと笑った。

「おいらは腹が減った! まずは食い物を持ってこい、センネンダケの焼いたのが食いたいぞ!」

ネルソンとノリシュが顔を見合わせる。

その背後で、立ち去ろうとしていたモーゲンが足を止めた。

振り向いて、にやりと笑う。

「ほう?」