軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

成長

「ああ、ひどいな」

ライヌルは顔を歪めて、泣きそうな顔をした。

「なんてことをするんだ」

中指の切断面を押し付けると、次の瞬間、ずぶりと音を立てて指が元通りになる。

「いきなり人の指を切り落とすなんて。エルモンド卿は一体娘にどんな教育をしているんだ」

「余計なお世話よ」

ウェンディはきっぱりと言った。

「我が家の教育方針をあなたに心配してもらう必要はないわ」

ウェンディはそのままライヌルの目の前を素通りしてアルマークの前に立つ。

「ウェンディ」

ウェンディがまるで無防備にライヌルに背を向けるので、アルマークは慌てて声をかけた。

「危ない」

「平気よ」

ウェンディは微笑んだ。

その身体の中で凄まじい量の魔力が渦巻く。

「やれるものなら、やってみればいい」

ライヌルは肩をすくめて二歩下がる。

「いたいけな少女を後ろから襲うほど落ちぶれてはいないさ。こう見えても私は紳士なんだ」

そう言いながら、中指の感触を確かめるように手を開いたり閉じたりする。

「指輪に傷が付いたらどうしてくれるんだ、まったく」

ライヌルに構わず、ウェンディはアルマークの右手を取った。

痛みに一瞬顔をしかめたアルマークの顔を、ウェンディは悲しそうに見る。

「ごめんなさい、アルマーク。痛かったでしょう」

そう言って、そっと自分の手を重ねる。

「魔力の強さだけじゃ、治癒術は使いこなせないけど」

ウェンディの手が優しい光を放つ。

「今は、頭がとてもはっきりとしているの」

アルマークは息を呑んだ。

右手の痛みがたちまちに引いていく。

夜の森でボラパの炎を受けて治療してもらったときも、その治癒術の技術の高さに驚いたものだったが、これは、とてもその時の比ではない。

ウェンディがゆっくりとアルマークの手を離した。

「握ってみて」

ウェンディに言われるままに、右手を握りしめ、それからゆっくりと開く。

アルマークはウェンディの顔を見た。

「なんともないよ」

「良かった」

ウェンディは微笑んだ。

「それなら明日の劇も大丈夫だね」

「ああ」

アルマークはウェンディの言葉で初めて思い出した。

「そうだった」

僕は、そのためにわざわざウェンディをこんなところに呼び出したんだった。

「そろそろいいかな、お二人さん」

ウェンディの背後でライヌルが声を上げた。

「アルマーク君の右手も私の中指も元通りになったところで、仕切り直そうじゃないか」

「ええ、お待たせ」

ウェンディがライヌルに向き直る。

「相手してあげるわ」

普段のウェンディらしからぬ強気な言動。

ウェンディはライヌルに対して心から怒っているようだった。

皮膚がひりつくほどの魔力が、その身体から今にも発されようとしている。

「やれやれ。困ったお嬢さんだ」

ライヌルは呆れたように首を振った。

「魔力が大きくなっただけで私に勝てるつもりでいらっしゃる」

そう言うと、右足を一歩引く。

二人に対して半身になって、左手をゆっくりと胸の前まで上げる。

ライヌルがそんな構えを取るのは初めてだった。

その身体に、ウェンディに匹敵する巨大な魔力が渦巻く。

「その程度の魔力でよければ、私にだっていつでも練れるというのに」

「ウェンディ」

アルマークはウェンディの隣に並んだ。

「敵は強いぞ」

「ええ」

ウェンディは頷く。

「でも、あなたと一緒なら負ける気がしない」

「僕も同じことを言おうと思っていた」

アルマークは微かに口元を緩めた。

「ありがとう。君がいると安心する」

心強い。

ウェンディの真っ直ぐな正しさが。

北の傭兵たちがいるのと同じくらい。

その強さの種類は違うのかもしれないけれど。

「うん」

ウェンディが頷く。

「アルマーク君、忠告だ」

ライヌルは渦巻く魔力を弄ぶように両手を広げて、言った。

「君が本当に強くなりたいのなら、仲間に頼らず、一人で戦うことを覚えたまえ」

アルマークを見て、にこりと笑う。

「この私のようにね」

「あなたの言葉を訂正します。宮廷魔術師ライヌル」

ウェンディがすぐに切り返した。

「あなたには仲間がいない。だから一人で戦うことしかできなかっただけでしょう」

「口の減らないお嬢さんだ」

ライヌルは苦笑いした。

「だが、あなたのような存在こそが、アルマーク君の真の成長を妨げているのかもしれませんよ」

「あなたの言葉は聞かない」

ウェンディはぴしゃりと言った。

「嫌いな男の言うことは耳に入ってこない」

そう言って、いたずらっぽく笑う。

「ルームメイトのカラーの言葉だわ」

ライヌルは拍子抜けしたように肩をすくめる。

「もしもウェンディが僕の成長を妨げているのなら」

アルマークが代わりに答えた。

「ウェンディと一緒に成長する」

ウェンディが驚いたようにアルマークを振り返る。

「その逆も同じだ。僕たちは」

アルマークの答えは明快だった。

「一緒に成長していくんだ」

「はっ」

ライヌルが笑った。

「一体子供に何を教えているんだ、イルミスのやつは」

その顔に暗い笑顔が浮かぶ。

「その甘さで失ったものがどれほどあることか」

「先生はあなたなんかとは違う」

アルマークの言葉に、ライヌルは眉を上げて口元を歪めた。

「まあいい。それではこれが私の特別授業だ。試してみよう」

ライヌルの魔力がさらに膨れ上がった。

ウェンディをすでに遥かに凌駕している。

その尋常ではない魔力に包まれても、ライヌルは表情も変えない。

まだ底が見えない。

飄々とした性格を装っていた闇の魔術師が、いよいよその本当の力の一端を見せようとしていた。

「ボラパのときの感じで行こう」

アルマークはウェンディに囁いた。

魔法の初撃をウェンディが相殺し、アルマークがその間隙を衝く。

「分かった」

ウェンディが短く答える。

ライヌルが、一瞬、今まで見せたことのない邪悪な表情で舌なめずりするようにウェンディを見た。

「来なさい」

その時だった。

風が吹いた。

舌打ちしたライヌルの身体から、膨大な魔力が一瞬で消える。

「そこまでだ、ライヌル」

ライヌルとはまた別の、灰色のローブ。

イルミスがウェンディとアルマークを庇うように立ちはだかった。