軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇気

魔術祭を翌日に控えた朝。

武術大会を遥かに超える人出が見込まれるとあって、既に学院内のあちこちに案内の看板が立てられていた。

とはいえ、王族が来るわけではないので、物々しい衞士たちの姿はない。

魔術祭の目玉はなんといっても、高等部の生徒たちの作成した魔法具の展示即売会だ。

クラスや授業という概念がなくなり、それぞれの専門領域の研究にうちこむ高等部では、研究と課題を兼ねてさまざまな魔法具を作成する。

それらを外の魔術師向けに販売するこの魔術祭では、それを目当てに世界各地の魔術師や商人たちが学院に訪れる。

もちろん中等部や初等部の生徒たちのさまざまな出し物を見るために魔術師以外の一般の人々も数多く足を運ぶのだが、三日間にわたって開催される魔術祭で、最も人出の多いのは初日、次が三日目だ。

その理由は、単純だ。

売り切れる前に目当ての魔法具を手に入れようと、多くの魔術師や商人が初日に押し寄せる。

そして最終日、売れ残りの魔法具が値段を下げて販売されるのを見越して、再び魔術師や商人が集まるのだ。

魔術師や商人が集まれば、その従者や関係者など多くの人も集まる。

そういうわけで、アルマークたち2組が劇を上演する二日目は、最も人出の少ない谷間の日なのであった。

今日は、最後のリハーサルを講堂ですることになっていた。

作った衣装を全てきちんと身に着け、背景や小道具も総動員して、演出も全て本番通りに行う。

まる一日授業がないので、リハーサル以外の時間も全て準備に費やせる。

だから、今日はさすがにもうアルマークも朝早くに教室に行って練習をするのはやめにして、いつも通りの時間に寮を出た。

「アルマーク、久しぶりだな」

そう声をかけられて振り返ると、1年生のエルドが精一杯胸をそらしてアルマークを見上げていた。

「やあ、エルド。おはよう」

「最近見なかったな。早くに教室に行っていたのか」

エルドの言葉に頷く。

「うん。ちょっと劇の練習をね」

「そうか。いい役なのか」

「……うん、そうだね」

アルマークは苦笑する。

「僕にぴったりの役だよ」

「その言い方は、少なくとも主役とかではなさそうだな」

エルドはまるでアインのようなことを言う。

「だが、どんな役でも一生懸命やるのはいいことだ」

エルドはイルミスのように頷くと、アルマークの背中を叩く。

「本番は僕も見に行くから頑張れ」

「ありがとう」

アルマークはそう答えてから、ふと気になって尋ねる。

「そういえば、今日は一人なのかい」

エルドといつも一緒の女の子、シシリーの姿が見えない。

「うん、まあな」

エルドは曖昧に頷く。

「どうしたんだい」

そう尋ねると、言いづらそうに横を向いて答える。

「合唱の練習に力が入りすぎて、少しけんかしたんだ」

「けんか」

アルマークは思わず隣のエルドの顔を見下ろす。

「君たちもけんかなんてするんだね」

エルドは少し唇を尖らせて、アルマークとは反対側に顔を向けながら、言い訳するように言う。

「別にいいんだ。最近はシシリーと校舎に行くのにも飽きていたからな」

「ふうん」

アルマークは頷いた。

「でも、仲直りするのは早ければ早いほどいいと思うよ。時間が経つほど難しくなるから」

「仲直りって、どうやるんだ」

エルドが珍しくそう言ってアルマークを見上げた。

意外な言葉に、アルマークは思わず返答に詰まる。

「ええと、それは」

「なんだ」

エルドはうつむく。

「アルマークに分かるわけないか」

「いや、分かるよ」

アルマークは慌てて答えた。

「仲直りするには、いつも通りに話しかけることだよ。けんかする前と同じように」

「いつも通りに?」

エルドは胡散臭そうにアルマークを見る。

「そんなの、わざとらしいじゃないか」

「でも、お互いに仲直りしたいと思っているのなら、それが一番いいと思うよ」

アルマークは言う。

「エルドだって、シシリーが教室でいつも通り話しかけてきたらどうする?」

「シシリーが?」

エルドは唇を尖らせたままで少し顔を赤くして黙った後、大きく首を振った。

「そんな白々しいことをしてきたら、ちゃんと謝れって言ってやるさ」

「それはよくないよ」

「なんでだ。謝りもせずに、そんな虫のいい」

「いや、エルド」

アルマークは首を振る。

「気まずくなった相手に何事もなかったかのように話しかけるっていうのはね」

そう言って、言葉に力を込める。

「すごく勇気がいることなんだよ」

「なんだ、やけに力を込めて」

エルドは鼻白んだ顔をして、アルマークを睨む。

「勇気だって? ちがう、図々しいだけじゃないか」

「そんなことないよ」

「とにかく、僕はそんなこと認めないね」

「あ」

アルマークが急に前を向いたので、エルドもつられて前を向く。

道の脇に、シシリーが立っていた。

シシリーはエルドの姿を見て、少し気後れしたような顔をしたが、それでも意を決したように駆け寄ってきた。

「おはよう、エルド。おはよう、アルマーク」

「おはよう、シシリー」

とっさに何も答えられないエルドの代わりに、アルマークが挨拶を返す。

「明日はいよいよ魔術祭だね」

アルマークはそう言ってシシリーに微笑んだ。

「うん」

シシリーは頷く。

「アルマークも劇に出るの?」

「ああ、出るよ」

アルマークが頷くと、シシリーは赤い顔で一生懸命にエルドを見る。

「それじゃあ私、見に行くね。エルド、一緒に見に行こうよ」

「お、ああ」

エルドは喉に物が詰まったような返事をした。

「行ってもいいよ」

「よかった」

ほっとしたように微笑んで両手を合わせるシシリーの姿に、エルドは自分のペースを取り戻そうとしたのか、

「でもアルマークはちょい役みたいだぞ。見に行ってもそんなに出番はないかもな」

と憎まれ口を叩く。

「え、主役じゃないの、アルマーク」

シシリーがアルマークを見上げる。

「うん。途中で出てきて、割とすぐに死ぬよ」

アルマークが答えると、シシリーは同情したように首を振る。

「かわいそう、アルマーク。そんな役しかやらせてもらえないなんて」

「そうだな、僕たちで見に行ってやらないと悲惨だな」

「うん。見に行ってあげるから頑張って死んでね、アルマーク」

「僕たちが見ているからには心配いらない。安心して死ぬがいい」

すっかりいつもの調子に戻った二人に、アルマークは苦笑いして頷く。

「ありがとう。嬉しいよ」

それから、照れくさそうに並んで歩き始めた二人を見て、邪魔にならないように一歩前に出る。

「ごめん、それじゃ僕はちょっと急ぐから」

そう言ってアルマークは早足で二人から離れた。

だいぶ引き離してからそっと振り向くと、二人はもうまるでいつもの調子で楽しそうに話していた。

それを見て、二人が仲直りできてよかったと思う反面、我が身を振り返ってアルマークはまた胸にうずくような痛みを覚えるのだった。