軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トルクの助言

アルマークの部屋に入ったトルクは、殺風景な部屋だな、と吐き捨てた。

「前にアインも同じことを言ってたよ」

アルマークが言うと、トルクは、だろうな、と鼻で笑う。

「で?」

トルクは勝手に椅子に座ると、足を組んでアルマークを見た。

「何があった? 話してみろよ」

「うん」

アルマークはトルクに向かい合うようにベッドに腰掛ける。

「でも、どうして僕が悩んでるって分かったんだい」

「分かるに決まってんだろ」

トルクはせせら笑った。

「一日中、脱け殻みたいな間抜け面さらしやがって。呪われた剣士どころか、まるで呪われたかかしだ」

「そんな顔してたのか」

アルマークは頬を指で掻く。

「恥ずかしいな」

「いまさら何言ってやがる」

トルクは口許を歪めて笑った。

「で、何があったんだ」

そう言って、顎で話を促す。

「マイアさんに夕飯が片付けられちまう前に、手短に話してみろよ」

「うん。実は」

アルマークは話した。

ここ三日、突然ウェンディが自分に壁を作るようになったこと。

自分にはその原因の心当たりが全くないこと。

そのせいで、劇の練習もまともにできていないこと。

「はん」

トルクが鼻で笑う。

「何かと思や、そんなことかよ」

「君にとってはそんなことかもしれないけど、僕にとっては一大事なんだ。ウェンディに嫌われるのは耐えられない」

アルマークが言うと、トルクは苦笑する。

「お前がそうやって何でも恥ずかしげもなく言うのは、北流なのか」

「北流かどうかは分からないけど」

アルマークは首をかしげる。

「どうして恥ずかしいんだい」

「そりゃお前、自分が女に嫌われたかもなんて馬鹿正直に」

言いかけてトルクは思い直したように首を振った。

「やめた、あほらしい。俺は飯を食いに行く」

「え、なんでさ。相談に乗ってくれるんじゃないのかい」

「話してみろとは言ったが、相談に乗るとは言ってねえよ」

トルクは立ち上がった。

「女なんて、強気で俺に付いてこいって言や付いてくるもんだ。それで付いてこない女なら、どうせその程度ってことだろうが」

その言葉にアルマークが要領を得ない顔をする。

「何がその程度なんだい」

トルクは舌打ちする。

「だから、お前を思う気持ちがだよ。いちいち言わせんな」

「じゃあ僕はウェンディに、僕に付いてこいって言えばいいのかい」

「おう。そう言え」

トルクは頷く。

「うん。分かった」

アルマークは頷いた。

「で、僕はウェンディをどこに連れていけばいいんだい」

「は?」

トルクが目を剥く。

「何が」

「え、だって」

アルマークがきょとんとする。

「僕に付いてこいって言うからには、僕はウェンディをどこかに連れていくんだろ」

「そ、そりゃお前」

トルクは眉をしかめて言葉に詰まる。

「付いてこいってのは、そういう意味じゃねえよ。お前の行くところに付いてこいってことだろうが」

「僕の行くところ」

今度はアルマークが眉をしかめる。

「僕はどこに行くんだい」

「知るか」

トルクが噛みつきそうな顔で答える。

「海でも森でもどこへでも行っちまえ」

「海か森だね。そこへ付いてきてくれたらウェンディは僕のことを嫌ってないってことかい」

「そりゃあそうだろ。嫌いな男と二人で出かける女なんていねえだろ」

「なるほど。それもそうだね」

アルマークは頷く。

「そうか。僕に付いてこい、か」

言えるだろうか。

アルマークは考える。

ウェンディ、僕に付いてこい。

ずいぶん偉そうだ。

ウェンディ、僕に付いてきてくれないか。

これくらいなら言えるかもしれない。

ただ、いきなりそんなことを言うのは変じゃないだろうか。

「でも、そんなことを急に言ったら、ウェンディは驚かないかな」

「お前、まさか一から十まで俺に聞く気か」

トルクがため息をつく。

「心配なら、今からおかしなことを言うよ、とでも前置きしやがれ。そうすりゃ向こうだって、ああ、こいつはこれから変なことを言うんだなって心構えができるだろ」

「確かに。それなら驚かないね」

アルマークは頷く。

「さすがだな」

その言葉にトルクが嫌そうな顔をする。

「こんなことで誉めるな」

「トルク、さては君も誰かに言ったことあるのかい」

アルマークが尋ねると、トルクは少し顔を赤らめた。

「ねえよ」

「ないのか。ならどうしてそんなことを知ってるんだい」

「うるせえな」

トルクは顔をしかめた。

「とにかくそういうもんなんだよ」

「ふうん」

アルマークは頷く。

「そうなのか。でも参考になったよ。ありがとう」

「おう。もういいか」

うんざりした顔のトルクに、アルマークは、いや、と首を振る。

「すまないけど、もう一つだけ教えてくれないか」

「なんだよ」

トルクがあからさまに面倒臭そうな顔をするが、アルマークは構わず自分が一番気になっている質問をトルクにぶつける。

「ウェンディは、どうして三日前から急に冷たくなったんだろう」

「そんなもん俺が知るかよ」

トルクは呆れた顔をした。

「心当たりがねえのかよ」

「それが、分からないんだ」

アルマークは情けない顔をする。

「どれも原因のような、原因でないような。考えるとどんどん分からなくなる」

トルクはため息をついて首を振った。

「お前らは何のためにいつも一緒にいたんだよ」

「何のためにって」

「そういうことが黙ってても分かるようにじゃねえのか」

その言葉にアルマークは、はっとする。

「……確かにそうだね」

アルマークは頷いた。

「君の言うとおりだ。僕はウェンディとあんなに一緒にいたのに、まだあの子のことが何も分かってなかったんだな」

「おう、その通りだ。ざまあみろ」

トルクは嬉しそうに頷いた。

「それが分かっただけでも良かったじゃねえか。自分がまだあいつのことを何も分かってねえぼんくらだったってよ」

トルクは笑って、ドアに手を掛ける。

「さすがにもう行かねえと飯がなくなる」

「僕も行くよ」

アルマークも立ち上がった。

しかし、ドアノブを持ったまま、トルクが動きを止めた。

「どうした、トルク」

アルマークが尋ねる。

「夕飯が片付けられちゃうぞ」

「……ちょっと待てよ」

トルクが急に振り向いた。

「お前さっき、ウェンディの態度が変わったのは三日前って言ってたよな」

「うん」

アルマークは頷く。

「ほら、劇の練習中にネルソンとノリシュがぶつかって教室を出ていった、その次の日からだ」

「……やっぱりか。となると」

トルクの目が険しくなった。

「原因はあれか」