軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

誓い

「当たった」

アルマークが言いながらレイピアを高々と掲げて飛びずさると、見ていたクラスメイト達から、わっと歓声が上がった。モーゲンが大きな声で「アルマークの勝ちだ!!」と叫ぶ。

「ちがうちがう!!」

トルクは顔を真っ赤にして叫んだ。

「あんなの当たったうちに入らねえ!」

「往生際が悪いわね」

レイラが呆れたように言うが、トルクは首を振る。

「うるせえ! とにかく俺は認めねえ!!」

アルマークはちらりとボーエンを見た。ありがたいことに、まだ静観の構えだ。

よし。

アルマークはトルクに声を掛ける。

「いいよ、トルク。もう一回やっても」

「当たり前だ!」

構えようとするトルクになおも言葉を続ける。

「でも条件がある」

「あ? 条件?」

目を剥くトルクに、アルマークは続けた。

「賭けをしよう」

「賭けだと?」

「君に負けたら、僕は君の言うとおりこの学院を去る」

その言葉にウェンディが、はっと息を呑んだ。

「でも、もし僕が勝ったら……」

アルマークはまっすぐにトルクを見た。

「この学院の中で、貴族とか平民とか、そんなことで学生を二度と差別するな」

見ていたクラスメイトたちが一斉にざわめいた。ウェンディが両手で口を押さえて小さく首を横に振るのが見えた。

「ふざけんな、そんな賭け誰が」

言いかけたトルクに言葉を被せる。

「怖いのか、トルク」

トルクが目を剥く。

「怖いのか、僕に負けるのが」

トルクの顔が真っ赤に染まった。

「いいだろう。おもしれえ! やってやるよ! お前の気に入らねえ面を見るのも今日で最後だ!」

トルクは獣のように吼えた。

「よし。交渉成立だ。始めよう」

言いざま、アルマークは背筋を伸ばし、レイピアの切っ先をトルクに向けた。トルクも慌てて飛びずさり間合いをとる。

「ぶっ殺してやる」

レイピアを自分の前でぐるぐると振り回す。しかし、その言葉、態度とは裏腹に、トルクは慎重だった。じりじりとアルマークの周りをまわり、さっきまでのように迂闊に飛び込んでこない。

一方アルマークは、常にトルクと正対する位置を保ちながら、切っ先をぴたりとトルクに向けている。大柄なトルクが小柄なアルマークの周りをじりじりとまわる、不思議な光景となった。

「この……」

トルクがアルマークの周りを三周もまわり、その隙のなさに歯噛みしたときだった。

ごく自然に、アルマークが一歩踏み出した。

向かい合っているトルクすら戸惑うほど、敵意も気負いもない自然な一歩。そしてその体勢から、レイピアをまっすぐトルクの胸に突き出した。

その突きも、力を込めたようにはまったく見えなかった。

だがその瞬間、どん、という大きな音とともに、トルクの大きな体は宙を舞い、壁際近くまで吹き飛んでいた。

「がはっ」

床に叩きつけられ、あえぐトルク。歩み寄ったアルマークがその胸ぐらを掴んで上半身を引き起こす。

「僕の勝ちだ、トルク」

アルマークはトルクに顔を近づけて、静かに言った。

「誓え。今ここで。貴族とか平民とか、そんなことでクラスメイトを差別しないと」

すさまじい形相で歯を食い縛り返事をしないトルク。その胸ぐらを揺さぶり、アルマークは言葉を叩きつけた。

「誓え! トルク! お前の姓に! シーフェイの名に懸けて! もう二度と侮辱はしないと!!」

トルクはしばらくうなり声をあげて沈黙したあと、絞り出すようにして言った。

「……誓う」

アルマークがトルクの胸元から手を離すと、わっ、と背後で歓声が上がった。振り返るとクラスメイト達が駆け寄ってきていた。

興奮状態で「すげえ! すげえ!」と連呼するネルソン。

「飛んだ! トルクが飛んだ!」と叫ぶモーゲン。

「武術やってたの?」「なんでそんなに強いの?」ほかのクラスメイトも口々にアルマークに尋ねてくる。

その一番後ろにウェンディはいた。真っ赤に潤んだ目で、アルマークを見つめてくる。

「……無茶なことを……」

ウェンディはやっと絞り出した。

「お礼するって、言ったじゃないか」

アルマークの言葉に、ウェンディは一生懸命笑顔を作った。明らかに無理をして作った笑顔だったが、アルマークには今まで見たどんな笑顔よりもきれいに見えた。

「……ありがとう、アルマーク」

そうか、僕はウェンディのその言葉が聞きたかったんだ。アルマークはウェンディの顔を見ながらそう思った。