軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

卑劣

アルマークはみんなの視線のなかに一つだけ異質な、ひどく冷たい、殺気だった視線を感じていた。

ウォリスだ。輪から離れ、じっとアルマークを見ている。

話したこともない優等生のクラス委員に、なぜここまで敵意を向けられなければならないのか。アルマークには、全く心当たりはなかった。

「よし、そこまでだ」

黙って成り行きを見守っていたボーエンがようやく入ってきた。

「トルク、アルマーク、授業を決闘の場にするな。トルク、怪我はないな」

トルクは黙って頷く。ボーエンはみんなに向かってよく通る声を張り上げた。

「みんなも聞け。今でこそ教養の一科目でしかないが、かつて戦乱の時代、武術は何よりも重要視されていた。文字が読めることよりも剣の腕がたつことのほうが重要だった時代があった」

ま、そんな昔、俺もまだ生まれちゃいないがな、とボーエンは付け加える。

「武術はダンスではない。その本質は、相手をいかに巧みに傷つけ、速やかに死に至らしむるかにある。いくら時代が戦乱と乖離しようとそれは変わらない」

さっきまでの喧騒が嘘のように、皆、静まり返ってボーエンの言葉を聞く。

ボーエンはトルクを見た。

「だから、稽古の際に相手を倒してやろうという気概を持つことは間違いではない。むしろその気概なくして武術は成立しないとさえ言える。ゆえにトルク、君のその気概は正しい」

思いがけず誉められて、トルクはばつの悪そうな顔をした。ボーエンは続ける。

「しかし君はその気概の中に憎しみを込めた。戦いと憎しみは同義ではない。武術は互いに相手を倒そうと全力を尽くすが、そこには相手への敬意がなければならない。トルク、君に足りないのは相手を尊重する心だ。それがなければ武術にせよ魔術にせよ、うわべだけの技術に終始し、決してその本質に迫ることなどできはしない。猛省せよ」

「……はい」

トルクはうつむいた。

「さて、アルマーク」

ボーエンに呼び掛けられて、アルマークは顔をあげた。

「君はトルクを嵌めたな」

「……はい」

アルマークは素直に頷いた。

「君とトルクとの間に何があったのか、俺は知らん。だが、君は実力が遥かに劣る相手に対して罠を張り、挑発し、自分の望むものを得ようとした。それを卑劣と呼ぶ」

ボーエンは厳しい目でアルマークを見据えた。

「同級生を罠に嵌め、辱しめる卑劣さは言語道断。猛省せよ」

「……はい」

アルマークの返事を聞くと、ボーエンはふっと表情を和らげた。

「だが、何事にも動機、目的というものがある。アルマーク、君のあの啖呵はよかった」

意外な言葉にアルマークはボーエンを見た。

「君の言うとおりだ。この学院で、貴族がどうだ平民がどうだ、そんな下らんことを言うやつは俺も許さん」

ボーエンは皆の顔をぐるりと見回した後で、アルマークに視線を戻す。

「君は今回、手段を間違えたがその目的は正しかった。よってその卑劣を今回に限り許そう」

「……ありがとうございます」

アルマークが頭を下げると、ボーエンはにやりと笑って付け加えた。

「だが、俺が一番許せんのは君がわざわざ滅多にない俺の授業を舞台に選んだことだ。君たちのクラスの揉め事は君たちの担任のフィーア先生の授業ででも解決しろ。これが一番罪深い。よって、アルマーク、君には今年一年間、武術の授業の片付け当番を命ずる」

授業が終わり、アルマークがさっそく片付け当番の最初の仕事を始めると、何も言わずにウェンディが手伝い始めた。モーゲンやネルソンもそれに倣う。

「おいおい、みんなで手伝ったら罰にならんだろうが」

苦笑いしながらそれを見ていたボーエンが不意に厳しい顔付きになり、アルマークに体を寄せて囁いた。

「アルマーク、今日の放課後、学院長室へ行け」