軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

練習が始まった。

アルマークは練習のためにみんなが持ってきた剣を見て、驚いた。自分の部屋にあるような幅広の剣を想像していたのだが、実際には刃を落とした細いレイピアのようなものだった。そしてその使用法は、突く、に限られているようだ。

使ったことがないな、とアルマークは思った。

実戦ではこの剣を選択することはないだろう。

細い刃身は重武装の敵の鎧の隙間にねじ込むには都合がいいが、いかんせん細すぎる。あれでは敵の斧や槍の攻撃を受け止めるだけで折れてしまいかねない。

これまでいろいろな得物を持つ傭兵と戦ってきたが、こんな細い剣を使っている者はいなかった。

そこまで考えてから、実戦、なんてものを想定しているのが自分だけだと気付いて苦笑いした。

そうだ、こちらでは実戦なんてもう百年もないんだった。剣術といっても教養の一つでしかないんだ。

しばらく素振りをした後で、二人一組に分かれて、なめし革の防具を着けて試合稽古が始まった。

剣の先は柔らかい樹脂で包まれており、当たっても怪我はしないようになってはいるが、みんな意外に激しく打ち合う。

その中でひときわ優雅な動きを見せているのがウォリスだ。誰を相手にしても、本気を出しているようには見えないが、簡単に勝ってしまう。確かに武術に関しても別格のようだ。

モーゲンは自分の言葉通り、あまりこちらの才能はないようだった。防具を着けていても腰が引けているのがわかる。運動神経がどうというより、闘争心に欠けるのだろう、逃げ回ってばかりだ。

ネルソンは逆に運動神経がいいらしく、なかなかいい動きを見せている。父親が騎士の従者だと言っていたから、剣についてはこだわりがあるのかもしれない。

トルクは取り巻きの少年たちを相手に打ち合っている。なるほど、自信があるだけあっていい打ち込みをしている。パワーだけならウォリスより上かもしれない。

女子の方は、と目を転じると、ほとんどの子がへっぴり腰でちょこちょこ突き合い、まるでお遊戯のようだ。しかしその中で一組だけ、男子顔負けの動きをしている組があった。

ウェンディとレイラだ。

二人とも貴族だからほかの者よりも早く訓練を受けていたのかもしれないが、それにしてもいい動きをする。

アルマークが感心しながら見守る中、二人は白熱した攻防を続けたが、ついに最後はレイラの突きがウェンディの胸を捉えた。

試合を終え、二人は汗を拭きながら笑顔で話し合っている。互いに相手の力を認めあっているようだ。ウェンディはともかく、レイラがあんな表情を見せるとは意外だった。

そのとき、突然アルマークの目の前にレイピアが投げられた。

「取れ、新入り」

トルクだった。

いつの間にか取り巻きを従えてアルマークの前に立っていた。

「うちのクラスに弱いやつはいらねえんだ」

腰の引けた打ち合いをするモーゲンを見ながらトルクはせせら笑った。

「見てるだけじゃ退屈だろう。俺が相手になってやる」

「ボーエン先生に許しは得たのかい?」

アルマークが言うと、トルクは顎をしゃくってみせた。

「どうせ見ちゃいない」

見れば、ボーエンはほかの生徒の指導の真っ最中だ。熱心な指導者らしく、身ぶり手振りを交えて教えている。

アルマークは肩をすくめて剣を拾った。

思ったよりもずいぶん軽いが、材質は悪くない。そこまで力の加減はいらなそうだ。

「じゃ、せっかくだからお願いするよ。えーと、防具は……」

「ガレイン、お前のを貸してやれ」

トルクは後ろに突っ立っていた取り巻きの少年に命令した。その少年はにやりと笑って防具を脱ぐ。

汗臭いなめし革製の防具を身に着けてアルマークはトルクの前に立った。大柄なトルクの目の前に立つと、アルマークがひどく小柄に見える。

「お待たせ」

トルクは、アルマークの姿を上から下まで舐め回すようにして眺める。

「ふん、北の田舎者が。灯の魔法一つ満足に使えないやつが今さら何をしに来た」

トルクの言葉にアルマークは少し眉を上げる。

「ここはお前みたいな野蛮人の来るところじゃあない。さっさと国に帰って殺し合いでもしていろ」

言いざま、渾身の突きが腹目掛けて飛んできた。

アルマークがそれを造作もなく打ち落とす。

がきんっ、と大きな音が武術場全体に鳴り響いて、みんなが振り返った。

トルクは体勢を崩して体を泳がせ、二三歩たたらを踏んでから慌てて構え直した。

「このやろう」

額の右側に血管が浮き出ているのが見えた。

「とても貴族とは思えない下品な言葉遣いだね」

アルマークはどこまで挑発してやろうか、と内心値踏みした。

このタイミングを待っていた。絶対にトルクは突っかかってくる。無理矢理に付き合わされた振りをして、こちらの土俵に引きずり込む。昨日ウェンディの涙を見たときからそう決めていた。

トルクの背後を見ると、みんなが固唾を呑んで見守っていた。ウェンディに至っては真っ青な顔でこちらを見ている。教官のボーエンもこちらを見ているが、制止しようという気配はない。学院長から何か言われているのかもしれない。

「一度避けたくらいでいい気になるなよ」

とトルク。心配そうなウェンディと一瞬目が合う。大丈夫だよウェンディ。心配はいらない。受けた恩義は返す。

レイラは、ウェンディとは対照的に冷たい表情だ。

もう一人、クラス委員のウォリスがぞっとするほど冷たい目をしてアルマークを見ている。

あいつ、何者だろう。アルマークは思った。雰囲気からして、たぶん貴族の中でも相当の高位……しかし、あの目は……まるで歴戦の傭兵の目だ。

「ぶっ殺してやる」

トルクの言葉に、アルマークは初めて薄く笑った。

「怖いこと言うなぁ。君、本当は傭兵なんじゃないの?」

トルクの顔が怒りで赤く染まった。この辺までかな。アルマークは思った。挑発はこれくらいでいい。

「下郎っ」

学院の生徒とは思えない言葉を吐いて、トルクが渾身の突きを繰り出した。今度は顔面を狙っている。防具もない、剥き出しの場所だ。アルマークは首をわずかにひねってそれをかわす。見ていた女生徒たちから悲鳴が上がる。一度ならず二度までも渾身の突きをかわされ、トルクは逆上した。顔、喉、胸、とアルマークを殺しかねない勢いで突きまくるが、アルマークはまるで幻でもあるかのように体にかすらせもしない。やがてトルクも息が切れてきた。

「卑怯者が、ちょろちょろと逃げ回りやがって……」

トルクが悔し紛れの悪態をついたそのとき、アルマークが不意に体を沈めた。かと思うと、ぽん、と軽い音を立てて彼のレイピアがトルクの防具の胸に当たっていた。