軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルルの泉

翌日の朝、アルマークは校舎に行く途中でたまたま一緒になったレイドーに、泉の洞穴について聞いてみることにした。

「泉の洞穴?」

レイドーがきょとんとする。

「うん。中等部が魔術の訓練に使うとか」

「ああ」

レイドーが思い当たったように頷く。

「君の言ってるのは、ルルの泉のほとりの洞穴のことか」

「ルルの泉?」

「うん」

レイドーは頷く。

「森の奥にあるきれいな泉だよ。そこのほとりに洞穴があるんだ」

「試練の洞穴って呼ばれてるとか」

「らしいね」

レイドーは笑顔で頷く。

「洞穴の内部が先生たちによっていろいろと魔法で加工されてるらしいんだ。地下五層か六層くらいになっていて、中等部の卒業までに一番下までたどり着くのが目標だとか」

「へえ。中に魔物がいたりするのかい」

「魔物はいないんじゃないかな」

レイドーは首をかしげる。

「でも魔法の罠とか仕掛けみたいなものがたくさんあって、適切な魔法を使わないと先に進めないらしい。中には怪我をするような危険なものもあるらしいよ。しかも洞穴の通路に魔法がかけられていて、毎回足を踏み入れるごとに構造が違うんだってさ」

「すごいね」

アルマークは目を輝かせる。

「僕らも入れるのかい」

「僕らはまだ無理じゃないかな」

レイドーは首を振った。

「ルルの泉は森のかなり奥だからね。初等部の立入禁止地域だ」

「あ、そうなのかい」

立入禁止地域なんてものが森にあったのか。

アルマークは意外に思った。

ジャラノンがエルドをさらった事件のあと、一時的に森が立入禁止になったのは覚えているが、初等部に立入禁止地域が指定されているのは知らなかった。

確か、一時的な立入禁止が解除されたときも、あまり森の奥深くへ立ち入らないこと、と指示を受けただけだった気がする。

「そんなものがあるって知らなかったよ」

「僕らは入学してすぐに指示を受けたからね」

レイドーはそう言って笑った。

「アルマークが知らないのも無理はないさ」

「どの辺から立入禁止なんだい」

アルマークの質問に、レイドーは少し考える。

「アルマークはそこまで森の奥に行ったことはなかったかな」

「うん」

アルマークは頷く。

毎日イルミスの補習があって、森の中をゆっくりと探索するような時間もなかった。

「森の奥に進んでいくと、途中の道に初等部立入禁止の立て札があるんだよ。僕らが入っていいのはそこまで」

それから、小さく笑って付け加える。

「まあ、三年生にもなるとほとんどの子は守ってないけどね」

「あ、そうなのかい」

「立て札の先にあるモーラの原っぱで匂いのいい花がよく摘めるんだ。だから女子はよくそこに行くし、その近くのググの水場では大きな魚が釣れるから男子が行く」

「へえ」

そういえば、ウェンディの部屋を訪ねたときに、いい匂いがすると思ったら、入ってすぐのところに花が挿してあったのを思い出した。

もしかしたら、あれもモーラの原っぱで採ってきたものかもしれない。

「先生にばれたら叱られるし、中等部の学生に出くわすと追い払われるから、みんなそんなにちょくちょくは行かないけどね。まあ中等部も勉強が忙しいせいで初等部ほど森には来ないから」

「なるほど」

「でも君の言うルルの泉は、モーラの原っぱやググの水場よりもずっと奥だから、僕も一回しか行ったことはないな。わざわざあんなところまで行く子はいないんじゃないかな」

「そんなに遠いのかい」

「初等部の校舎からだと、放課後すぐに出ても、着く頃には夕方になるよ。それからすぐに帰っても寮に着く頃には真っ暗だ。中等部の校舎からは割と近いんだけどね」

「ああ、そうなんだ」

アルマークは考えた。

そんなところに、レイラが一人で行くとしたら、授業のある平日ではなくて、休日ではないだろうか。

もしかしたら昨日も、僕がコルエンと戦っている頃、洞穴に潜っていたのかもしれない。

「興味があるなら、連れていこうか」

そんなアルマークの様子を見て、レイドーがそう提案する。

「今度、君が都合のいい日の放課後にでも。いつもはイルミス先生の補習があるんだろ?」

「うん」

アルマークは頷く。

そういえば、イルミス先生も明後日は用事があると言っていた。

「それじゃ、明後日連れていってくれないか? ちょうど補習がないんだ」

「いいとも」

レイドーは快諾した。

「ありがとう」

「いいさ。魔術祭の台本があがってくるまで、放課後そんなにやることもないだろうし」

レイドーの言葉に、アルマークも魔術祭の劇のことを思い出す。

「ああ、キュリメの台本か」

アルマークは笑顔でレイドーに言う。

「どんな劇になるか楽しみだね」

「そうだね。楽しみ半分、怖さ半分ってところかな」

レイドーもそう言って笑う。

「でもレイドー、君ならどんな役になってもこなしてしまいそうだ」

「ははは、買いかぶりだよ」

レイドーは爽やかに笑う。

校舎が近付いてきた。

「でも、なんで泉の洞穴に興味があるんだい」

ふと、レイドーが話を戻す。

「誰かに聞いたのかい」

「うん」

アルマークは曖昧に頷いた。

レイラの話はまだしない方がいいように思えた。

「ちょっと、そんな洞穴があるって噂話を聞いたものだから」

「そうか」

レイドーはさらりと頷く。

「明後日、入口までは案内するよ。まあ僕も入ったことはないから、中までは案内できないけどね」

「入るつもりはないよ」

アルマークは慌てて手を振った。

「入るのは絶対にダメだよ。そうしたら僕も止めるからね」

レイドーも穏やかにそう言った。