軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「よし、帰るか」

すっかり満足したコルエンが、ポロイスの肩を叩いた。

「今日は三人で一勝一敗一引き分けだな」

「まあそういう言い方もできるかな」

アルマークは複雑な顔で頷いた。

「差し引きゼロか」

そう言ってポロイスも頷く。

「つまり、やらなくても一緒だったということか」

「その理屈はおかしい」

コルエンが笑いながら首を振る。

「勝敗よりも大事なものがある。な、アルマーク」

「ああ。そうだね」

アルマークは頷いた。

命の奪い合いではないこの学院の勝負で、負けても失うものなど何もない。

「じゃあ、僕はこれで」

アルマークがそう言って歩き出そうとすると、

「待て、アルマーク」

と、コルエンが呼び止めてきた。

「まだ約束の話をしてねえ」

「ああ……」

アルマークは頷いた。

もうすっかり忘れていた。

「そういえばそんなことも言っていたね」

「約束?」

ポロイスが怪訝な顔をする。

「コルエン、何の話だ」

「俺たち二人の話だ」

コルエンは手で制した。

「個人的な話さ。ちょっと二人で話がしたい」

「それは構わんが」

ポロイスは空を見上げた。

「もう雨が降りそうだぞ」

ポロイスの言葉通り、決闘の開始前から空を覆っていた雲の色がさらに濃さを増していた。

「ほんとだな」

コルエンが顔をしかめる。

「ポロイス、雨が降る前に先に帰っていいぞ」

「君らはまだ残るんだろ」

そう言ってポロイスは二人から離れると、草の上に大の字になった。

「僕はここで休んでいる。五本も勝負をして疲れたからな。終わったら教えろ」

「あいよ」

コルエンは軽い調子で答えると、アルマークに向き直った。

「決闘をぶっ壊したとはいえ、最後まで付き合ってくれたからな。俺の知ってる話をするぜ」

「いったい、何の話だい」

アルマークは眉をひそめた。

「僕の知りたいことって言ってたけど」

「そりゃお前、もちろん」

コルエンは意味ありげに笑う。

「お前のガールフレンドの話さ」

「僕のガールフレンド」

「仲良さげだったじゃねえか」

コルエンはアルマークの肩を叩いてから、自分で痛みに顔をしかめて腹をさする。

「いてえ」

それから、アルマークを見てまた笑う。

「この間の休日に、お前らが二人でいるところを偶然見ちまったんだよ」

「ああ」

アルマークは頷いた。

確かに前回の休日は、ウェンディと二人で街を見て回った。

その時に、誰かに見られていてもおかしくはない。

「見てたのか」

「たまたまな。2組は飛び魚亭で祝勝会やったんだろ。俺たち3組も別の店で残念会をやったからな」

「そうなのか」

「結局、うちは二戦とも負けたからさ。でも会には珍しく平民の連中もたくさん来て、ルクスは喜んでたな」

コルエンは3組のクラス委員の名前を挙げる。

「ほら、うちのクラスはお前らほど全員が仲良くないからよ。試合に勝ったルゴンは元気だったな。負けたポロイスやエストンは渋い顔してたっけな。あ、俺も負けたか」

そう言って思い出し笑いをする。

「まあ、そんなわけで、仲良く並んでるお前ら二人を見かけたんだ。でもあの子、武術大会の後くらいからだいぶ悩んでるみたいだな」

「え、そうなのかい」

アルマークは驚く。

僕の前では、そんな素振りは見せなかった。

「気付かなかった」

「え」

「僕には元気に見えたけど」

「おいおい」

コルエンは笑う。

「そっちの方面は俺も鈍いって言われるけど、お前もたいがいだな」

「うん。僕は、女の子の気持ちとかあまりよく分からないんだ」

アルマークは素直に認めた。

「でも、そういえば」

確かに、エメリアとの試合の後、ウェンディは涙ぐんでいた。

アルマークは急にウェンディのことが心配でたまらなくなった。

「何を悩んでるんだろう」

「そこまで、俺が知るかよ」

コルエンは苦笑いする。

「まあ、それでただ悩んでるだけならいいんだけどよ」

コルエンは、ちらりとポロイスの方を見てから、声をひそめた。

「彼女、おかしなところに出入りしてるみたいだな」

「おかしなところ」

アルマークは繰り返す。

「というと」

「泉の洞穴」

コルエンは、囁くように言った。

「それは……?」

アルマークが合点のいかない顔をすると、コルエンは、ああ、と頷く。

「悪い悪い、そうだったな、転入生。泉の洞穴ってのは、森の奥の泉のほとりにある、別名、試練の洞穴なんて呼ばれてる洞窟だ」

試練の洞穴。

アルマークは顔をしかめた。

不穏な響きだ。

「中等部の学生が、魔術の訓練のために入る場所だ。中にはいろんな魔術の仕掛けや罠が隠されているらしい。さすがに命を落とすようなものはないって話だが」

「この森に、そんなところが」

アルマークは目を見張った。

まだまだ、学院には知らないことばかりだ。

「中等部の学生でも、数人で組んで入るような場所だ」

コルエンはそう言って顔をしかめる。

「なのに、彼女は一人で入ってるみたいだ」

「たった一人で」

アルマークは、ウェンディが一人で暗い洞穴を下りていく光景を想像して、うつむいた。

心配すぎる。

「俺が聞いたのもあくまで噂だけどな。ただ、その話が本当なら、仮に何回かは無事に帰ってこれたとしても、いつ大怪我してもおかしくないぜ。彼女にも事情はあるんだろうが、ボーイフレンドのお前が止めるのが一番だろうと思ってな」

「うん」

アルマークは頷いた。

何の事情があるのだろう。

僕の話を聞いてくれるだろうか。

「分かった。ありがとう。直接聞いてみるよ」

その時、アルマークの頭に、ぽつり、と水滴が落ちてきた。

「ほら、雨だ」

大の字になっていたポロイスが声をあげて跳ね起きる。

「何の話をしてるのか知らないが、その辺にしておけ。本降りになる前に帰るぞ」

「分かったよ」

コルエンはポロイスに叫び返すと、もう一度アルマークに笑いかけて、肩を叩いた。

「それじゃ、俺の話はこれだけだ。頑張れよ」

慌ただしくそう言うと、剣を拾って歩き出す。

ぽつり、ぽつり、少しずつ雨粒の数が増えてくる。

「頼んだぜ、レイラのこと」

「え?」

最後のコルエンの言葉に、アルマークは思わず尋ね返した。

「なんだって? 誰だって?」

「だから、お前のガールフレンドだよ。一緒に並んで海なんか見てたじゃねえか」

コルエンはそう言って親指を立てると、足早に歩き去っていく。

「濡れちまう、急ぐぞ、ポロイス」

「だから早く帰ろうって言ったんだ」

そんな二人を呆然と見送り、アルマークはしばらく動けないでいた。

雨足が徐々に強まってきた。