軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仲間

アルマークは、このことをウェンディとモーゲンには話そうと決めた。

今回の件で心配をかけてしまった二人だ。

寮に戻ると、まずモーゲンの部屋を訪ね、お菓子で頬をリスのように膨らませていたモーゲンを、大事な話があるから、と言って連れ出す。

ウェンディの部屋に行くと、ルームメイトのカラーが顔を出し、アルマークの顔を見て、あら、と言った。

「アルマーク。武術大会かっこよかったわよ」

そう言ってから、意味ありげに含み笑いをする。

「分かってる分かってる。ウェンディでしょ」

アルマークが何か答える前にカラーは部屋の中を振り返り、

「ウェンディ。男子が訪ねてきてるわよ」

と声を掛ける。

「えっ、男子?」

怪訝な顔で出てきたウェンディの顔が、アルマークを見て、ぱっと輝く。

「あっ、アルマーク」

「僕もいるよ」

横からモーゲンが顔を覗かせる。

「モーゲンも。どうしたの、二人とも」

「ちょっと話があるんだ」

アルマークが言うと、奥にいたカラーが興味津々な顔で駆け寄ってくる。

「えっ、なになに? もしかして」

「カラー、やめて。そういうのじゃないから」

ウェンディが慌ててカラーを室内に押し戻して、部屋から出てドアを閉める。

「えっと、話って?」

少し赤い顔でそう聞いてくるウェンディを、やっぱりかわいいな、などと思いながらアルマークは、

「ここじゃちょっと話しづらいから」

と言って、寮の談話室に連れ出す。

談話室の隅の、周りに誰もいないテーブルに陣取り、アルマークは今日学院長から聞いた話を、自分に話せる範囲で二人にする。

話し始めると、最初は笑顔だったウェンディの顔がみるみる曇り、最後には今にも泣き出しそうな表情に変わっていた。

モーゲンは途中から口を半分開けてぽかんとした顔で聞いていたが、聞き終わると

「君の言う、そのなんとかの杖ってあのマイアさんのくれた棒っきれだよね? ネルソンとよくチャンバラするのに使ってた」

と唖然とした表情で確かめてくる。

「うん。あの棒だ。僕もまさかあの棒にそんなすごい力があるとは思わなかった」

アルマークは頷く。

「あの棒が、伝説の魔法具だったなんて……とても信じられないけど」

モーゲンもそう言って首を振る。

「でも、それを奪いにそんなやつらが来たってことは、本当なんだろうね」

「ああ」

「試合で君の様子が変だとは思ってたんだ。そんなことがあったとは思わなかったけど」

「実は、そうなんだ。黙っていてごめん」

「それじゃあアルマークは」

ウェンディがか細い声で二人の会話に口を挟む。

「この十日間くらいで二回も死にそうな目に遭ったっていうこと?」

「ああ、言われてみれば」

アルマークは頷く。

「そういうことになるかな」

ウェンディの顔が険しくなる。

「それで学院長先生は、まだそんな危険がたくさん来るって言ってるの?」

「うん。たくさんって言うか、この右手に蛇があと三匹いるらしいから少なくとも三つくらいは」

「許せない」

そう言ってウェンディが机を叩いて立ち上がった。

ばん、という大きな音に、離れた席に座っていた他のグループの学生たちがちらりと三人を見る。

「私、学院長先生に抗議してくる」

「え、ちょっとウェンディ」

意外な言葉にアルマークも慌てて立ち上がる。

「だってそんな危ないものを生徒に押し付けて、実際にアルマークが何回も危険な目に遭って。まだこれからも危険な目に遭うよって言ってるんでしょ? アルマークのこと何だと思ってるの? 本当に許せない。アルマーク、そんな棒、先生に返しに行こう」

そう言ってアルマークの腕をとる。

「ま、待って。ウェンディ、落ち着いて」

アルマークはウェンディを引き留めて、一旦椅子に座らせる。

「君の気持ちは嬉しいけど、僕の考えを聞いてくれ」

「アルマークの……?」

ウェンディは不承不承、椅子に座り直す。

アルマークは二人を交互に見ながら、あらかじめ用意していた話を始める。

「僕は、今回のことをいい機会だと思ってるんだ」

アルマークの言葉に、ウェンディが顔をしかめる。

「いい機会って」

「二人とも知っての通り、僕はこの学院に二年遅れで来た。だから三年生なのに習った魔法は二つだけだ」

アルマークは、霧の魔法と灯の魔法、と指を折る。

「初等部卒業までにみんなに形だけでも追い付くには、イルミス先生の補習だけじゃとても足りない。自分を鍛えるには、厳しい試練も乗り越える必要があると思っていた。だから今回の件は僕にとっては願ったり叶ったりなんだ」

「だからって」

ウェンディが首を振る。

「闇の魔獣とか蛇の呪いとか、そんなの試練の限度を超えてるよ」

「ウェンディの心配も分かる。ありがとう」

アルマークは、頷く。

「でも、正直なところ僕は自分がマルスの杖に選ばれたってことが嬉しいんだ。僕がそんな伝説の魔法具の所有者だと認められたってことが」

「それは……」

ウェンディが複雑な顔をする。

「それは、もちろんすごいことだけど」

「だから、立ち向かってみようと思う。自分を鍛えるためにも、みんなに追い付くためにも。僕がマルスの杖の所有者にふさわしい人間だと証明するためにも」

アルマークがそう言ってウェンディを見ると、ウェンディは困ったようにアルマークの顔を見つめ返した。

ややあって、ウェンディが頷いた。

「分かった。アルマークがそう言うなら」

「ありがとう」

アルマークがほっとしてそう言うと、ウェンディが予想もしていなかったことを口にした。

「それなら、私がアルマークを守る」

「え?」

意外な言葉にぽかんとするアルマークを、ウェンディはまっすぐに見つめて強く頷いた。

「今回みたいなことになって、もしもアルマークが死んじゃったら、絶対に嫌だもの。そうならないように、私がアルマークを守る」

「いや、ちょっと」

「闇の罠でも闇の魔術師でも、怪しいことがあったら絶対に私にも教えて」

ウェンディは戸惑うアルマークを尻目に力強く言い切る。

「もうアルマークを一人で危険な目になんて遭わせない」

違う。どうしてそうなるんだ。

アルマークは呆然とウェンディを見つめる。

僕は、君を守るために強くなる。そのために試練に立ち向かうと決めたのに。

その試練に君が付き合うんじゃ意味ないじゃないか。

モーゲン、なんとか言ってくれ。

アルマークはすがるようにモーゲンを見た。

「ああ、それなら僕も付き合うよ。怖いけど」

しかし頼みのモーゲンもそんなことを言っている。

何言ってるんだモーゲン、君もウォードさんと約束したじゃないか。ウェンディを守るって。

アルマークの困惑をよそに、ウェンディはアルマークの右手を取った。

「呪いなんかに負けないでね。私がついてるから」

「僕も」

「あ、ありがとう」

「一緒に戦いましょう」

ウェンディのまっすぐな言葉に、アルマークは頷くしかなかった。