軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルマークチーム

武術場の外で、周囲に気遣わしげな視線を向けていたモーゲンの顔がぱっと輝いた。

「あっ、来たよ! 来た来た、アルマークだ!」

その声に、アルマークを探しに出ていたネルソンたちがモーゲンのもとに駆け寄る。

「あ、ほんとだ! アルマークの野郎、のんびり歩いてやがる!」

ネルソンが叫んで、アルマークに大きく手を振る。

「アルマーク、急げよ! もうすぐ試合が始まるぞ!」

その声に、アルマークは大きく手を振り返して、それでもゆっくりとした足取りでみんなの前にやって来た。

「ごめん、みんな。遅くなった」

「どこ行ってたんだよ」

ネルソンが腕を組んでアルマークを睨む。

「リーダーがいなきゃ始まらねえんだぞ」

「そうだよ。試合の順番もまだ聞いてないしね」

とレイドー。

「ごめんごめん」

「……何かあったの?」

モーゲンがアルマークの顔を覗き込んだ。

「顔色が悪い。いつものアルマークじゃない」

「いや、大丈夫」

アルマークはモーゲンに笑顔を見せる。

「緊張してるからかな」

「緊張? アルマークが?」

モーゲンが目を丸くする。

「お前が緊張? そりゃいいや」

ネルソンがアルマークの肩を乱暴に叩く。

「お前も人の子ってことだな、安心したぜ」

「ねえ、いつまでここにいる気なの」

レイラが苛立った声をあげた。

「迷子が見付かったのなら、さっさと控え室に行きましょう。もうそんなに時間はないのよ」

「そうだった。アルマーク、今あんまり芳しくない状況なんだ。作戦会議を開かねえと」

ネルソンが言う。

「そうなのか。みんな、ごめん」

アルマークはもう一度謝った。

五人は並んで控え室へと向かう。

2組の控え室では、試合を終えてくつろいだ様子のトルクチームが待っていた。

「おう、迷子のリーダーは見付かったのか」

トルクがにやにやと笑いながら、アルマークに声をかけてくる。

「リーダーが不戦敗ってのも悪くねえと思ったが」

「うるせえ、トルク。試合の終わった奴は黙ってろ」

アルマークの代わりにネルソンが言い返す。

「アルマーク、何かあったの?」

心配そうに近付いてきたウェンディが、アルマークの顔を覗き込む。

「顔が真っ白。それになんだかいつものアルマークじゃないみたい」

「いや、大丈夫」

「こいつ緊張してるんだってさ」

「え、アルマークが緊張?」

ネルソンの言葉に、ウェンディがモーゲンと同じ反応を示す。

「うん、そうなんだ」

アルマークが頷くと、ウェンディは一瞬アルマークの目を見て何か言いたそうな顔をしたが、すぐにその表情を引っ込めて笑顔を作った。

「アルマークなら大丈夫だよ。頑張って」

「ありがとう」

「さ、始めましょう。時間がもったいない」

レイラが手をぱん、と叩く。

「そうだな。アルマーク、さっきも言ったけど、状況はかなり厳しいぞ」

ネルソンが真剣な顔に戻って、アルマークに言う。

「3組は手強い」

「ってことは、さっきの試合も3組が勝ったのかい」

アルマークは驚く。

あのアインが負けたのか。

しかし、ネルソンは首を振った。

「その逆だよ。1組の4勝1敗。3組はクラス委員のルクスがなんとか一勝しただけだ」

「え?」

「アインは強かったぜ。あいつ、あんなに強かったかな。試合を見てトルクも黙っちまったからな」

ネルソンがトルクにちらりと目をやるが、聞こえているであろうトルクは知らん顔だ。

「……なるほど、そういうことか。分かったよ」

アルマークは頷いた。

「つまり、3組の連中は、僕たち2組との試合に強い奴をあらかた持ってきたってことだね。ネルソンの言ってた、コルエン、エストン、ポロイス、それに」

「ロズフィリア」

レイラが学年二位の才女の名前を口にする。

アルマークは頷く。

「みんな、2組との試合に出るってことだね」

「そういうことだ」

ネルソンが固い表情で頷く。

「こんな片寄った編成にするのは、間違いなくエストンたちの差し金だ。俺たち『平民組』を王太子の前でこてんぱんにする気なんだ」

「うん」

アルマークは頷く。

「エストンたちは、平民はこの学校に相応しくないってことを王太子の前で示すつもりなんだよ」

レイドーが眉をひそめて言う。

「うん」

「もう一人のルゴンって奴も結構強いんだ。本当に隙のない布陣なんだよ」

とモーゲンも不安そうに言う。

「うん」

「うん、うんって、あなた頷いてばかりね。何か言うことはないの」

「うん、あるよ」

アルマークはレイラの言葉に頷いてから、四人の顔を見回す。

「最高じゃないか」

「え?」

ネルソンが間の抜けた声を出す。

「何が?」

「僕はずっと心配だったんだ。もしもエストンやポロイスが1組との試合に出てしまったらどうしようって」

呆気にとられるネルソンたちを前に、アルマークは笑う。

「一番強いコルエンもこっちに出るんだろ? それから学年二位のロズフィリア。誰と戦っても外れなしだ。最高じゃないか」

「アルマーク、君って」

モーゲンが首を振る。

「強いやつと戦いたいだけってこと?」

「強いやつに勝つから楽しいんじゃないか」

アルマークはモーゲンの肩を叩く。

「大丈夫。誰と戦っても僕たちが勝つよ。そのために練習したんだから」

アルマークは断言した。

「勝つ気満々で出てくるあいつらを、逆に王太子の前でこてんぱんにしてやろうじゃないか。僕らを舐めたらどうなるか、思い知らせてやろう」

「お前が言うと」

ネルソンがアルマークにつられたように笑う。

「そんな気になってくるから不思議だな」

「そうだね。やってやろうって気になってくる」

レイドーも笑顔になる。

「僕はまだそんな気にならないけどね。でも、アルマークがそう言うなら」

モーゲンの顔にはまだ笑顔はないが、それでも力強く頷く。

「僕はアルマークを信じる」

「私の相手は決まってる」

レイラは言った。

「私は私の試合に勝つだけ。あなたたちも自分の責任を果たしなさい」

その言葉に四人の顔がいっそう引き締まる。

そろそろ時間だ。

アルマークは、出場順を伝える。

「一番に僕。二番目がネルソンだ」

「よし」

ネルソンが力強く頷く。

「相手はエストンかポロイスがいいな。叩きのめしてやる」

「その意気だ」

アルマークは頷く。

「どっちが来ても君の方が強い」

「その言葉、信じるからな」

「もちろん」

頷いて、三番目が、とアルマークは続ける。

「レイラ。頼むね」

「ええ」

「次にレイドー」

「よし」

レイドーが頷く。

「最後が……」

「僕か」

モーゲンは、また緊張で青白い顔をしている。

「最後まで緊張が続くのか。嫌だな」

「大丈夫。君は強い」

アルマークはモーゲンに頷いてみせる。

「だから最後にしたんだ」

その時、選手の入場が告げられた。

「時間だ」

アルマークは先頭にたち、四人を振り返る。

「行こう」

「この試合に勝てば優勝だからな」

トルクが声をかけてくる。

「負けたら1組に内訳の勝利数で持ってかれるぞ」

「分かってる。大丈夫だ」

アルマークは頷く。

「アルマーク、頑張ってね」

ウェンディの声にアルマークは笑顔で応える。

「ありがとう」

「無理はしないでね。つらかったら無理はしないで」

意外な言葉に、アルマークは思わずウェンディの目を見返す。

ウェンディの心配そうな瞳と目が合う。

……そうか、なんとなく分かってくれるんだな。

アルマークは思った。

僕が、なんとなくウェンディのことが分かるように。

ウェンディにも、僕のことが。

きっと、お互いにいつも見ているから。

「僕なら大丈夫」

アルマークは、もう一度、ウェンディに力強く頷いてみせた。