軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話~周りを頼れ~

オトハ様をスバル様よりも人気者にする。特区に入りたいからと、かなり厳しいお願いを聞き入れてしまった。

そんな後悔にも似た感情が、休日明けの今になって押し寄せてきた。

「いや、今更か」

俺は思い直して、自分のパソコンに向き直る。作りかけだった客先説明用の資料作りに戻る。

そう、あれは仕方の無いこと。特区に入る方法は、きっと他には無いだろうから。

社長も言ってたけど、信用を得るには権力者から推薦を得るのが一番の近道。特にオトハ様の言い方だと、蘇芳家ってのはそれなりに力があるみたいだし…。

「蘇芳家…か」

俺は魔が差して、資料作りの傍らでWebサイトを立ち上げる。そこで、蘇芳家について調べようとした。

だが、

「ダメだ」

ヒットするのは、漫画やアニメのキャラクターばかり。蘇芳家は勿論のこと、オトハ様の情報すら見つからない。かなり後ろのページまで潜ってみたら、個人ブログや掲示板でちょいちょい話題に上がっている程度。

ここまで情報が無いのを見ると、蘇芳家はそこまで大きくない家なのかも知れない。もしくは、特区の情報が規制されているのか。

「まぁ、後者っぽいけどね」

試しにスバル様の情報とかも探ってみたが、同じような状況だった。特区からこちらの情報にアクセス出来ない様に、こちらから特区の情報を得るのも難しいらしい。

こうなったら…。

「まっちゃん。外にメシ食いに行かないか?」

昼休み。

俺は松本君に声を掛けて、会社の外へと連れ出す。そして…。

「蘇芳家、ですか?」

メシの席で、彼に聞いてみた。

「ああ。何か知ってる事はないか?大きな家だとか、何か事業をされているとか」

「そうですねぇ…」

オムライスの皿にスプーンを置き、難しそうに眉を寄せる松本君。腕を組みながら、ポツリ、ポツリと言葉を吐き出す。

「オトハ様がかなりのお嬢様かもって話は、聞いた事があります。慰問会で着ている服もブランド物でしたし、回答の内容もお嬢様っぽいと、彼女の掲示板で見た覚えがあります」

ああ、確かに。飼っている犬もシベリアンハスキーだったし、その気はある。

でも、松本君でも確かな事は分からないみたい。

なら、他の事を聞いてみるか。

「そのオトハ様についてなんだが、スバル様と何かあったか知らない?」

「あっ、それならちょっと聞いた事があります」

寄っていた眉が解放され、安心した様子で微笑む松本君。

「オトハ様は元々、慰問会に出られる前は特区で雑誌のモデルさんをされていたらしいんです。でも、それを辞めてしまい、慰問会に出る様になったとか」

「その辞めたキッカケに、スバル様が関わっているって事か?」

「確かじゃないですけど、オトハ様が慰問会に出始めた時期と、スバル様が慰問会に出なくなったタイミングが丁度重なるんで、何かあるんじゃないかって言われています」

ふむ。なるほど。

それだけ聞くと、スバル様とオトハ様が入れ替わる形でそれぞれの業界に入った様に聞こえる。

いや、そもそも。

「まっちゃん。慰問会ってなんなんだ?女性達は好んで出ている風じゃないけれど?」

「慰問会の頻度ってことですか?確か、その人の業種だとか立場によって、開く頻度が決められているんじゃないかって言われています。仕事をされていない方は毎週とか、自営業は年1回とか。高齢者や学生、大手企業の社員は免除とか」

なるほど。だから鈴木さん達は働いているのか。特区は男達から大量の物資を送られているのだから、働かなくても良い筈なのにと思っていた、だからきっと、彼女達は慰問会をやりたくないから働いているのかもしれない。

勿論、それだけじゃないだろうけど。

そうして、俺は昼休みに特区の内情を少しだけ知ることが出来た。そして、それが重要なのでは?とも思った。オトハ様のバックボーンを知る事で、彼女が何を求めているのかが分かる気がした。そしてそれが、最適解に至る道なんじゃないかと。

そこら辺、オトハ様は教えてくれなかったからね。この話をどうも、恥ずかしい物と思っている節があるみたいで。

なので、自ら調べなければならないのだが、 特区外(ここ) だとどうしても限界がある。

どうするべきか。

「おっ、これは…」

困っていると、福音が鳴る。

鈴木さんの着音だ。

『こんにちは、黒川さん』

「ああ、鈴木さん。良いところに」

『はい?良いところ…ですか?』

おっと、しまった。つい嬉しくて、口が滑った。

「いえ、なんでも。それより、何か困り事ですよね?どうしましたか?」

『はい。あの、実は…』

今回の依頼はなかなかに厄介な物で、WEB会議をする事となった。

でも、鈴木さんがしっかりとデータを纏めてくれたお陰で、それも何とか解決の目星が着いた。

『今抱えていた案件は以上です。黒川さん。今日もありがとうございました』

鈴木さんがホッとした笑顔を見せて、ペコリと頭を下げる。

時間にしたら1時間も経っていない。やっぱり、データがあると楽だ。何が起きているか、客観的に見ることが出来る。

だから…データを持ち出せない区長案件は、入区しなければどうしようもない。改めてそれが分かった。

「あっ、鈴木さん」

今にも退室しそうな彼女を呼び止めて、聞いてみる。

「実は俺も、鈴木さんに聞きたいことがありまして」

『えっ?私に、ですか?私なんかが、何か教えられるんでしょうか?』

謙虚だな、鈴木さん。俺が3年目の頃を思い出すよ。

「ええ。実は、蘇芳乙葉様と 勇菊(ゆうき) 朱春(すばる) 様の事について教えて欲しくて」

『……』

…あれ?

「鈴木さん?」

『…はい』

えっ?ちょっと声、低くない?なんか、怒ってるっぽいんだけど?

これは、このまま会話をしては不味いな。何故彼女が怒っているのかを考えないと。

考えられるとしたら、俺が他の女性の名前を出したから。

まさか、拗ねているとか?

いやいや、それは無いだろう。俺はオッサンで、彼女は美少女。しかも、この世界は女性が希少で選ばれた存在。些末な俺などに、彼女が気を向けるなんてあり得ん。

としたら、純粋にこの話が嫌なのかも。2人に対し、鈴木さんが良い印象を持っていないとか、何か因縁があるとか。

もしそうなら、止めた方が良いか?いやでも、入区出来るかがかかっているからなぁ。

何とか、頼み込むしかない。

「済まない、鈴木さん。でも、出来たら聞かせて欲しい。上手くいけば、入区出来るかもしれないんだ」

「えっ?入区?」

「ああ、そうなんだ」

俺は理由を話た。オトハ様と結んだ約束で、彼女の家が入区の後ろ盾になってくれるかもと言う事を。

そうすると、

『そう言う事、だったんですね』

彼女の声が、少し明るくなる。

『済みません、私、ちょっと勘違いしちゃって』

「勘違い?」

何を勘違い?

『いえ、あの、こっちのことなので、気にしないで下さい』

慌てて手を振る鈴木さん。

良く分からんが…誤解が解けて良かった。

『それで、蘇芳さんと勇菊さんの事でしたね。私も詳しくはないのですが…』

そう前置きした鈴木さんだったが、松本君でもあやふやだった部分を教えてくれた。

先ず蘇芳家についてだが、やはり大きなお家らしい。特区で商売をしており、服や化粧品なんかも取り扱っていて、女性なら誰でも知っている程の名家だと。

そんな立派なお家だが、オトハ様の立ち位置は微妙らしい。本家の三女である彼女だが、家督は姉達に譲り、オトハ様自身はネット配信者の道に進もうとしたらしい。

けれど、

『いつの間にか引退されて、あまり特区では聞かなくなってました。海外に出られたなんて噂も立つくらいで』

だが実際は、日本で慰問していたと。その頻度からして、何か事業をしている風ではない。

ある意味、ニート?

おっと、イカン。それは失礼だぞ。

「ありがとう、鈴木さん。良く分かったよ。勇菊様については、どうだろう?」

『ええっと…〈王子〉って名前で人気なのは知っているんですけど、私もあまり詳しくなくて。いつの間にかテレビとかでも見かけるようになった感じです』

そうか。鈴木さんはあまり、そう言うのに興味ないんだな。

って、何を安心しているんだ?俺は。

俺は雑念を捨てて、色々と教えてくれた鈴木さんに感謝を述べてから会議を終えた。

彼女達の背景が分かって来た。後は、どのようにしてスバル様を越えればいいかだ。特区で引っ張りダコの彼女に追いつく為に、俺が何を出来るのか…。

「おい、黒川」

悩みながら防音室を出ると、声を掛けられる。

見ると、支社長が部屋から顔を出して、俺を手招いていた。

「苦戦しているらしいな、お前。蘇芳家と渡りを付けようとしているんだろ?」

部屋に入ると、支社長が的確に言い当ててくる。

誰に聞いたのか…きっと、松本君だろう。

「ええ。ですが、どう切り込むべきかを考えあぐねていて…」

「そういう時はな、周りを頼れ」

えっ?

「ですが、これは俺個人の仕事ですし…」

「アホ。これは会社の案件だ。もっと言うと、JIEグループ全体のな。区長のご指示に組織全体で取り組む。それが会社であり、俺達社会人の存在意義だ。なぁ?みんなで協力しないでどうする?」

あぁ…そうか。俺はいつの間にか、殻に閉じこもって仕事していたんだな。報連相が大事なんて、1年目の頃から耳タコで言われていたのに、いつの間にか特区案件だからと抱え込んでしまった。

やっちまったな。

「ありがとうございます、支社長。ちょっと、周りが見えていませんでした」

「そんなに気負うな。私からしたら、お前はまだまだひよっ子なんだから。それで?具体的に、何を悩んでいるんだ?」

「ええ、はい。一番の悩みは…」

俺は心の内を吐き出す。オトハ様の人気を獲得するには、どうするべきなのか。そもそも、我々で特区の事情に踏み込めるのかなどを。

「ふむ。そうだな。お前の懸念する通り、我々で特区の事情に干渉するのは難しい」

「ですよね」

俺は肩を落とすが、支社長は「だが」と声を張る。

「特区の外なら思う存分、手を出す事が出来るぞ」

「外?」

それは、どう言う?

支社長の含み笑いに、俺は恐怖すら感じた。