軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26話〜下等な生き物なんだからさ〜

リリアリーナへと吸い込まれる客達は、いつにも増して重装備というか、気合が入っている印象を受けた。

そしてそれは、中に入るとより顕著となる。

「「「いぇえええい!!」」」

「「やふぅううう!!」」

まだ中央のメインステージは空っぽだと言うのに、観客達はペンライトを両手に握り持ち、ブンブンと空中で輪を描く。イベント開始の合図もまだなのに、熱いテンションで叫んでいる。

彼らのその思いは、俺でも良く分かる程。

「凄い盛り上がりだな、まっちゃん」

「今日は 朱春(すばる) 様の慰問会ですからね。彼女の声を聞きたい人達が押しかけて来ているんですよ」

「スバル?」

そう言えば、前にオトハ様の慰問会でもその名前が出たな。俺にも参加して欲しいって言われた気がするけど…。

「そのスバル様ってのは、結構人気なのか?」

「結構どころじゃないですよ。スバル様は今、特区で一番ホットなアイドル様です。だから、僕らも凄く楽しみにしていたんです。スバル様に会えるこの日を」

ほぉ。特区で一番人気のアーティストね。目の肥えた女性達にも受け入れられているってことは、それだけ実力を持っている証拠…ってことで、みんな期待しているのか。

みんなが浮かれる理由が判明したところで、空いていたメインステージに誰かが登場する。警察でも管理局員でもなく、派手な色の法被を着た男達だ。

「まっちゃん。また何か始まるみたいだぞ?」

「前座だと思います」

松本君の予想通りだった。

中央に躍り出たその漢達は、共に搬入された和太鼓を鳴らし、派手なパフォーマンスを披露する。ドンドンドンと重低音が腹底に響き、漢達の荒々しくも美しい動きが目を楽しませる。

見事な演奏。だが、終わった後に起こる拍手は、とても淡白な物だった。

スバル様を見に来たから、男はお呼びでないってこと?

気になったので、松本君に聞いてみた。

すると、

「良い演技ですけど、あまりに反応し過ぎると、後ろの局員に目を付けられてしまうので」

「後ろ?」

振り返ると、会場の壁際に白服の局員がズラリと並んでいた。彼らの鋭い目はステージではなく、俺達の方へと降り注いでいる。

「ああやって、危険な人が居ないかチェックしているんです。"男性の"パフォーマンスに過剰反応する人が居ないかって」

…つまり、同性愛者をチェックしているって事か?

確かにそういう目で見れば、さっきのパフォーマンスは少々過激だった。登場した人達は上半身裸だったし、妙に良い笑顔をこちらに振りまいていた。

そっち系の炙り出しと言う意味で見れば、ああ確かにと思えるが…なんでそんな事をするんだ?

「「「おぉお」」」

熱い漢達がステージから降りると、入れ替わるように局員がステージに立ち、天井から巨大モニターを下ろす。そして、1人の局員がこちらに向き直ってマイクを掲げる。

『静粛に!これから、 勇菊(ゆうき) 朱春(すばる) 様による慰問会を執り行う!全員、有難く拝聴する様に!』

「「おぉお…」」

『静まれ!!』

全員が口を噤んだのを確認してから、局員がモニターの電源を付ける。暫くブルー画面のままだったが、不意に画面が切り替わり、整った顔立ちの少女…少年?いや、美少女が現れた。

髪がベリーショートだったから、一瞬美少年かと思ってしまった。

『どーも。スバルっす〜』

「「おぉ…」」

『はぁ…』

「「「おぉお…」」」

ただため息を吐いただけなのに、周囲は大きな反応を返す。「美しい」とか「女神様だぁ」と、至る所で声が漏れる。

その反応に、スバル様は余計に不機嫌そうな顔になり、ツンと上を向いて口を曲げた。

…なんか、ちょっと嫌な感じだな。

『これより、ご質問をさせて頂く!質問がある者は黙って挙手せよ!』

恒例の質問タイムだ。みんな挙って手を挙げる。

のだが、

『す、スバル様は、サッカーが、お好き?』

『ノーコメ』

『う、う、歌が、お好き、ですよね?』

『…』

『ぬいぐるみが好きって…?』

『…』

一切こちらを見ず、短く言葉を吐き出す彼女。徐々に態度が硬化し、とうとう何も反応しなくなってしまった。耳にイヤホンを入れているから聞こえている筈だが…聞こえないフリか?態度が悪過ぎだろ。

集まっている人達も不安そうな顔をしている。段々と挙げる手が少なくなっていき、どう質問するかの作戦会議が至る所で始まってしまった。

局員が再び、マイクを構える。

『もう無いか!無いなら終了とする!』

「そうはさせませんよ」

頼もしい発言と共に、松本君が手を挙げる。マイクを渡されると、顔を赤らめながらも両足で立ち上がる。

『スバル様は、じぇ…JPOPがお好きと聞きました。どう、どうなんでしょうか?』

噛み噛みで声も裏返ったが、最後まで言い切った松本君。

だがそれにも、スバル様はだんまりを決め込む。松本君の頑張りに、見向きもしない。

おいおい、今のは立派な質問だろ?何故答えない?質問が来たら答えるのが慰問会じゃないのか?

俺は憤りを覚えた。松本君の意気込みや期待を知っているから、余計にスバル様の態度が許せなかった。

自然と、俺は手を挙げていた。松本君からマイクを引き継ぐ。

『お1つご質問させて下さい、ユウキ様。何故、我々の質問にお答えくださらないのですか?まっちゃ…彼の質問は、答えるに足らない質問だったのですか?』

俺の質問に、しかし、スバル様は反応しない。目まで閉じて、知らぬ存ぜぬを決め込んだ。

逆に、周囲が青い顔をする。もうやめろと、俺に向かって座るようにジェスチャーする奴まで現れる。

でもな…ここで止めてたまるか。せめて松本君の質問には答えて貰うぞ。

『ユウキ様は特区で人気のアイドルだとお聞きしました。アイドルである貴女なら分かる筈だ。ファンに反応して貰えない寂しさが。自分を認めて貰えない恐怖が。貴女なら分かってくれる筈だ!』

『ふんっ。偉そうに言ってくれちゃって』

俺の煽り文句に、スバル様が食い付いた。

良いぞ。もっと食らいつけ。

『何故です!?何故、我々の質問にお答えくださらない』

『決まっている。君達の様な劣等種と喋る必要が無いからだよ』

劣等種と来たか。随分と傲慢な子だな。

『どういうことですか?ファンに優劣が関係するのですか?貴女を慕う気持ちの方が、大切だとは思いませんか!?』

『だから、喋ったって意味ないだろ?どうせ君達、聞いてすらないんだから』

そ、それは…一理あるな。今も俺とスバル様のやり取りで、過半数は興奮状態だ。彼女の言いたい事も分かる。

だからって、無視は違うぞ。

『それは貴女を軽んじての事ではありません!尊ぶ気持ちが強過ぎるのです!それに、ちゃんと聞いている者達もいます。今も尚、貴女の声を求めている者がいるのです!』

少なくとも俺は聞いているし、松本君も何とか意識を保っている。

『ふーん。じゃあ良いよ。そこまで言うなら聞かせてあげるよ。僕の、歌をね!』

そう言うが早いか、スバル様は歌い出す。伴奏無しのアカペラだが、それが余計に彼女の歌唱力を際立たせていた。

アイドルと言う肩書きは伊達じゃない。顔だけで人気になったのかと思っていたよ。

感心する俺の前で、彼女はマイクを口元から離す。少しだけ高揚した顔で、こちらを見る。

『ふぅ。どうだい?僕の歌…って、もう誰も聞いちゃいないんだろうけどさ』

そう言って、皮肉な笑みを浮かべる彼女。

それに俺は『聞いてましたよ!』と声を上げる。

すると、彼女の目が一瞬大きくなる。

『えっ!?なんで、まだ、意識を保って…?まさか、他の男共も起きているのかい?』

『ええっと…それは…』

確かに、誰1人としてマトモに立てている奴はいない。松本君も「これは…最高ですぅ…」と歌の途中で昇天してしまったし、局員も全員座り込んでいる。鍛えられた彼らでさえも、意識があるのは数えるほど。

でも、

『俺は、聞かせてもらいましたから。いい歌でした。とても!』

俺は率直に意見を言うけれど、スバル様は『ふんっ』と鼻を鳴らす。

『適当な事を言うな。男に、歌の善し悪しが分かる訳ないんだ。男ってのは、ただ言われた事しか出来ない下等な生き物なんだからさ』

『なっ』

あまりの暴言に、俺は言葉が詰まる。その間にも、スバル様はため息と共に言葉を吐き出す。

『全く。僕は忙しいんだ。可愛い女の子達が僕の歌を待っている。だから、男なんて相手にしている時間は無いっていうのに』

彼女の様子は、何処か呆れていると言うか、本当に困っている風であった。俺達に酷い言葉を投げかけて、それで鬱憤を晴らそうとしている様には見えない。

これは…本当に俺達を劣等種だと思っているのか?男は劣っていて、歌なんか分からないと信じ込んでいるのか?

そう、誰かに吹き込まれていそうだな。

俺が特区の闇を感じている間にも、画面向こうのスバル様が動き出す。

『はぁ。もう十分だろ?僕はもう行くから…って?こっちから回線切っちゃいけないんだっけ?まぁ良いかい。次の予定もあるし。それじゃ、サイナラ』

ブンッとモニターがブルー画面に戻り、会場がその光を受ける。椅子に倒れ込む男達の顔が、より青く見えた。

「いやぁ。凄い慰問会でしたね。スバル様の生歌まで聞けちゃって」

「ああ、本当に凄い慰問会だったよ…」

ウキウキの松本君とは反対に、俺は疲れて息を吐き出す。

オトハ様の慰問会で慣れたつもりだったけど、他の女性のがこんなに酷いとは思わなかった。何を言っても素っ気ないし、分かる訳ないと取り合ってもくれない。まさに 暖簾(のれん) に腕押し状態だった。

こんなの初めて…いや、前に女性達から電話を受けた時と同じだ。一方的に罵声を浴びせられて、こちらが何も言う前にガチャ切りされた。あの時も最初から俺を…男を毛嫌いしていた。

そう考えるとスバル様だけでなく、女性はみんなそういう考えを持っているのかもしれない。

そう考えると…オトハ様の対応って、とても優しい部類だったんだな。蔑む様な目を向けてはいたけど、ちゃんと答えてくれたし。

鈴木さんは、もっとだけどさ。

「はぁ」

「お疲れですね、先輩。スバル様では満足出来なかったですか?」

しまった!つい、ため息を漏らしてしまった。

「済まん!まっちゃん。そう言う訳じゃないんだ。ただちょっと、俺には刺激的過ぎたと言うか…」

「分かってますよ。僕の為に、スバル様とバチバチやりあってましたからね。疲れるのも当然です」

確かにそうなんだが…今思うと、情けない事をした。相手はまだ子供だと言うのに。

「だから先輩。明日こそ楽しみましょう」

「明日?」

明日も何かあるの?と、松本君に視線を送ると、彼は「またまた」と笑った。

「明日は、オトハ様の慰問会じゃないですか」

…マジか。