軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第63話 フギンとフェンリルに続くもの 6歳 晩秋

晩秋、深いフィヨルドの谷間を、冷たい雨が静かに濡らす。

灰色の空から霧のように細かな雨粒が降り注ぎ、森の苔や落ち葉を鮮やかに際立たせる。

「父ちゃん、雨だねえ」

「そうだな」

「屋根を早めに作っておいて良かったね」

宿泊所は主柱と梁を建てた後、先に屋根だけを被せてしまっている。

長屋敷造りの特徴として、屋根の重量をほとんど全て主要構造だけで受け止めて、壁は後からの作業でも良いわけだ。

おかげで、壁造りの作業をする者たちは、宿泊所の出来上がった屋根の下で雨に濡れずに壁造りの作業に従事できる。

工事で出される食事目当てに、村中の女子供が集まったのではないか、というぐらい混雑した現場では、多くの枝が集められ、女衆により編まれている。

かと思えば、外では上着を脱いだ男衆が穴を掘り、泥を捏ねている。

宿泊所の壁は屋根の重量を支える必要がないので、細い柱を建てて間を編んだ枝で埋めて、その上から藁や家畜の毛を混ぜた泥を塗り込めるだけの方式だ。

構造の強さよりも断熱性を重視しているわけだね。

木が不足している島では、泥炭をレンガ状に干した後で積んでいるとか。

断熱性は高いかも知れないけれど、すごく火災に弱そうだ。

外が一面の雪に埋もれるから心配はないのだろうか?

大勢の女達が集まり、枝を編むような繰り返し作業が続けば自然と歌が始まる。

「暖かく 暖かく 枝を編めよ

厚く 厚く 泥を塗れよ

壁よ 冷たさを遮り

子どもらを 健やかに育め

家(ヘイム) よ 春に変われ 暖かく暖かく!」

「「ヘイムよ 春に変われ 暖かく 暖かく!」」

繰り返し繰り返し何度も歌われ、拍子に合わせて手も動かされ続ける。

母ちゃんやエリン姉も、一緒に歌ってる。

作業歌ってすごいね。そして楽しそう。

壁は、あとで消石灰を塗り込んで白く染めてもいいかもしれないね。

白い宿泊所ができたら、村に来た人達を驚かせることができそうだ。

オシャレな外観になるだろうし、村長婦人に相談してみようかな。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

「本当にこんなに作ってしまっても大丈夫なのか?」

「大丈夫です!必ず売れます!売れなければ僕が買い取りますから!」

子供クナトルレイク大会の準備も開催に向けてラストスパート。

僕はクナトルレイク用道具の発注に走り回っていた。

木工が得意なおじさんと、皮なめしが得意なおじさんに、クナトルレイクようのスティックと、盾の発注をかけているのだ。

「しかし、この数はなあ…数え間違いじゃないか?」

その数、なんと200!村の人数の半分よりも多い数だ。

普段は村の家族から1つとか2つの数した発注を受けたことがなかった職人のおじさんたちが生産を躊躇うのも無理はないよね。

「いえいえ。だって考えてみてもください。クナトルレイクは1チーム10人と交代4人です。もしも道具は貸し借りするとしても、1試合に20組の道具が必要になります。

それで、四ヶ村対抗ですから、当日だけでも最低でも40組分の必要です。さらに視察団が来ます。試合を見たら、必ず道具を欲しがります!

持ち帰って村で試合しようと思ったら2チーム分、つまり20組の道具が最低でも必要になります。余分の道具を欲しがる村もあるでしょう。200組じゃ少ないぐらいですよ!」

僕は熱弁した。男の子はみんな、スポーツの道具に目がない。

格好いいものさえ作れば、必ず欲しがるに違いないんだ。

「このデザインなら必ず行けますって!」

先払いで1本をサンプルに作ってもらったスティックを指差した。

1メートル強のオーク製のスティックは真っ直ぐかつ滑らかに削られ、黒いタールで輝かんばかりに塗られていて、いかにも強そうだ。手元は革紐が巻かれて滑りにくくなっており、先端はボールを保持しやすいよう2叉に分かれて間に縄が張られている。

「そしてこの盾!絶対にみんな揃いで欲しがりますよ!」

直径約50cm(1エル)の丸盾は、円形に組み合わされた木材と握り手、そして縁を柔らかい革で覆ってある。さらに表面には北欧神話をモチーフにしたチームエンブレムと顔料で色がつけてあるのだ!この盾を見てチームで揃えて欲しがらない男子はいない、と断言できるよ。

全組セットで欲しい、と言い出す大人がいても不思議じゃないね。

ボールだって、革のボールの中身を干し草でなく羊毛にしてある。これはまあ、見た目ではわからないかな…弾み方で違いがわかるんだけど。

「そういうものか…まあ買ってくれるというのであれば作るが…」

「絵を描く工程もあるので、急ぎでお願いしますね!」

出来上がりが楽しみだ。

僕は発注を済ませると、足早に家に向かう。

まだまだ考えることはあるからね。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

チーム数を増やすなら、チーム名も考えないといけない。

「どんなチーム名にしようかなあ…」

赤のフェンリル、青のフギンはもう決まり。

色と神話の組み合わせがいいと思うんだよね。

「そういうことは父ちゃんに任せろ!」

頼もしげに胸を叩くと、家から飛び出していってしまった。

いったい誰に相談するつもりなんだ…。

父ちゃん、まさか村内にフーリガンとか組織してないよね!?

しばらく後で父ちゃんが持ち帰ってきたチーム名を黒板にメモをする。

幾つかのチームは色が被っているけど、顔料の濃さとか、白縞、黒縞とかで色味を調整すればなんとかなりそう。

「黒のムニン、灰色のニーズヘッグ、金のスレイプニル…金!?そんなお金ありません。緑のヨトゥン、紫のヴァルキリー…紫とか顔料あったかな。銀のスコル、白のニーズヘッグ、青のヨルムンガンド…」

父ちゃんが仲間と出してくれたチーム名は、どれもなかなか格好いい。

チームエンブレムについては、以前に書いたフェンリルやフギンの評判も悪くなかったし、まあ僕が書くしかないかな。1セットだけ駆けば量産してくれるだろうし。

「絵が上手い職人さんがいればいいんだけどなあ」

絵を描くという非生産的な技能は社会が豊かであってこそ成立も上達もするものであって、小さな村ではなかなか描き手が見つからない。

別に著作権とか主張しないから、不満があったなら自分の村で描き手を見つけて書き直してもらえばいいだけだからね。

「ほう。なかなか格好いいじゃないか。トール、父ちゃんも盾が欲しいなあ」

「父ちゃん!大人用セットも、そのうち作るから!」

僕が絵を描いていると、横から父ちゃんが覗き込んでくる。

熱心なクナトルレイク支持者の父ちゃんの反応は、なかなか良い。

そして母ちゃんとエリン姉の目は冷たい。

近い将来、父ちゃんが大人用セットコレクションを壁に飾り、母ちゃんにどやされる様子が今から見えるようだ。

限定版商法とか始めたら、ひどいことになりそうな気がするな…。

家庭の平和のためにも、阿漕な集金商売はほどほどに抑えるようにしよう。