軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第152話 僕は戦争なんで嫌だから 7際 秋

シグヴァルド様からの王権反逆のお誘い。

もう根回ししてるからね!というお手紙が来ていた。

「いやあ…まだ時期尚早だと思いますよ」

「兄は勝てる、と見ているようですが」

「そりゃあ、戦えば勝てるかも知れませんが…」

僕は戦争のことはわからないし、地域における力関係もよくわからない。

ただ、戦争をすれば例え勝利しても被害は大きいこと、時間は僕達の味方であることは分かっている。

それと、父ちゃんを戦争に行かせたくないことも。

「引き伸ばしましょう。絶縁状を送るなんて以ての外です」

「ですが、他の20村は今年から税は払ったりしない、と決意を固めているように見えますが…それを今から引っくり返すのは容易ではありませんよ」

「全くシグヴァルド様と来たら、ほんとイデオロギー先行の思想家なんだから…」

シグヴァルド様は、頭が良すぎる人によくあるようにイデオロギーで先走るんだよね。おまけに行動力が高いから周囲の人を巻き込んでいく。

革命家とかに向いているタイプだ。

だけど世の中は革命家の思うように動かないのが常なわけで。

ここはちょっと知恵の絞りどころだぞ。

「うーん…ちょっと考えますね」

僕は少しの間考えてから、思いついたことを話した。

「そうだ。こうしましょうか?僕たちは襲撃の被害者なんです」

「ええ。結果的に被害はほとんどありませんでしたが」

シグリズ様の言葉を、僕は立ち上がり大げさな身振りで否定する。

「いいえ、それは違います!憎きアルンビョルンの襲撃によって村は焼かれてしまいました!ほとんどの家畜は殺され、村人の多くは飢えています!とても今年の税を払うことなんて出来ません!

ああ、いったいどうやって僕達は厳しい冬を超えたらいいのでしょう?

王よ、どうか哀れな我が村に寛大なお慈悲を!」

演説を終えて、すとん、と椅子に座り直したら何だかシグリズ様の視線が冷たい。

「…それで誤魔化せると?」

シグリズ様は疑うようだけれど、僕にもそれなりに計算があるのだ。

「大丈夫じゃないですか?だって未だに王からもトーレル卿からも、現地視察の使者の一人も寄越されていないじゃないですか。そもそも領地の管理とかしてないんですよ。うちの村の位置がわかっているかどうかだって、怪しいものです」

現王や家臣のトーレル卿は、どうもまともに領地を掌握していないように思える。

大きな街に有力家臣を据えて丸投げしているんじゃないかな。

行政文書がないので情報は人に紐づいているから、例えばアルンビョルンがいなくなれば地域の情報がごっそり消えてしまう、という統治に見えるんだ。

「それで我が村は目溢しされたとしても、他の村はどうしますか?」

1つの村なら見逃されたとしても20の村は見逃されないだろう。

それに対しても考えはある。

「ああ。悪辣で狡猾なアルンビョルンよ!奴は請願の村々を荒らし回り、焼き払い、家畜を奪いました。襲われた村の数は10以上にも及んだのです!被害に遭った村々は助けを求めました。そこへ友誼に富んだ20の村は、友人の村を再建するために多くの出資を行いました。とても税を払うだけの余力はありません!王よ、彼らをお救い下さい!」

なんかシグリズ様の視線がますます冷たいな。

ちょっと過剰な演技はやめようか。

「…こほん。つまりですね。この際アルンビョルンに全ての悪評を被せちゃいましょう。どうせ余罪の5つや6つありますよ。僕達の村の被害が最初なわけはありません」

「さすがにそれだけの数が被害に遭ったとなれば、調査のための使者が立てられるのではありませんか?」

シグリズ様の心配はわかるけれどもね。そこは北方社会式の解決をしようよ。

「1年か2年、ごまかせればいいんです。使者には行方不明になってもらいましょう。北方の海は、本当に危険ですからね」

証拠さえ残さなきゃいいんだから。

永遠に隠しておくつもりはないわけだし。

「それから、王と直接戦うことは反対です。当面は家臣のトーレル卿とだけ戦いましょう。そのために王とトーレル卿の不仲を煽りたいです。

そうですね…例えば、トーレル卿は広く領地を略奪して得た莫大な富を王に納めることなく独占している、反逆の意思があるからではないか、との噂を流すとか」

「…どうやって?」

あれ?北方社会ではそういう戦い方はしないのかな。

王と家臣の不仲を煽る噂を流す、なんて情報戦の初歩だと思うんだけど。

「王が今どこに住んでいるかな知りませんが、この秋と冬はどちらにせよ動けませんよね。王のいる街の交易商人も冬越で港で退屈しているでしょうから、金をやって面白おかしく、こちらで用意した歌を歌わせましょう。

ええと、これは確認なんですけどトーレル卿って地元で嫌われていますよね?」

「ええ。地元の有力者を焼き払って、王が押し込んだ家臣ですから」

「それは良かった。だったらトーレル卿のお膝元でも歌わせましょうか。

歌詞は直接過ぎると面白くないし弾圧されるでしょうから、例えば、灰色の狼の影で、忠実な犬が羊を食い尽くしているよ、とかなんとか。もしくは、忠実なのは表の顔。裏では谷に山ほど黄金を隠して船は重みで沈みそう、なんてのもいいですね。

要するに、トーレル卿は王に黙って略奪を行い富を隠している、と示唆したいのです。どうせ多かれ少なかれやっていることは事実でしょうから。

歌を広めるには20の村の力も借りましょう。宣伝は数がものを言います。多くの交易商人や有力者が宴で広めれば、それだけ世論は力を持つでしょう」

北方21星の大結束の強みの一つは、ネットワークだからね。

そのネットワークには物資を載せることもできれば、情報を載せることもできる。

だったら勝つために強みを最大限に活用しないと。

そうやって王の疑心をトーレル卿に向けるんだ。

「トールは…ずいぶんと怖ろしいことを考えるのですね。言葉の戦で勝とう、というのですね」

シグリズ様は僕の提案する策の悪辣さにすっかり怯えてしまっているようだけれど、そんなに怖がることはないと思うんだよなあ。

「僕はそもそも戦争が嫌いなんです。父を勝敗も分からない戦に長船で送り出すことを考えただけで、心配で胸が潰れそうになるんです。

ただ戦うからには勝たねばならないし、勝つにしても被害を抑えて勝ちたいです。

今の王様と家臣は、人望がありません。王様と家臣の間にも信頼がありません。

ですから、人望と信頼を攻撃するんです。

もしも王が慕われていて、家臣と厚く遊戯を結んでいれば僕の考える言葉の攻撃は強固な砦を攻撃するようなものです。簡単に跳ね返されて意味がないでしょう。

でも、今の王様とトーレル卿は長船を揃え戦士を増やすことには熱心であっても、人望と信頼を築くことには興味がなさそうです。

穴の空いた城壁や弱い鎖は狙われる。それが戦争というものだと思います」

北方社会では、弱いやつが悪い、という価値観が根付いている。

同じ言い方をするならば、王のくせに人望がない奴が悪いのだ。

本人の資質がどうとか言うより、王が中央集権の軍事政権を指向した段階で、地方有力者の人望が集まるわけがないのだから、解消できない構造的な弱点であるとも言える。

そして構造的な弱点があるのならば、戦でそこを突かないのは失礼と言うものである。

「ええと、つまりシグヴァルド様はこのように返事をしましょう。

大方針として時間を稼ぎます。

そのためにアルンビョルンを悪者にして被害がとても大きかったことにします。

王とトーレル卿を仲違いさせます。

そのために全ての伝手を使い港や酒場や宴で不仲を煽る歌を歌わせます。

以上、協力を願います。

…こんなところで、どうでしょう?」

「…夫とも相談しますけれど、そのように返事をしておきましょう」

僕の一連の提案を聞き終えたシグリズ様は、トール…怖ろしい子!という顔をしていたんだけれど、甚だ不本意なのである。

僕は戦争なんて大嫌いだから、仕方なく戦わずに勝つための知恵を絞っているというのに…。

全部、アルンビョルンが悪いのだ。

そういうことにしておこう。