軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17. リモンリモンリモン!(前)

集落や村で定期的に休養を挟みながら、順調に旅を続けること数日。

いつの間にかロート川とは道が分かれて、今は森のなかを進んでいる。

山と言うほどではないが、多少の起伏があるので、話すのもままならない。

大人は我慢できるが、まだ3歳児にお話ししない・動かないと言うのはなかなか酷だ。

おもちゃや手遊びでなんとか気を逸らしているが、そろそろ退屈でぐずりそうだ。

(そろそろ小休憩にしてもらって、外で少し遊ばせた方がいいな…)

そう考えていると、しばらくして視界が開けて少し先に村が見えた。

「坊ちゃん、今日は少し早いですが、あの村で宿を取りやす」

「わかった」

村に近づいていくと、風にのってふっと柑橘っぽい匂いが漂ってきた。

何かと思って外を見ると、見渡す限りたわわに実ったレモン畑があった。

「わーーー!すごいっ!レモンだ!」

「おお。坊ちゃんはリモンを知ってるんですな」

(おっと、この世界ではリモンって言うのか。気をつけなきゃ)

「うん。商会で昔聞いたことがあるんだ。爽やかな甘酸っぱさと香りで癖になるおいしさだって」

「ははは。そりゃあ確かに。ここはリモンが特産ですから、今晩の食事にも出るかと思いますぜ。楽しみにしててくだせえ」

ドニは人の悪い顔でニヤッとしている。

きっとリモンを初めて食べるぼくの反応を楽しもうとでも思ってるのだろうけど、残念。知ってるんだな。

それにしても、レモン…いや、ややこしいからリモンでいいか。リモンがあるとは思わなかった。ぜひ、しばらくは困らない程度に買っていきたい。

リモンは、そのまま食べてもいいし、食材として料理に入れてもいい。それに、塩リモンや、山椒や唐辛子っぽい風味のハーブと合わせれば、調味料にもできる!

砂糖やはちみつが簡単に手に入るのであれば、ジャムにしたりシロップにしたりと、もっとバリエーションが広がるのに…。いや、ないものねだりをしてもしようがない。

「ドニ、できればリモンをいくらか買っていきたいんだけど、時間あるかな?」

「へえ。そうですね。この村に2〜3日滞在しやしょうか。リモンなら、早朝から昼過ぎまで村の広場にマルシェが立ちやすから、そこで買えますぜ。ここは大きな村ですから、ついでに馬を休ませたり、馬車の点検もやっちまいやす」

「いいね!そうしよう」

思わぬ拾い物に、ぼくはほくほくした気分だった。

その日の夕食は、リモン尽くしだった。

リモンが特産ということで、その食べ方を広める意味もあるのだろう。村に唯一の食堂はとても賑わっていて、仕入れに立ち寄った商人らしき姿も多かった。

ちなみに、リュカにリモンはまだ刺激が強いので、幼児用にリモン抜きの料理を注文済みだ。

そうして、まず一品目に出てきたのは、リモンと冬野菜のサラダだった。

「「「「いただきます(いたっきまっちゅ)」」」」

まずはぼくがサラダを取り分けて食べ始める。

大人たちはちょっとニヤニヤして見守っているが、ぼくが平然とリモンを食べたのをみて、面白くなさそうに自分たちも食べ始めた。

(そうおもちゃにはならないぞ)

サラダは、火を通して焼き色をつけたネギや冬キャベツ・蒸した根菜・ディルなどのハーブ数種類に、リモン果汁・塩・オイルを入れて混ぜただけだが、頬ばると良い香りが鼻を抜け、次にリモンの酸味と野菜の甘さがやってくる。美味しい!

この耳の下がきゅっとなる感覚もいい。

瞬殺でサラダを食べ終わると、次に大皿でどーーーんとでてきたのは、リモンのクリームパスタだった。

すりおろしたレモンの皮がミモザの花みたいに鮮やかで、とても綺麗だ。

食べてみると、クリームの滑らかさで酸味がかなり和らいでいて、おそらく隠し味のガーリックとチーズが良い仕事をしている。

クリームソースをパンで拭って食べるのも、また美味しい。

「いやー。これもうまいっすね!さっぱりしてるから、いくらでも食べられそうっす!」

「俺は酒といえばエールなんですがね、これは白ワインが飲みたくなる味ですぜ」

「…酒」

「いや、流石に護衛仕事中なんだから、酒は飲むんじゃねえぞ」

「団長が酒なんて言うからじゃないっすか!そんな堅いこと言わずに、一杯二杯くらい良いじゃないっすか!」

「(こくこく)」

大人たちは酒欲が刺激される味だったのだろう。酒を頼む頼まないで揉めている。

「はあ〜。仕方ないな。ワイン1本だけ注文して、3人で分けて飲めばいいよ。それくらいなら酔わないでしょう?」

ぼくがそう言うと、大人たちはぱあっと顔を輝かせた。

「「「さすが、坊ちゃん!」」」

なんだかんだ、全員飲みたかったのだ。現金なものである。

リュカはそんなダメな大人たちに目もくれず、もりもりと食べている。膨らんだほっぺがかわいい。今日もいっぱい食べて大きくおなり。

次に、酒と一緒にきたのは、リモンと肉の煮込みだった。

肉は猪とか鹿だろうか。鶏肉ではなく何かのジビエだった。王都は肉といえばほぼ鶏肉だったので、初めて食べた。

少し臭みはあるが、リモンの香りでそこまで気にならないし、ちょっと辛いハーブとバターのコクもあって、ガツンと食べられる。

(リモンバター!その手があったか!)

全然考えていなかった使い道に、ぼくは俄然リモンを買わなくては!という気持ちになった。まんまと食堂の目論見通りになってしまっている。

ぼくもリュカも、ここでおなかいっぱいになったのだが、大人たちはまだ少し食べ足りないようで、チーズや麦のリゾットを頼んでは、ばくばく食べていた。

それなのに、ワインはちょびちょび飲みなのは、少し可笑しかった。

そうして、綺麗に食べ尽くして、やっと全員がおなかいっぱいになった。大満足の夕食だった。