軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18. リモンリモンリモン!(後)

翌朝、宿で朝食を済ませ、ぼく・リュカ・ドニの3人でマルシェにやってきた。

チボーとブノワは、馬や馬車の世話があるので別行動だ。

村のちょうど中心地にある広場で開かれているマルシェは、規模は小さいが、仕入れで訪れた商人や村民で賑わっていた。

(石畳だし、人も多いから、リュカは抱っこしておいた方が良いかも)

そんなことを考えていると、ドニがおもむろにリュカをひょいっと抱えて肩車した。

「きゃあああああ、たかーい、しゅごーい!!」

リュカは、初めての肩車に興奮してきゃーきゃーはしゃいでいる。

がっしり筋肉質な大男のドニの肩車は、安定感があってさぞかし眺めが良いだろう。

「これならリュカ坊ちゃんが迷子になる心配もないですし、ルイ坊ちゃんもマルシェを楽しめやすでしょう」

「…そうだね。ありがとう」

リュカは父親という存在を知らない。それは仕方のないことで、今まではさして気にしていなかったが、この喜びようを見ると胸がもやっとする。

まだ子どものぼくでは、父の代わりに肩車をしてあげることも、高い高いをしてあげることもできない。

(…これからはいっぱいミルクを飲もう)

幸い、父さんは大柄な体格だったので、望みは十分にあるはずだ。

ぼくは密かにそう決意した。

気を取り直して、マルシェを見て回る。

特産なだけあってリモンが主だが、それ以外にも冬野菜やチーズ、焼きたてパン、干したハーブ類、ワインなどの酒、手仕事の工芸品など、色々売っていた。

気になるものが多く、物欲を刺激されるが、まずはお目当てのリモンだ。

一際賑わっているリモンを売っている店に行くと、「朝採れだよ、食べてみな」と店員のおじさんが一口味見させてくれた。

ぼくとドニは遠慮なく、皮ごといただく。

朝採れリモンは爽やかな香りが強くて、噛むとじゅわっと果汁が溢れてくる。酸っぱい!美味しい!

顔をきゅっとするぼくたちを不思議そうに見ながら、リュカもリモンをぱくっと食べる。

昨夜は結局リモンを食べなかったリュカだが、今日はせっかくの機会だし、一切れならものは試しだと、食べさせることにしたのだ。

…それに、初めてリモンを食べるリュカの反応が見てみたいというのもある。

さて、食いしん坊のリュカは、さすがにリモンは拒否するのか、それとも泣くのか。

楽しんでしまっているにいにを許しておくれ。

見守っていると、リュカは2〜3回もぐもぐして、ピタッと動きを止めた。

そして、目にうっすらと涙を浮かべ、顔をくしゃりとさせると…

「ひやぁ〜〜〜、ちゅっぱ!」

と叫んだのだ。

これには思わず、笑ってしまった。すごく良い反応だ。

ぼくだけではなく、ドニやリモン店のおじさん、周りのお客さんもくすくすしている。いつの間にか視線を集めてしまっていたようだ。

「くくくっ…リュカ、リモン美味しい?ごくん、できる?」

「ちゅっぱ!にぃに、ちゅっぱ!」

「っふふ、そうだね、ちゅっぱいねっ…」

しきりに酸っぱいアピールをしていたリュカだが、吐き出すことなく、ちゃんともぐもぐしてごっくんした。

ぼくが口直しに水を飲ませようと準備していると、リュカがまた叫んだ。

「もっと〜〜!」

これにはさすがに驚いてしまった。

「え、リュカ、もっと?リモンを?」

「りもん、もっと〜!」

「ええええ。嘘でしょう?酸っぱかったよね?」

「ちゅっぱあ、おいちい!」

「うそ〜〜〜」

その様子をみていたおじさんが、特別にリュカにもう一切れくれた。

リュカはお利口に「ありあとー」とお礼を言って、食べている。

また酸っぱさにきゅっとなっているが、本当に食べられるようだ。

(リュカは意外と渋い趣味だったんだな…)

おじさんにお礼を言って、その店でリモンを1箱買う。あとで宿に届けてくれるとのことだったので、お願いして店を後にした。

その後も、マルシェでお店を冷やかしつつ、チーズなど気になったものを購入していく。

そろそろぐるっと1巡したので終わりかと思ったところで、思ってもいなかったものを見つけた。

リモンのはちみつだ!

ひっそりと物陰に、瓶詰めが少し置かれているのを見つけたのだ。

あれだけのリモン畑であれば、確かにはちみつもとれるだろう。とろりとした黄金色がとても綺麗だ。

お値段はやはり高いが、産地だからか買えないほどではないし、ここで買い損ねたらいつ手に入るかもわからない。

買い占めたい気持ちをグッと堪えて、大瓶で3つ購入した。

宿に帰るとちょうどお昼時だったので、チボーたちと合流して食堂に向かう。

メニューを選んでいると、デザート用の剥き身リモンを見つけたので真っ先に注文してしまった。

はちみつが手に入ってからずっと、ホットリモンが飲みたくて仕方なかったのだ。

リモン果肉を少し潰して、こっそり手持ちのはちみつを垂らし、熱々のお湯を注いで混ぜて完成だ。

はちみつは量が限られているので、ぼくとリュカの分だけだ。大人は知らん。

湯気が顔に当たる。鼻をくすぐる甘酸っぱい匂いを楽しみながらホットリモンを啜ると、朝からマルシェを動き回って疲れ、冷えていた身体に酸味と甘味が染み渡った。

「あ〜〜〜、美味しい〜」

「にぃに、おいちい!」

リュカも、少し冷ましたホットリモンを気に入って、ぐびぐびと一気に飲んでしまった。

本当にひさしぶりの甘味の余韻に、ぼくはうっとりする。

そして、気が緩んでしまったからか、ふと思ったことを何気なく、言ってしまった。

「リモンってワインで割ったり、酒に漬けたりしても美味しそう」

「「「!!!」」」

ぼくの独り言のような言葉に、ギランと大人たちが目をぎらつかせて、こちらを見てくる。普通に怖い。

「…坊ちゃん、それはどういうことで?」

「え、いや…白ワインにリモンとお好みではちみつ入れて飲んだり、酒精が強いお酒にリモンとはちみつを漬け込んで、水が出てきた頃にそのまま飲んだりお湯で割ったりすると、美味しそうだなー、なんて。あはは…」

「なんすか、それは。めちゃくちゃ美味そうじゃないっすか…!」

「(こくこく)」

今にも飲みたいです、と顔に書いてある大人たちにため息が出る。

「…ぼくのはちみつは分けてあげられないから、食堂に別料金で用意できないか交渉してみたら?」

ぼくのその言葉に、大人たちが我先にと店員に詰め寄り、なんとかはちみつ入り白ワインリモンを作ってもらっていた。

一口飲んで、その美味しさに目を輝かせている。

人が美味しそうに飲んでいるのを見ると、他の客も試してみたくなるのは仕方がないことで、メニューにないはちみつ入り白ワインリモンのオーダーがあちこちから入り出してしまった。

…なんというか、ご迷惑をおかけして、大変申し訳ない。

その後、はちみつ入り白ワインリモンや、店員がちゃっかり聞いていて研究に研究を重ねたリモンの火酒がこの村で大流行し、新しい名物となるのはまた別のお話。